戦い終わって
怪人たちのモチーフ、と言うか選び方は初期ショッカー怪人たちです。怪奇!蜘蛛男、とか。
戦いからしばらくして、地下駐車場。立ち入り禁止の表示が出て無人となったはずのここに、ふたりの男女が気絶している高城を見下ろしていた。
「連絡が無いと思ってみればこの様とは…」
「ふむ…それにしても、こいつもサンプルの一つを使用していたのではないのかな?」
「ええ。そのとおりよ。やっぱり、あの天竜寺隼人が最後に残したナノマシンで変身したやつが居るのよ。そいつを殺さないと…!!」
「もしくは捕獲だ。これほどの性能を誇るイマジネーター…希少なサンプルだ」
「それだけではないわ。あの小娘も色々嗅ぎまわっている上に行方不明よ。多分そいつと合流したんだわ。研究データを握っているらしいのだし、捜索願を出して少しでも探しやすくしておかないと」
「その必要はない。我々の試作部隊がようやく完成した。奴らの性能実験も兼ねておくとしよう」
「なら心配ないわね。私は社長業務に戻るわ。貴方も、今夜は来てくれるのかしら?」
「気が向いたら、な」
返事を聞き、天竜寺サクヤはピタリとくっついていたスーツの男から離れて地下駐車場を出て行く。男はそれに見向きもせず、高城を見下ろしつつ真っ黒なコウモリに変身した。
コウモリ怪人となった男の右腕から小型のコウモリの影が飛び出し、気絶している高城の首筋に突き刺さる。そして、高城の血液を急速に吸い上げていった。
「ふむ…不味いな」
後に残された干からびたミイラを蹴り飛ばす。高城だったものが蹴り飛ばされた先には、五人の怪人が立っていた。
「行け、サラセニア、カメレオン、ビー、コンドル、リザード!我らの敵であるイマジネーターを殺し、天竜寺博士の娘を誘拐してくるのだ!」
「はっ!!」
五体の怪人はそれぞれ人の姿に変わると、一斉にバイクに跨りどこかへ走り去っていく。コウモリ怪人はそれを見届けると、やがてどこへともなく去っていった。
『ねえ、お母さんってどんな人だったの?』
『優しい人だったよ。私がどんなに苦しい時も、そばに居てくれた…』
これは、夢?そう、これは私がもっと小さかった頃に、初めてお母さんのことをお父さんに聞いた時の夢だ。
子供の頃の私は、ずっとお父さんと一緒に海外を回っていたから特定の友達なんか居なかった。そのことに対して不満は無いわけじゃなかったけど、元々あんまり人と喋るのが得意じゃなかったから結果は同じだったと割り切れてる。お父さんも居るし、お爺ちゃんも月一くらいの割合で会いに来てくれたから、寂しいなんてことはなかった。
ただそれでも、お母さんっていうのがどんな物なのかは知りたかった。海外に暮らしていると周りに日本人が少なくって、時々無性に『お母さん』に甘えたくなるときが来る。こればかりは、お父さんやお爺ちゃんではどうしようもなかった。おばあちゃんも私が生まれる前にもう死んでいたし。
『ヒカリ。紹介するよ。この街で会ったサクヤさんだ』
『初めまして。私が槇村サクヤよ』
夢の中でそんなことを考えていると、今度は夢の場面が変わった。日本に来る前、二年間滞在したアメリカのシカゴの家で、お父さんがビジネス関係で会ったと言う今のお母さんと初めて会った日のこと。
この時、あの人がどんな仕事をしていたのかはあまり詳しくは知らない。ただ、国際関係の仕事をしているとだけ聞かされていたし、実際あの人がお父さんと仕事するようになってからは天竜寺グループのシカゴ展開はかなりスムーズに進んだらしい。ただ、お父さんと結婚してから次第に態度が変わり始めた。
『どういう事だ?グループが開発したばかりの新型タービンを軍に売り渡しただと?』
『そのままの意味よ。そのお陰で軍とのパイプも出来たし、アメリカ進出にはちょうどいい後ろ盾ができたじゃない』
『天竜寺グループは日本の会社だぞ!?同盟国相手とは言え、外国の軍と商売することは…!!』
『だったらこっちに本社を移せばいいじゃない。あそこと組んでおけば、それなりの見返りは保証できるわ』
夜中に言い争うふたりを偶然見てしまったあの夜。信じられない、と言わんばかりの顔のあの人と、あまりのことに呆然としているお父さんの顔は、今でもこうしてハッキリと思い出せる。
ここから先は、どんどんあの人が勢いをまして行くばかりだった。お父さんと一緒に仕事をしていた役員たちが次々と、病気や事故で居なくなっていった。お爺ちゃんが別の仕事で忙しくてヨーロッパの方に行っていたこともあって、天竜寺グループの実権はいつの間にかあの人が牛耳っていた。
