アップグレード
戦闘シーン多め。まあ、描写が悪かったり分かりにくかったりしたらアドバイス下さい。
「剣道は…続けられない?」
「そりゃあな。今の水城さんのパワーは普通じゃない。竹刀でだって、防具越しでも人の頭をかち割れるさ。そんな状態で剣道を続けりゃ、フェアとかアンフェアとか以前に危険すぎるだろ」
「そっか…そうだよね…」
自分の胸を抑え、水城さんは動揺した様子で呟く。その表情からではどんな感情を抱いているのかは分からない。だから多分、剣道を続けられないことへの恐怖とかだろうな、と勝手に想像していたが、その時ふと水城さんの呟いた良かった、と言う言葉を聞いて俺は自分の耳を疑った。
「えっ?」
今、良かったって。ナノマシンで強化された聴覚が聞き取った。間違いなく良かったと言っていた。
思わずどうして、呟くと、水城さんが慌てた顔で首を傾げた。
「なに?何か変なこと言った?」
「いや、別に…」
水城さんはあくまで何もなかったような顔で返してくる。その様子から、今の一言は彼女にとってはかなりデリケートな問題なんだと分かった。もしかしたら、最初の発端だった剣道でのスランプの原因とやらはこの辺りにあるのかもしれない。
ただ、今はそのことを聞き出せるような雰囲気でもない。この話題ひとまず置いておいて、本題に入るとするか。
「今日は聞きたいことがあったんだ。その病気だが、感染源はどこかって話だ」
「感染源…」
「ああ。水城さんも分かっていると思うけど、ばら撒かれていい病気じゃない。下手すりゃこの街全体の治安が目も当てられなくなる。そうなる前に感染源とルートを調べておかないといけないって訳だ。どこか思いつくところはないか?例えば…病院とか」
水城さんの指がピクリと動く。これは覚えがあるな。
実を言うと、大体の事情は既に把握している。彼女のスマホを天龍寺グループが調べた結果、あの依頼があった前日…つまり、爺さんが日本に帰って来た日。彼女のスマホには真赤蘭大学病院から治験のアルバイトの誘いが来ていた。
どうやら身体機能や精神面での弱体化を抑える新薬の治験だと唆されたらしい。どこからどう見ても怪しい誘いだが、まあそれなりに名前のしれてる大学病院の名前はおろか、建物まで見せられては疑う気持ちも薄れてしまったのだろう。
「病院…そう。そうよ。私は、スマホに届いたメールの治験の誘いに乗って、病院に行って…それで…」
「その病院…もしかしなくても、真赤蘭大学病院じゃないか?」
「ううっ!?真赤蘭…治験…」
水城さんが頭を抱えて蹲る。やっぱり、記憶を操作されているらしいな。だが、そうなると彼女自身への負担が問題になる訳だ。
『和也君、彼女の脳波が異常波形です。ここは一度出て下さい』
「それしかないですよね。これ。早く開けて…」
「ああっ!!」
その時、水城さんが悲鳴と一緒にあのイマジネーターの姿に変身した。
「早くしてって言ったのにさぁ…」
こうなったからにはやむを得ないな。懐から原稿用紙を取り出し、炎に変える。炎を浴びた俺はコミックマンへと変身し、右腕の刀で斬りかかって来る水城さんを受け止める。
「シャアアアアアアアアアッ!!」
「正気は…無さそうだな。残念だけど」
受け止めた刀を力づくでへし折り、渾身の右ストレートを叩き込む。元の水城さんには申し訳ないけど、ここで止めないと色々と面倒なことになりそうだしな。
吹っ飛んだ水城さん…と言うか、白鳥怪人は二・三歩後ろに後ずさるも、すぐさま右腕の刀を再生して今一度斬りかかって来た。
「おっとぉ!?再生は俺の専売特許だっつーのに」
強烈な突きをギリギリで避け、前蹴りを叩き込む。しかし、今度は白鳥怪人に耐え抜かれてしまい、そのまま投げ飛ばされてしまった。
「がっ!!」
今は真っ暗な隔離施設の強化防弾ガラスに投げつけられ、ガラスに嫌な音を立ててヒビが入る。不味いな、と思って体制を整えようとするより先に、白鳥怪人のドロップキックが俺の胸部に叩き込まれた。
「ちいっ!!止めろよ、このガラスいくらすると思ってるんだ!?」
背中でまたしても嫌な音が聞こえたことを愚痴るも、白鳥怪人はそんな俺の事など知ったことじゃないと言わんばかりに刀で突きさして来た。
刀が俺の腹の辺りを貫通し、そのまま後ろの強化ガラスも貫いた。
「きゃああああっ!!」
久しぶりの腹部貫通の激痛に耐えつつ、ヒカリたちの悲鳴が後ろから聞こえて来たのを感じて何とか手を動かす。
「うぉりゃああああ!!」
右腕の刀をもう一度へし折り、そのまま釘付けにされていた自分の体を無理やり起こして白鳥怪人に頭突きを叩き込む。腹と背中から一瞬血がドクドクと流れ出ていったが、ナノマシンの力ですぐに傷も塞がる。一瞬で傷が治る奇妙な感覚に吐き気を催しつつ、俺はもう一発、と渾身のハイキックを白鳥怪人に叩き込んだ。
「シャアアアアアアアアアッ!!」
「はあ…はあ。ったく、しぶてーな。おまけにまともな会話も出来ねえんじゃ、挑発すら出来やしねえ。戦い甲斐のない敵だよ、水城さん…!!」
