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COMIC-MAN  作者: ゴミナント
27/75

その名は『JACK』

悪の組織のネームセンスは重要だとは思ってはいるんですが…『ショッカー』とか『ブラックゴースト』とか『黒十次軍』とか『ダーク』…やっぱり石ノ森章太郎のセンスは違いますね。一目で悪の組織って分かりますし、何よりカッコいいですもの。

「ヒカリ、おじいちゃんがようやくヨーロッパから帰って来たぞぉ!!色々あって不安だったろう!?だがもう大丈夫だからな!!全部おじいちゃんが守ってやるからな!!」

「は、離れてよおじいちゃん…苦しいし…和也が…」

「そんなことなんて知ったことかぁ!!ワシはな、ワシはなぁ…!!ずっとヒカリを想って…!!」

「だったら離れてよ!!それと、和也に酷いことしないで!!」

 突然現れたおじいちゃん、天龍寺亨は私を苦しいくらいにまで抱きしめながらおいおい泣き出しちゃった。久しぶりに会えたおじいちゃん相手に嬉しい気持ちはあるけど、すぐ隣で未だに和也がビリビリに苦しめられているこの状態じゃ素直に喜べない。

 しかし、おじいちゃんはそんな私の想いなんか知ったことじゃないと言わんばかりに私の首筋に鼻を押し付けて…匂いを嗅ぎ出した。

「離れられんっ!!はぁぁ…この匂い。久方ぶりと思えばこそたまらん…」

「ちょ…!!」

 おじいちゃんの一言に、ヒヤリとするものを感じて思いっきり突き飛ばす。背筋に冷たい物、と言うか性犯罪者の気配を感じてしまったのだから仕方ない。

 だけど、突き飛ばされたおじいちゃんはバランスを崩して倒れ込んだ。ちょうどビリビリしてる和也が倒れている方向に。

「あばばばばばばばばば!?」

「きえええええええええ!?」

 和也と一緒に電撃を食らうおじいちゃん。自業自得ではあるんだけど、これでは助けようがない。

「もう!!さっさとビリビリ解除しなさい!!」

「は、はいいいいいいいいい!!」

 懐からリモコンを取り出し、スイッチ一つで電流ネットに走るビリビリが消える。そしてダメージを負ってしまった二人はネットに雁字搦めの状態で仲良く気絶してしまうのだった。

 あんまりにもあんまりなおじいちゃんに、思わずため息を付く。そして元凶のおじいちゃんの顔に水をかけて無理矢理にでも起きてもらう。

「ぷふぁっ!?」

「全くもう…おじいちゃんったら、もう七十越えてるんでしょ?ちょっとは落ち着いてよ」

「だ、だってなあ。ワシ、いつまでも元気でいたんじゃよ」

「十分すぎるほど元気よ。おばあちゃんが心労で倒れちゃうくらいに」

 ビリビリの後遺症で未だ動けない和也を介抱しつつ、おじいちゃんを半眼で睨みつける。流石に悪いと思ったのか、ビリビリのダメージで気弱になったのかは知らないけど、おじいちゃんは珍しくしょんぼりしていた。