そしてグループの経営方針は百八十度変わった。軍需産業やマフィアやらと言った危険な連中と取引し、対立した企業には次々と不幸が訪れた。元々研究職だったお父さんの研究も、気づけばそういった連中に売り渡されていた。
『ヒカリ、済まないな。私は日本に帰らなくてはいけなくなった』
やがて、お父さんがそう言って家を出ていった。あの人が、お父さんに離婚届を突きつけたと知ったのはその翌日だった。私の親権はあの人が持つと主張し、お父さんがそれに反対して離婚調停を行うことが決まった。今にして思えば、天竜寺グループの創始者一族の娘の親権を手放すわけにはいかなかったんだろうな。
だけど、お父さんは最後の抵抗とばかりに一部の研究データを奪っていた。そして、それを奪い返そうとあの人も日本に戻り、私はそれについて日本に戻ってきた。
十年以上ぶりな日本での生活に慣れようとする中で、葦原君を見つけた。最初は、変な目で私を見る変質者かと思った。だけど、あの横暴そうな教頭先生をやり込める姿を見て少しだけ興味が沸いた。私も、あんなふうに大人に反撃できるくらいの強さがあれば、あの人を止められるかもしれない。
だけどそう思った矢先にお父さんが殺され、研究データが根こそぎ奪われてしまった。そして届いた手紙には、あの人を信用するなと葦原君を頼れ、とそれだけが書かれてあった。
手紙のこともあり、私は彼に会いに行った。だけど、そこにいたのは変なふうに大人ぶっただけの意気地なしだった。口先だけで、いざという時には他人任せ。正直言って失望した。
だけど、確かにあの時私は見た。あの人に襲われ気を失い、どこかに連れさらわれそうになった時、一瞬だけ意識が戻った。そして―――。
「っ!?」
目を開ければ、そこは見覚えのない天井だった。体には特に違和感を感じないけど、周囲を見渡しても一切身に覚えのあるものがない。週刊少年ズバットなんて漫画雑誌、私の家には一つも置いてないんだから。
ベッドから起き上がり、まずは自分の服装を確かめる。高校の制服のまま、一切手をつけられた様子がない。そのせいであちこちシワになっちゃってるけど、そのお陰で余計に安心する。
それにしても、ここはどこだろう。見た感じ結構整理整頓されているけど、大量の漫画雑誌や単行本に加えてフィギュアやプラモデルも置いてあって活動できるスペースが明らかに少ない。
さらに言えば、一番目立つのはやたら大きい机と、その上に干された原稿用紙。そこにはどこかで見た絵が書かれていた。
「ん…?」
「きゃっ…!?」
突然なんの前触れもなくソファからタオルケットに包まっていた誰かが起き上がった。思わず逃げようとして後ずさり、背後の棚に背中をぶつける。おまけにその衝撃で棚に積まれていた漫画雑誌が一斉に落ちてくる。
「危ない!!」
咄嗟に目の前の誰かがタオルケットを投げ、それがクッションになって思っていたほどの痛みは感じなかった。
「危ねーな。周囲をよく見て動けよ」
「あ、ありがとうございます…って葦原君!?」
タオルケットと漫画雑誌に埋もれた私を助け出してくれたのは、間違いなくあの葦原和也君だった。
結局目が覚めてから、天竜寺さんはずっと騒ぎっぱなしだった。まずはいきなり目覚めた俺にビビリ、次に俺の家にいることに驚き、さらに男とふたりでひと晩過ごしたことに過剰反応しだした。この人こんな騒々しい女子だったのか。
「少しは落ち着いたか?」
「すみませんでした…お手数おかけしました…」
取り敢えず落ち着くまで待って簡単な朝食を作って出す。二人分なんか作るのは久しぶりだから少し手間取ってしまった。これは少し反省だな。
「まあまずは食えよ。話はそれからだ」
「はい…いただきます。…あ、美味しい」
「そうか?あんまり本腰入れて作れなかったから、俺としてはちょっと微妙なんだけどな」
「これで微妙…?」
不思議そうな顔をする天竜寺さん。そんな変なこと、俺言ったっけ?
「本当に不思議な人。いきなり授業中に漫画書いたかと思ったら、お父さんと知り合いだって言うし、教頭先生は言い負かしちゃうし、今度はこんな美味しいご飯を作って微妙って…」
「ああ、そう…」
俺の気のない返事がツボに入ったのか、天竜寺さんは朝食を食べている間ずっと笑っていた。
そんな風に片方が笑い片方が黙って食べ続ける俺たちの姿は、傍から見れば随分とおかしな光景かもしれない。ただ、俺としてはもう食べ終わった挙句かなり物足りなさそうな顔を目の前でされているのが少々厳しい。これでも結構多めにつくたんですがそれは…。
まあいいか。俺も食べ終わったし、そろそろ本題に入ろう。
感想待ってます。




