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COMIC-MAN  作者: ゴミナント
32/75

隔離:isolation…

ちょっと本題と離れていきます。キャラ描写も大事。

 厳重に警備された扉を前に、ヒカリが暗証番号を入力していく。その姿を横目に見つつ、俺は監視カメラでこっちを見ているであろう爺さんを軽く睨む。あの爺さん、ヒカリが一人で来ていれば速攻で開けただろうに。これって時間の無駄だろ。

『暗証番号確認。入室を許可します』

 天龍寺グループ本社ビル地下四階、特別研究センター。元々空きスペースだったらしいが、爺さんが社長に就任したのを機に始まった『JACK』との戦いに備えた研究施設に生まれ変わったとのこと。

 勿論、存在を知っているのはごく少数。爺さんが信頼している一部の社員と俺たちだけだ。

 先に入るヒカリに続いて入ろうとして、ものすごいスピード自動ドアが閉まろうとするのを片手で受け止める。あの爺さんがやりそうなことは大体わかって来たな。

「おじいちゃん…」

「安心しろ。やけに図体と規模のデカい小学生だと思えばこのくらいはな」

「それ、余計に私としては複雑なんだけど…」

 呆れかえりつつも、それでも爺さんのことは最後の家族として慕っているんだろうな。まあ、その気持ちは分からんでもない。俺だって、こんな理不尽な嫌がらせさえなければそれなりに尊敬できているだろうに。

 どことなく肩を落とすヒカリを無言で慰めつつ、二人一緒に研究室の中を進んでいく。やがて水城さんを隔離している区画まで到着した。

「おじいちゃん?」

 半眼で爺さんを睨むヒカリ。爺さんは口笛を吹きながら誤魔化すが、今はそんなことなんか気にしている場合じゃない。

「それで?さっきのイマジネーターの反応とかはあるのか?」

「お前が見逃したせいで全然じゃ。あともう少しだけでも持たせられんかったんか?」

「ああ、どうも結構ヤバそうな幹部怪人が居るらしい。正体とか、何の怪人かは分かんなかったけどな」

 ゴールデンウイークの戦いで遭遇した、恐らく『JACK』の幹部怪人だったコウモリ野郎に続く新手の幹部怪人。果たして、一体何者なのか。

「まあ、それは置いておいて。水城さんはどうなの?」

 ヒカリに言われ、研究者がパソコンに隔離室の映像を映す。見てみれば、水城さんは独りで机に向かっている所だった。手元にはノートと教科書。多分、学校の勉強をしているんだろう。真面目で勤勉な学生に見えるが、あの中じゃあやれることなんてそれしかないんだろう。

「今の所、変身する気配はありません。電波を遮断したのが効果的だったみたいです。ですが…」

「おかげで下手に外に出せん。本人は病気に納得してくれてはおるが…それがいつまで続くかじゃな」

 イマジネーターは通常の常識で抑えられないことは、俺自身が一番よく知っている。今は本人が変身すること自体を知らないのだろうが、一度やり方を覚えてしまえばこの隔離施設をぶっ壊して脱出するくらい簡単だろうな。

「これ、中に入れるか?」

「え?何言ってるの?危ないじゃない」

 ヒカリがびっくりした顔で聞いて来る。まあ、そうなるよな。

「だってさ。この中でずっと一人だと退屈だろ、多分。俺たちの問題に巻き込まれちまった訳なんだろうし、話し相手ぐらいはしてやるのが当然だって」

「いや、でも危ないし…」

「その辺は心配ないな。俺、いざとなったら変身するし」

 懐から原稿用紙を取り出しつつ答えると、ヒカリは納得したように頷いた。爺さんはまあ、最初っから反対する気もなさそうだったが。

「好きにせい。あの年ごろの女子はよう分からん」

「私からもお願いします。あんな所に閉じ込められてストレスが溜まるでしょうし、爆発されてしまっては困りますしね」

「二人共正直だなおい。ま、いいさ。どうせ元々取材するつもりでいたんだから」

 厳重に閉じられた二重扉が順番に開けられ、俺は水城さんが閉じ込められている隔離室に足を踏み入れた。

 部屋の中に実際に入ってみての第一印象は、実に殺風景以外にない。地下だから窓なんか当然無いし、テレビと棚や花瓶、机にベッドと生活に必要最低限の家具以外は極力減らされている。わざわざ新しく用意するほど爺さんたちも親切じゃないんだろうけど、これじゃあ心を病んじまうぞ。

「あっ…」

 机に向かっていた水城さんが俺に気づいて立ち上がった。さっきのパソコン越しでは良く分からなかったけど、顔色がやっぱり悪い。病人と言われれば納得できるが、本当の所は別に病気って訳じゃないんだからな。多分、病気と言われてここに閉じ込められたストレスだろう。写真に写っていた健康的な美少女が台無しだ。

「よう。災難だな。こんな殺風景な部屋に閉じ込められて」

「え、ええ…でも、病気なんでしょ?私…」

 俺を警戒しているのか、水城さんは机の前から動こうとしないまま怪訝そうに俺を見つめるばかり。これじゃあ水城さんがリラックス出来ないな。

「ま、その辺はここの責任者に言ってくれ。俺は専門外なんだ。その代わりと言っちゃあなんだけど、何か困ってることがあったら言ってくれないか?こう見えても、学校じゃ生徒相談室なんかやってるんだ。ここから出す以外のことなら、何だって聞くぜ」

