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COMIC-MAN  作者: ゴミナント
14/75

おばあちゃんが言っていた…女子の買い物は長い、と。

自分で書いててなんですが、最近ヒーロー感無くないですか?

 天竜寺さんの着替えを買いに来ると言う最悪のタイミングで、学友二人に掴まってしまった。敵の動きがわからん以上は出来るだけ素早く動かなきゃいけないんだし、なんとかうまいこと離れられる口実はないものか。

「へえぇ。服を買いに来たんだ。なら一緒に行こうよ」

「え?いいんですか?」

 何っ!?天竜寺さんってば俺たちが置かれた状況のこと忘れてない!?一応俺たち、ヤバい奴らに狙われてるんですよ!?

「お前、どした?すっげー微妙な顔してるけど」

「いや何…うまいこといかない人生だってだけの話だ」

 博士。あなたの娘さんは俺が予想してたよりもだいぶ残念な女の子みたいです…。

 天国の博士に向けてそう報告していると、ルリが天竜寺さんを連れてこっちに戻ってきた。

「二人共、二階に行くよ。天竜寺さんの服見に行くからさ」

「オーケー。荷物持ちの仕事を果たしましょうかね」

「なら俺はここで…」

「え?」

「は?」

「お?」

 三人一斉に何言ってんだコイツ?って目で見てきましたよ。ええ。

「和也。流石にそれは見過ごせないな。男にはな、女の買った荷物を持ってやるって大事な仕事があるんじゃないのか!?」

「しらねーよそんな仕事…」

「和也。本っ当に最低だね。男どころか哺乳類の風上にもおけないよ」

「なんだってそこまで…後せめて哺乳類じゃなくて人にしてくれよ。傷つくだろ」

 誠とルリの二人がゴミ虫を見る目で睨みつけながら交互に罵倒を含めた上で色々言ってくる。でもまあ言いたいことはわかるよ?でもね。俺にはやらなきゃならないことがあるんだよ?知ってるよね天竜寺さん?

「葦原君…」

「うっ…」

「一緒に居てくれるんじゃないの…?」

 ええい、その上目遣いをやめろ!大体君は事情を察して『あ、じゃあ仕方ないね』くらい言ってくれてもいいんじゃないのか!?

「しょうがないか…金は俺が出すって約束したしな」

 ちょっと、なんでそんなこと言った途端に満面の笑顔になるんですか?しかもその後ろで二人がニヤニヤ笑ってるし。ってかそのニヤニヤやめろ!腹立つ!!

「じゃあ行くよ?確か二階に新しい店がオープンしたらしいしさ」

 ルリがそう言って真っ先にエスカレーターに向かって歩き出し、誠がそれに付いて行く。出遅れた形で二人取り残されて、俺は思わずため息をつく。

「どうしたんですか?」

 きょとんとした顔でこっちを見てくる天竜寺。俺は思わず形容しがたい心労と哀れみの入り混じった目で天竜寺を見つめるが、なぜか天竜寺は顔を赤らめて小首をかしげてきた。

「天竜寺さぁ…狙われてるってこと、完全に忘れてるだろ…」

「あっ…ご、ごめんなさい!」

「もういいよ…今んところ敵の気配は感じないしさ…誠もルリもいい奴だし、せっかくのGWだ。楽しんだほうがいいさ」

 まーた甘いこと言ってらぁ。どうも俺はこの人に弱いらしい。なんとかその思いを振り払わんと歩き出すが、背中を微かに引っ張られて後ろを見る。後ろでは、少し顔を赤らめた天竜寺さんが俺の服の裾を摘んでいた。

 まあ、この人ごみの中ではぐれられても困るしな。誠たちに追いつくまではこのままでいいか。




 ルリさんに連れられて到着したのは、アメリカでもたまに見かけたショップの日本進出第一号店だった。アメリカの若者向けのブティックの中では比較的落ち着いたデザインで有名だけど、それでも私にとってはどの服も十分過激で露出度が多く感じる。

「ねえ、次はこの服試着してみてよ」

「あの…気のせいかさっきより布地が少ない気がするんですけど…」

「そんなの気のせいだって。ほら、この服エ…可愛いよ?」

 今なんと言いかけたんだろ。エ…?

 そんな疑問も吹っ飛ぶほどの勢いでルリさんが新しい服を押し付けて試着室のカーテンを閉める。どうしよう。着なきゃダメだよね…。でもこんな裾の短い服なんて着た事ないよ。サイズ間違えてる訳じゃないみたいだし…。

「もう着たー?早くー!」

「ちょ、ちょっと待ってて!」

 早くしないと下着姿のままでカーテンを開けられかねない。慌てて服を着て姿鏡を見る。膝どころか太ももまで見えるほど短いミニスカートに、肩を思いっきり見せつけてる上に胸元を強調したデザインの上着。こんなの、恥ずかしくて人に見せられないよ…。

「んん…?もう着替えてるじゃん…」

「あ、ルリさん!?」

「ほほう…中々いいものをお持ちで…」

 そろりそろりと狭い試着室の中に入り込んでくるルリさん。あの、手つきが明らかにいやらしいんですが?葦原君に助けられる直前の高城みたいな手の動きなんですよそれ!?女の子がそんな…!!

「ほれほれー!!さっきのパンはやっぱりここに入っていっとるのかなぁー?」

「ああっ!?や、やめて下さいぃ!」

 逃げ場などなく、一気に年下の女の子に追い詰められて体のあちこちをまさぐられる。嫌、やめてと叫ぶが聞く耳を持たない。こんなのってないよ…!!