「ほら、和也。起きて」

「う、うう…」

 出来るだけ優しく頬を叩いて起こそうとするが、和也は中々起きようとしない。もしかしたら今の電撃で体内のナノマシンが不調になっちゃったのかもしれない。

「ぐすん。孫娘がワシより素性も知れん男の方を優先しとる…ワシ、哀しい…」

「馬鹿なこと言ってないでよ。今のビリビリ、何をしたの?」

「しかも言い方とかキツくなっとる…やっぱり、日本に行かせるんじゃなかったわい」

「そう言うの良いから、早く答えて!和也に何したの!!」

「ひいっ!?わ、ワシは別に、不審者撃退用に作ったビリビリネットのスイッチを押しただけじゃあっ!!そりゃあ、ちょいとやり過ぎじゃったかもしれんが…」

 ちょっと強めに迫ると、おじいちゃんはビビッてペラペラと全部喋ってくれた。まあ、だからって許せるわけもないんだけど。

「せ、成長したのう。昔は、ハッキリ喋ることすら難しいくらい引っ込み思案だった言うのに…ってあ?ヒカリ?それは…」

 何か言ってるのを無視し、私は無言でビリビリネットを本来の使用目的である不審者撃退の為におじいちゃんに被せ、奪い取ったスイッチを押した。

「きえええええええええ!?ろ、老人虐待じゃああああああ!!」



「和也、起きて。おじいちゃんにはちゃんとよく言っておいたから」

 ヒカリの声に呼ばれ、怠い全身を何とか起き上がらせる。

「あーだるっ…ったく。何だってこんな目に合わなきゃならないんだよ」

「ごめんね。私のおじいちゃんが…」

「おじいちゃん?ああ、そういやフランスに居るって話だったが…」

 天龍寺グループと戦った頃に、博士のビデオレターからフランスに居る爺さんの所に逃げるよう言われたことがあったな。結局その前に決戦になってしまい、そのままいろいろなごたごたの中で忘れていたが、まさかその人がここに来るとは。

「ってか、何だってあんな電撃トラップ喰らわなきゃならないんだよ。ヒカリの前だから言っちゃあ悪いが、俺どんだけ天龍寺グループから嫌われてんだよ」

 まず人としての体を奪われ、その後の人生も狂わされ、今度は初対面でいきなり電撃攻撃。これってかなり悪意があるよなぁ。

「そのことは本当にごめん!ほら、おじいちゃんも謝って」

「えー?言っとくがの、ワシはあくまでヒカリの祖父として…」

「謝って」

「はい…ごめんなさい…」

 言い方とか表情とか迫力とか色々怖えーよ。思わず出かかったセリフを呑み込み、震える爺さんにこっちも頭を下げる。

 最初に会った頃のヒカリはかなりおどおどしていたが、最近はメキメキと明るくなってきた。義母との最悪な別れとか、色々とあり得ない出来事に巻き込まれて成長したのだろうが、ここまで怒ると怖くなるとは思っていなかった。

 だがまあ、この辺りは別に良いか。ヒカリが逞しくなってくれると、こっちとしても助かる面も多いんだし。

「で?この爺さんは何しに来たんだ?言っとくがもう出番は終わってるぞ。あのナノマシンの情報は世界中にばら撒かれちまったんだ。今更やれることなんかないだろ」

「果たしてそうかな?葦原和也君。いやヒーロー、コミックマン」

「あ?」

 爺さんは鼻を鳴らし、懐から何枚かの資料を取り出す。俺とヒカリはそんな爺さんの態度にお互い顔を見合わせて首を傾げる。

 この爺さんは色々と知っているらしいが、一体何を言いたいのかさっぱり分からないぞ。

「ワシがヨーロッパに行っていたのは、何も老後の慰安旅行と言う訳ではないぞ。あのアバズレ女が本社の実権を握るのを阻止するべく、あの女のバックに潜む組織を探っておったのだ。そして、見つけたのじゃ」

 机の上にばら撒かれた資料。それを読むと、世界中のありとあらゆる軍需産業や傭兵派遣会社の名前と規模のまとめ、そして横の繋がりについて纏められていた。

「これがなにかあるの?そりゃ、あの人が取引してた企業の名前がいくつかあるけど…」

「そうじゃ。こいつらはあの女がグループの技術を横流しした先なのじゃよ。だがそれを仲介する存在が居たはずじゃった。ここに書かれた企業の繋がりも、実は裏ではその仲介業者が仕立て上げたものだと言うことも分かっとる」

「コウモリ野郎か…」

 爺さんの言葉で、俺の脳裏に浮かぶあのコウモリ野郎の不敵な笑い声。思えば奴は天龍寺グループの人間ではなさそうだった。あの頃は取引先のエージェントだと思っていたが、どうやらそのレベルの相手では無かったと言うことなんだろう。