白鳥怪人は俺の言うことなど理解していない。そうと分かっていても、何とか頭に思いついた軽口で挑発してみるが、何だか一人っきりで犬相手に話しかけてるような寂しい気持ちになってしまった。
そんな自分に思わずため息を付いていると、白鳥怪人の様子が少し変わった。右腕の刀が再生するのはいつものことになってきてしまったが、今度は何と足腰が少しずつ膨れ上がり始めている。まるで、この間倒した同型イマジネーターのように。
「おいおい、まさか…」
白鳥怪人は足を踏ん張り、腰を落とす。そして刀を構えたまま高速でタックルを決めて来た。
「やっぱりかよぉぉぉぉぉ!!」
タックルを避けきれず、刀が再び俺の腹を突き刺さる。本日二度目、通算三度目となる腹から背中まで貫かれた感触と痛みに悲鳴を上げつつ、何とか動きを止めようと足を踏ん張る。だが、強化された白鳥怪人の足腰は傷ついた俺の力では抑えきれなかった。
どんどん押し切られ、最後には俺ごと突っ込んでいった白鳥怪人のタックルで強化ガラスが粉々に砕け散った。
背中には粉々に砕け散った強化ガラスの衝撃、腹には突き刺さった刀の痛み、そして真正面には白鳥怪人のタックルをくらったダメージ。
「和也!!」
普通なら即死級の三つのダメージを一度に受け、一瞬俺の意識が飛ぶ。しかし、ヒカリが俺を呼ぶ声を聞いた俺は何とか意識を手繰り寄せ、空中で白鳥怪人を蹴り飛ばして距離を取った。
「和也、大丈夫!?」
「大丈夫さ。それよりも…あーくそっ。隔離室をぶっ壊したって、爺さんに叱られちまうぜ」
心配して駆け寄ってきてくれたヒカリを制して、俺は何とか立ち上がる。既に白鳥怪人は立ち上がっていたが、その様子はどこかおかしい。
「不味いです!電波遮断装置が完全に壊れました!!イマジネーター、機能をアップグレードしています!!」
「何だって!?」
震えながらもモニターで確認をしていた研究者さんが叫ぶ内容に、俺はヒーローにも関わらず思わず舌打ちしてしまった。
「どんどん強くなっていっているって訳か…ここで止めるぞ!!ボードブレード!!」
左腕のガントレットからボードブレードを取り出し、構える。見れば、白鳥怪人は右腕の刀だけでなく左腕にライフル銃のような物を出現させている。一体どこまでアップグレードしたいるんだか。
「ちょっと待っててください!上の階に、予備の電波遮断装置がありますから、それを起動させてきます!!お嬢様も、早くこっちに!!」
「だそうだ。だから離れてろ、ヒカリ」
「う、うん。気を付けてね…」
「そっちこそ、気を付けろ。怪我するなよ」
ヒカリがちゃんと研究者さんと一緒に避難していくのを見届けた俺は、まずは白鳥怪人が撃ったライフル弾をボードブレードで弾いた。
「フォースが無くても出来るんだなこれ。知らなかった」
ナノマシンで強化された動体視力や反射神経でライフル弾の軌道を読み、ボードブレードで弾き落としていく。次第に慣れていって、今度ははじき返すことも出来るのではと思ってやってみれば、ライフル弾は白鳥怪人の肩の辺りに当たってくれた。
「やってみるもんだ。さて…」
ライフル弾をはじき返されて、あからさまに動揺する白鳥怪人。まあ、元が人間なんだから予想外の展開についていけなくて混乱することもあるんだろう。この特性が他の個体にアップグレードで削除される前に倒しておかないとな。
その時、今俺たちが居る部屋の中にアラームが鳴り響き、変化を続けていた白鳥怪人の変化が止まる。どうやら電波遮断装置が復活したらしい。
「こっからは俺の筋書き通りに従ってもらう!!飛べっ!!ボードブレード!!」
とりあえず、ボードブレードをそのまま滑空させて白鳥怪人の体を貫かせる。今まで散々から人を針山みたいに扱ってくれたんだから、一発くらいお返しさせてもらおう。
腹部貫通と言う大ダメージを負った白鳥怪人の動きが止まる。しかし、それでも変身は解除されない。
「いい加減、元の水城さんに戻れよ…!!」
動かないことをいいことに、俺は全力疾走で近づいてからの全力パンチで白鳥怪人を元の隔離室に殴り飛ばした。吹き飛ばされた白鳥怪人はベッドの上に背中から着地。あれじゃあ追加ダメージは望めそうにないな。
「おりゃっ!!」
しょうがない。気は進まなかったが、俺は大きくジャンプして飛び上がると、ベッドの上で悶える白鳥怪人の上にのしかかり、人間でいう所の鳩尾にもう一発パンチを叩き込んだ。
「がっ…!!」
白鳥怪人はまるで人間のような悲鳴を上げ、一瞬だけびくりと震えたかと思えば元の水城さんの姿に戻った。しかし、ナノマシンの気配は完全には消えていない。
このままだと、また暴れることだろう。何とかしなくては。
「うっ…くっそ、疲れた…」
そう思ったのもつかの間。俺も限界だったらしく、変身が解けて人間の姿に戻った。
足元の水城さんのことを思えば、早い所どいてやるべきだったが、それすら出来ないほどに疲れ切っていたらしい。
「あ、あれ…私…」
「戻ったか…全く、世話のかかる…」
目が覚めた水城さんが自分の周囲を理解するよりも早く、俺は意識を失って倒れ込むのだった。
感想待ってます。