「た、助けてぇ…!!」

「天竜寺!?」

 カーテンが乱暴に開けられ、店員さんや犬飼君を連れて葦原君が助けに来てくれる。けど、すぐに葦原君は顔を真っ赤にして視線を逸らしちゃった。

「葦原君…?」

「待て、言いたいことは分かるがまずはカーテン閉めるからそいつをこっちに寄越せ」

「へ…?」

 一切こっちを見ようとしない葦原君。いつもは喋る時はちゃんと目を見て喋ってくれるのに。

 その時、私は胸元がやたらスースーすることに気づく。

 気になって胸元を見てみれば、ルリさんの手が服の胸元のボタンを外したせいで大きく開かれて色々丸見えになっていた。

「~~~~~~~~~~っ!!」

 気づいたときにはルリさんを投げ捨てて試着室に閉じこもっていた。

 どうしよう…もうお嫁にいけない…。




「ったく。誠、ちゃんとしつけとけよ」

「すまんな。まさかここまで暴走するとは思ってなかったんだ」

 フードコートで早めの昼食を取りつつ、俺たちは流石に反省した顔のルリを弄り続ける。まさか、来店早々に出入り禁止を言い渡されるとは思わなかった。しかも天竜寺はあれから一言喋んなくなっちゃうし。

「悪かったよ。ちゃんとルリの手綱を引いとけばよかった」

 声をかけてみるけど、顔を真っ赤にしてそっぽを向くばかり。一応他の店で買った清楚な春物のワンピースを着ているから変に目立つなんてことはない。が、どうしても視線がやたら厳重な胸元辺りに行きそうになる。ダメだってわかってるのに。

「むう…二人共言いすぎだよ。それに、和也は得したって思ってるでしょ?」

 視線に気づいたのか、ルリがやたらと嫌らしい目で俺を見てくる。コイツ、やっぱり全然反省してないな。

「お?なんだ?さっきのこともう忘れたのか?」

「いや…俺から見てもバレバレだぜ?さっきからこう…目つきが明らかに嫌らしいと言いますか…」

「おいなんだ?矛先は早くも俺か?」

 誠まで同じこと言い出し、天竜寺が余計と縮こまる。やめてくれよ…ヒーローやってるけど、俺だって健全な青少年なんですよ?しょうがないじゃない。人間だもの。

「大体ルリが暴れるから出入り禁止なんてことに…」

 思わず反論しかけたその時、ナノマシンの気配を感じた。しかも二つ。もう感づかれたか。

「なによ。急に深刻そうな顔しちゃって」

「いや、そろそろ帰らなきゃならない時間だって思い出してさ。天竜寺もそろそろ帰ったほうがいいんじゃないか?」

「え?あ、そう、なのかな…?」

「ほほう…なんだか怪しい感じの雰囲気…」

 意味ありげな台詞にやっと反応してくれた。まあ敵が近づいてきているくらいのことはさっさと感づいてもらわないとな。

 その時、小さいけど強烈な気配を感じた。

「っ…!?」

 咄嗟に気配の感じた天竜寺の後ろ首に手を伸ばす。

「きゃーっ!?いきなりーっ!?」

「騒ぐなって…!!」

 捕まえたのは、今にも天竜寺の首に針を刺そうとしていた蜂のような虫。だがこんな蜂は見たことないし、何よりこんなところまで蜂が来るとは思えない。なら答えは一つだ。

「やっぱり急用ができた。天竜寺、行くぞ」

「うん…って、葦原君!二人が!!」

「あ…!?」

 天竜寺に促されて二人を見れば、二人の首筋にもあの蜂が止まり、針を突き刺していた。

「くそ…!?二人共!?」

 慌てて蜂を叩き落すけど、既に二人は虚ろな目をして立ちすくんでいた。いや、正確に言えばまるで指示を待つ兵士たちのように動きを止めていた。

「おい、どうしたんだよ!?」

「葦原君…どうしよう…」

 天竜寺が背中に隠れると同時に二人が俺に襲いかかってきた。咄嗟に二人を払い除けて距離を置くが、二人の力は今までと比べて明らかに強くなっていた。

「敵の怪人の仕業だな…!?一体なんの化物だ!」

 ナノマシンの気配はかなり遠い。変身して一気に探し出すなんてことは周囲の人に見られるリスクを考えればアウト。なら、遠隔操作で二人を操っているってことだ。なら、気絶させて無力化した後でここを出て、その上で敵を探したほうが早い。

「うォォォォ!!」

「すまん!!」

 再び襲いかかってきた二人に、できる限り加減したパンチで意識を刈り取らせてもらう。床に倒れこむ二人を前に強烈な罪悪感が浮かんでくるが、これは一刻も早く敵を倒して二人を救うためだ。わかってもらおう。

「天竜寺、ここから出るぞ」

「う、うん。でも…」

 怯えるように俺にしがみついてきた天竜寺。気づけば周囲はさっきの二人と同じような目をした連中に取り囲まれていた。

 そうか。この二人は周囲の奴らを蜂で操るための時間稼ぎか。まんまと乗せられてしまうとは。こうなった以上は変身するしかないか。

 懐から折りたたんだ原稿用紙を取り出し、その絵を認証したナノマシンが指を通して原稿用紙を燃やす。その炎を浴び、俺はコミックマンへと変身した。

「天竜寺、俺から離れるなよ!」

「うん!」

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