第二十七話 奇跡の名前
イベント終了まで残り三十分。
順位は三位。
ついさっきまで四位だった。
朝倉レイナとの直接対決に勝ち、
再び表彰台へ戻ってきた。
正直、それだけで十分だった。
前回三十一位。
今回三位。
これ以上望んだら罰が当たる。
本気でそう思っていた。
しかし。
イベントはまだ終わっていない。
時計は午後十一時三十分。
配信は続いていた。
コメント欄も止まらない。
【あと三十分!】
【守れ!】
【表彰台だ!】
私は笑った。
「まだ分かりませんよ」
本当にそうだった。
イベント終盤は別世界だ。
一分で順位が変わる。
十秒で逆転する。
その時。
順位更新。
三位。
↓
二位。
私は固まった。
コメント欄も一瞬止まる。
そして。
爆発した。
【えええええ!?】
【二位!?】
【マジか!!】
【追い抜いた!!】
私は画面を見つめる。
何度も見る。
見間違いじゃない。
本当に二位だった。
「嘘……」
思わず呟く。
二位。
そこには、
さっきまでいた玲奈の名前がない。
私は玲奈を抜いたのだ。
スマホが震える。
DM。
送り主。
白石玲奈。
【抜かれました】
私は思わず吹き出した。
【ごめんなさい】
返信。
すぐ返ってくる。
【謝らないでください】
【戦いです】
その後。
少し間を置いて、
もう一通届いた。
【でも悔しいです】
私はスマホを見つめる。
そうだ。
悔しいのだ。
私だってそうだった。
ずっと。
だから返信する。
【私もずっと悔しかったです】
数秒後。
【知ってます】
それだけだった。
でも。
十分だった。
残り二十分。
順位。
二位。
変わらない。
残り十五分。
順位。
二位。
変わらない。
コメント欄はお祭り状態だった。
【守れ!】
【逃げ切れ!】
【あと少し!】
私は笑いながら言った。
「だからまだ終わってないですって」
その時。
タカさんがコメントした。
【なあ】
私は読む。
【楽しめてるか?】
その一言に、
私は少し黙った。
楽しめてるか。
最初。
コメントを読むだけで精一杯だった。
イベントで三十一位になった。
負けた。
泣いた。
悔しかった。
そこから。
バトルを覚えた。
仲間ができた。
玲奈と出会った。
アンチも来た。
たくさん悩んだ。
そして今。
私は二位にいる。
「はい」
私は笑った。
「めちゃくちゃ楽しいです」
コメント欄が流れる。
【それでいい】
【最高】
【泣きそう】
私も少し泣きそうだった。
残り五分。
順位。
二位。
変わらない。
残り一分。
順位。
二位。
変わらない。
心臓がうるさい。
コメント欄も止まらない。
【あと一分】
【あと三十秒】
【あと十秒】
私は画面を見つめる。
5。
4。
3。
2。
1。
0。
イベント終了。
静寂。
誰もコメントしない。
数秒後。
最終ランキングが更新される。
一位。
神崎アヤ。
二位。
高梨美咲。
三位。
白石玲奈。
私は動けなかった。
二位。
事務所イベント。
準優勝。
コメント欄が爆発した。
【おめでとう!!!】
【すごすぎる!!!】
【伝説だ!!!】
【三十一位から二位!!!】
私は口を押さえた。
涙が出た。
優勝はできなかった。
でも。
悔しさより先に、
感謝が溢れてきた。
「ありがとうございました」
深く頭を下げる。
「本当にありがとうございました」
コメント欄は祝福で埋まっていた。
その夜。
高梨美咲という名前は、
初めて事務所中に知られることになる。
そして。
それは――
さらに大きな舞台、
TikTok LIVE公式新人王への扉が開く瞬間だった。