「第二次大戦後、奴らは世界中の軍需産業を繋ぎ合わせることで繁栄した。冷戦の軍拡競争もあり、各国政府とも繋がりを作り…そして、定期的な紛争を誘発させて更なる発展を繰り返してきた『死の商人』」

「まるでブラックゴーストだな…トップは三つの脳みそってオチじゃないだろうな」

「そんなの知らん。ただ、奴らの名前はもう分かっておる。これじゃ」

 爺さんは最後の資料を机の上に置く。そこに描かれたのは、まるで海賊旗のように縦にど真ん中で白と黒に色分けされた髑髏のマーク。とりあえずこのマークを掲げる企業なんか見覚えは無いが…。

「こいつらの名は…『JACK』」

「ジャック?帰って来た方じゃあなさそうだな」

「当たり前じゃ!!奴らは世界中のどこにでも違和感なく紛れ込み、紛争を巻き起こして更地に変えてはまたどこかに紛れ込む…そして、そのために必要な力としてワシらの技術に目を付けたのじゃ!!」

 爺さんは激しい怒りと屈辱に身を震わせながら叫ぶ。その言い方からして、グループが死の商人に利用されたことでプライドを傷つけられた、と言うことなんだろうか。

 ただまあ、俺としては爺さんの怒りの根幹はよく分からない。でもあのコウモリ野郎や厚化粧蜘蛛たちが居なければ、俺たちの生活は今よりずっとましだったと言うことは分かる。

「『JACK』は既にエージェントたちを次々と日本に送って、改良を施したナノマシンの人体実験を始めておるぞ!各国政府は奴らとの共存を図っている以上、自分の身は自分で守るのみ!!」

「おじいちゃん…もしかして、その『JACK』と戦うために日本に帰って来たの?」

「おうとも。元よりこの国は軍需産業が少ないせいか『JACK』の影響が薄いのでな。決戦の場としては中々に都合が良かったんじゃ」

 ヒカリが疑い交じりの目線で爺さんを見つめる。まあ確かに爺さんの話を聞く限りでは信用できるが、あんまりにも突拍子が過ぎる。確かに既に半分は奴らのせいで改造済みのこの俺が居るとは言え、何がこの爺さんをそこまで駆り立てるんだろうか。

「本来なら巻き込むまいと決意していたヒカリが、既に当事者とは思わなんだが…じゃが、今からでも遅くはないな!貴様!!」

「あ?俺?」

 いきなり爺さんに指をさされ、思わず顔をしかめる。指差されると不愉快って言うのは本当だったんだな。

 まあそんなことはとりあえず置いておいて、爺さんはすっごい悪い顔をしながら俺に迫って来た。

「まずはこれ以上、ワシの孫娘に近寄らないでもらおうか。奴らの最重要目標は貴様、ならば…」

 そこでヒカリが無言で爺さんにまた電撃ネットを被せ、スイッチを押した。

「あばばばばばばばばば!?ひっ、ヒカリちゃああああん!?」

「おじいちゃん…。馬鹿なこと言いに来たんならこのままおばあちゃんの所まで送るよ?」

「ろ、老人虐待!!ドメスティックバイオレンス!!ワシのヒカリちゃんはこんなことする子じゃあ無かったぁ!!」

「成長したのよ!孫娘の私生活にやたら干渉してくるおじいちゃんに対抗出来るくらいには!!」

 ヒカリの電撃攻撃をもろに受け、悲鳴を上げる爺さん。しかし、これを食らって気絶したヒーローがここに居るんだが。

「電撃喰らって元気だなー。この爺さん…」

 こう言っている間にも、一切容赦のないヒカリのお仕置きを食らう爺さん。やがてその表情がだんだん恍惚としてくるのだった。

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