特訓!!
最近、特撮でも特訓シーンが復活の時を迎えていますね。仮面ライダーゴーストではネクロムが。ウルトラマンXでは大地が。スーパー戦隊でもそろそろやらないかな。
ピコンピコンと心電図の音が、意識を失っている彼がただ眠っているだけなことを教えてくれる。水城さんとの戦いで意識を失ってから既に三時間。私はただ、眠り続けている和也を見守り続けていた。
「おーいヒカリ。そろそろ帰らんか?待ってたところで起きんじゃろ」
「帰りたいなら一人で帰って。私は、せめて和也が起きるまでは待ってるから」
「…なんじゃい。いっつもいっつも小僧のことばかり。あーそうか。じゃあ、ワシは上に居るでの」
ひょっこり顔を見せて来たおじいちゃんが、それだけ言い残して部屋を出ていった。私が和也ばっかり気にしていることに拗ねているんだろうけど、まあおじいちゃんは放っておいても大丈夫な人だし。
そう言う訳で、今は眠っている和也のことの方が心配だった。
「子供みたいな寝顔…」
思わずそう呟くけど、眠りこけている和也の横顔に一筋走る傷跡を見て思わず息が止まる。
和也は、本当なら戦う人なんかじゃない。この傷だって、昔の事故でついちゃった傷だった。この戦いとは一切無関係なはずなのに、まるでこの傷は和也が戦いに生きている人間だと思い知らせているように見えてしまった。
ふと頭をよぎったそんな想像を振り払い、私は気持ちを落ち着かせようと予備の菓子パンを食べる。いつもはこうしていると不安なこととか、嫌なことは大体忘れられるのに、今回だけはそうはいかなかった。
(ダメダメ。私がこんなことを考えちゃダメ。和也はあくまで、私達に巻き込まれているだけなんだから)
本当ならこの戦いは、和也とは関係無い所で私達天龍寺グループが『JACK』と戦っていたはず。和也は変なところで首を突っ込み過ぎた自分の自業自得だったって言っていたけど、巻き込んじゃったのは私とお父さんだ。それなのに、実際に血を流して…こんな大変な思いをして戦うのは和也だけ。こんなのはおかしいんじゃなだろうか。
お父さんのUSBメモリに残されていたビデオレターを見たあの夕方に誓ったはず。せめて、自分の荷物くらいは自分で持てるくらいに強くならないと。
私は密かにそう決意すると、寝ている和也のベッドに食べさしの菓子パンを置いて立ち上がった。
さっきおじいちゃんは上で待っているって言ってたから、行き先は多分プライベートルームだと見当を付けて向かう。いざプライベートルームに入ってみると、予想通りおじいちゃんがふて腐れた顔でお酒を煽っていた。ついこの間、お酒で大失敗したことをもう忘れているらしい。
「おじいちゃん」
「んあ?ヒカリ?どしたぁ?やっぱり、あの小僧よりもワシの方が…」
「とりあえず、アルコールを抜いてくれる?大事な話があるの」
私の真剣な眼差しに押され、おじいちゃんはお酒の瓶を背中に隠した。私はそんなおじいちゃんの姑息な隠し方にため息をつきつつ、色々とトラウマな和也直伝の水ぶっかけでおじいちゃんのアルコールを抜いた。
「うっぷ。それで、何じゃ。まさかあの小僧と仲良くせいだなんて言うんじゃなかろうな?先に言っておくが、無理じゃ。あの小僧の全てが気に食わん」
「今更そんなのお願いしないよ。お願いしたいのは、和也を手伝えるような装備が欲しいの」
「は?」
おじいちゃんは真顔で首を傾げて来た。だけど、私は怯まずに真っ直ぐ見つめて頷いた。
「もう私も和也も、おじいちゃんが言ってた『JACK』とか言う奴らに狙われていくのは避けられないんでしょ?だったら、和也だけに守られ続けていくのは駄目だよ。私も、何かバックアップしたい」
「ば、馬鹿なことを言うんじゃない。お前はワシのたった一人残された孫娘だ。そんな可愛い孫娘を、危険な目に合わせるわけにはいかんぞ。あの世で婆さんに八つ裂きにされてしまう」
おじいちゃんは心底震え上がりながら言い切った。だけど、私も引く気はない。まだお酒臭いおじいちゃんに詰め寄っていく。
「今戦っているのは和也だけなの。敵はどんどん強くなっていくし、今日だって和也は勝つのがやっとだったんだよ?せめて、バックアップする人材は必要でしょ?」
「だが、それがお前である必要は無いだろうに!必要とあれば、ワシが何人か必要な人材を見繕って…」
「そんなの待てない!それに…」
私はそこで思わず言葉が途切れる。おじいちゃんが不思議そうに顔を覗き込んでくるけど、私はそれを遠ざけて続けた。
「この戦いは私達の戦いでしょ?お父さんが始めて、おじいちゃんが引き継いで…なのに戦っているのは和也だけじゃない!」
「そ、それはそうかもしれんがな…」
「おじいちゃんは和也が嫌いかもしれないけど…これ以上和也に私達の荷物を押し付けていいはず無いよ。だから…」
私の言葉に、おじいちゃんの目が揺らぐ。私達の荷物は、出来る限り私達で持つべき。それくらいは、おじいちゃんも分かっているはずだった。
暫くの間沈黙が続く中で、おじいちゃんはやがて静かにそっぽを向いた。
「…好きにせい。ただし、出来る限りの安全対策は取らせるからの」
「うん!ありがとう、おじいちゃん!!」