 出来る限り笑顔で言うが、水城さんは警戒した顔のまま表情を変えようとしない。よっぽど不信感を抱かれてしまったらしい。

 そう思って何とか不信感を消せないか考え出す。しかし、水城さんの心境は俺の予想とちょっと違ったらしい。

「…ご、ごめんなさい!剣道場で、いきなり竹刀を振り下ろしちゃって」

「え?あ、ああ。別にいいって。あれは病気のせいなんだしさ」

「で、でも…!!私…!!」

 そう言って顔を逸らす水城さん。何と続くのかな?とちょっと気になったその時、水城さんの手が机の上のペンを無造作に掴み、投げつけて来た。

「うぉっ!?」

 いきなり目の前に迫って来たシャーペンやボールペンの先端に本気でビビりつつ、何とか全て避けて追撃があるかと水城さんの方を向く。しかし、水城さんはペンを投げつけたままのポーズで凍り付いていた。

「私…」

 自分の手を見つめて震える水城さん。やはり、無意識のうちに俺を狙うようにインプットされているらしい。随分と手の込んだ作戦だが、俺への被害よりも水城さんの心理的ダメージの方がはるかに大きいのは失敗じゃないんだろうか。

「しかしあれだな。俺がターゲットなのは正解だったよ。お蔭で実害ゼロで済む」

 プラスチック製と思われるひしゃげたシャーペンを拾いながら呟く。が、拾ってみて気が付いた。どっちも金属製だ。よく見ればペンが当たった防弾ガラスにも傷が。これ、当たったら流石に漫画に載せられない様な惨劇になったんだろうな。避けて良かった。

「ごめんなさい!!気が付いたら手が勝手に動くのよ!!剣道場の時も、今も…!!」

「あ、やっぱり河川敷の記憶は無いのか」

「え?河川敷…?」

「ああいや、独り言だ。忘れてくれ」

 軽く手を振りながらその辺の椅子を引っ張って来て座る。世界中の諜報機関に狙われながら一月を過ごしてきた身としては、この程度のことで気圧されるほどの繊細さなどとっくの昔に溝に捨てて来た。勿論そんなことを言って信じてもらえず引かれるなんてことにはなりたくないから黙っているが。

 しかし、微動だにしていない俺の態度もあまり効果は無かったらしく、水城さんは何もない部屋の隅っこに逃げていく。さすがにちょっと傷つくな。

「おいおい、逃げることは無いだろ。俺、無傷なんだぞ?」

「そんなこと言われたって、次は大怪我するかもしれないじゃない!なんでそんな平然としていられるのよ!!」

「そりゃあ、慣れてるからな。漫画の取材で」

「あり得ない…!!」

「だよなぁ」

 言われてみれば、確かにあり得ない言い訳だったな。けど、本当のことなんだし、どう言えばよかったと言うんだ。まさか、取材の一環でヒーローやってますって言うのか?言ったら速攻で危ない人認定だぞ。

「まあ、そう細かいこと言うなよ。いきなりの入院、しかも隔離で参ってるだろ。俺の取材のついでに話し相手くらいはやってやらねーとって思って来たんだ。無理だって言うんなら、今日の所は帰るけどよ…」

「そ、そんなの…やっぱ無理!とにかく、今日はもう帰って!!」

 ちょっとは迷う仕草は見せたが、最終的には追い出される方向で考えがまとまったらしい。流石に、無意識のうちに襲ってしまいたくなるターゲットを話し相手に選べる訳もないが、残念ながら俺以外に水城さんと接触出来る人材が居ない訳で。

 その辺りも説明しておきたかったが、まあ今言った所で混乱するだけか。しょうがない。今日は諦めるか。

「じゃ、また来るよ。水城さんも、もうちょっと落ち着けばここを出られるさ」

「適当なこと言って…!!」

「適当じゃないさ。俺も同じような病気にかかってるようなもんだしな」

「えっ?」

「じゃーな。続きは、また今度ってことで」

 慌てて呼び止めようとする水城さんを置いて隔離室を出る。扉が閉まる直前に見えた水城さんの顔色は、来た時と比べて少しは良くなっているようにも見えた。そうだったらいいな、と思うあまりに勘違いした気のせいかもしれないけど。

 二重扉が閉じられ、外で待っているヒカリたちの元に向かう。三人とも難しい顔をしていたが、それほど面倒な結果でも出たんだろうか。

「どーしたんだ?」

「いや、電波を遮断してもお前を襲う命令は生きとるのか、と思うてな」

「ええ…ナノマシンが深層心理にも影響を及ぼしていると考えるよりほかありません。こんなナノマシンが一般にばら撒かれてしまったら、厄介なことになるかもしれませんよ」

 爺さんと研究者さんの言いたいことは分かった。つまり、このナノマシンだけで世界中の人間を洗脳できる可能性がある訳だ。全く、黒い幽霊じゃなくてショッカーかよ。死の商人の風上にも置けない奴らだ。

「…それよりも、水城さんのメンタルが心配かな。私があんな状況になったら、頭がおかしくなっちゃうかも」

「そうだよなぁ…やっぱり、今後も話し相手は必要だよな。と言う訳だ。今後も彼女と接触した方がいいだろ?」

「うむ。暴れられては敵わんしな」

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