呆れた様な、折れた様な、喜んだような。おじいちゃんの顔からは何の感情も読み取れなかったけれど、私はそれでも嬉しかった。
目が覚めた時、一番最初に俺が見た物は真っ白な天井だった。
「…知らない天井…って訳じゃないな。知ってる天井だ」
何度か既に目にしているはずの天龍寺グループ特別施設の天井だ。つまり、俺は水城さんを止めることが出来たがすぐに気絶してしまったと言うことらしい。
「強かったけど…だからってすぐ気絶してりゃ世話ねえな。これじゃヒーロー失格だぜ。全く…」
思わず自嘲するように呟く。確かに、水城さんが変身した白鳥怪人はめちゃくちゃ強かった。恐らくナノマシンのアップグレードの前と後じゃ天と地の差があった。そして何より、公園で戦った個体から考えれば、あのクラスの化け物がどんどん機能をアップグレードして強くなっている上、ある程度の量産がされていることが問題だろう。これじゃあ、どうやって勝てばいいのやら。
「…特訓だな。うん。それしかない」
自分の拳を睨みつけ、俺は密かにそう決心する。
「ん?」
その時、俺はふと手元に置いてある食べさしの菓子パンを見つけた。
「ヒカリのか?なんで食いさし置いていくかな。全く」
俺はそう呟きながら、ヒカリの食いさしを袋に包んで立ち上がる。途中で本人が居れば渡すし、居なければ保管してもらおう。流石にヒカリの食いさしを食べる勇気はない。
そう思いながら特別施設の廊下を歩く。特訓すると決心したはいいが、だからと言って何をすればいいのかさっぱり分からない。こういう時に漫画やアニメ、特撮の知識を持ってすれば、特訓の内容など軽く十種類ほどは思いつく。立花さん辺りに協力してもらって、採石場で崖の上から石を転がしてもらうか、それともジープで追いかけまわされてみるか。
いや、そのどっちも実際の訓練にはなってないらしいしな。暇な学者さんが調べた結果、ただ体を虐めているだけだったと言う結果が出たらしい。あれをやるくらいなら、普通に武術を習った方がマシとのこと。
「うーん。でも、考えてみれば向こうは正規の武術を吸収しているんだよな。だったら、こっちも…?」
そう思いながら足を踏み入れた場所は、新しい水城さんの隔離室の観察室だった。
「あ、和也君。目が覚めたんですね。ヒカリお嬢様は?」
「お嬢様なら、これ。はい」
「はい?」
俺に手渡された菓子パンの食いさしに研究員さんが首を傾げる中、強化ガラスの向こうの水城さんはベッドに腰かけて目を閉じている様だった。
「水城さんは?」
「どうやら、さっきので自分の『病気』がシャレにならない物だと分かっちゃったみたいです。また意識が飛んで暴れ出しちゃうか分からないって思いで不安なんじゃないでしょうか」
研究員さんの言う通り、水城さんの手は軽く震えていた。まあ彼女の境遇を考えたら当たり前の反応かもしれないな。俺だって初めて変身した時は怖かったし。
「不味いですよね。心理的に不安定な状態だとナノマシンが活発になってしまうみたいで、さっきから危険域を行ったり来たりです。落ち着かせようとはしたいですけど、下手に介入するとまた心に負担が掛かっちゃいますし…」
「なーるほど。でも、大丈夫ですよ。イマジネーターは一度変身したら暫くは変身できませんし。今ならまだ間に合います。色々と都合もありますし、開けてくれます?」
「ええっ?」
研究員さんが驚愕の表情で俺を見て来た。まあ、俺自身がとんでもないことお願いしてるって分かってるんだからしょうがないけどさ。
「ここで不安感を少しでも抑えておいた方がいいですよ。このままエネルギーが溜まったら、また変身して大暴れしますって。だったら…」
「そ、そう言うことなら、会長の許可が…ええと、内線で…」
研究員さんが内線電話で爺さんに連絡を付けようとするが、どうやら爺さんも取り込み中らしく電話に出ない。
「出ませんね…」
「繋がらないならしょうがない。現場の判断を優先しましょう」
「ええっ!?ちょ、ちょっと!!」
「いいじゃないですか。どうせ爺さん、俺の判断だって言ったら反対するんだし」
「そ、そんなことは、多分無いと思いますよ?あ、ちょっと…」
研究員さんが止めるのも構わず、俺は見よう見まねで隔離室の扉を開ける。研究員さんは頭を抱えながら止めようとするけど、俺はそんなの気にせず隔離室に向かって走っていった。
「悪いと思ってますよ。爺さんに何か言われたら、俺が力ずくで勝手にやったって言っておいてください。それじゃあ」
「あ、待って!!」
研究員さんの声が扉に遮られ、俺はそのまま隔離室の中に足を踏み入れる。扉が開いたことに気づいた水城さんが顔を上げ、俺だと気づいて顔を真っ青にした。相当なトラウマを刻み付けてしまったらしい。
ただ、こっちとしてもここは引き下がれない事情ってものが出来てしまった。
俺は出来る限り笑顔を見せて水城さんの元に近寄る。
「あ、葦原君…その、近寄らないで」
「そう言う訳にはいかなくてね。ちょっと、頼みがあるんだ」
俺はそう言うと、水城さんに頭を下げた。
「頼む。俺に、剣道を教えてくれ」
感想待ってます。




