第百十六話 嬉しい報告
金曜日の夜。
配信を終えた美咲は、
温かいお茶を淹れながら一息ついていた。
スマートフォンを見ると、
結衣からメッセージが届いている。
『今、お時間ありますか?』
その後ろには、
笑顔の絵文字が添えられていた。
「珍しい。」
美咲はすぐに返信する。
『大丈夫ですよ。』
数秒後、
ビデオ通話の着信が入った。
「こんばんは。」
画面に映る結衣は、
前に会った時よりもずっと明るい表情だった。
「こんばんは!」
「今日は報告したいことがあって。」
その声は弾んでいる。
「実は……。」
「昨日の配信で。」
「初めて『また来ます』ってコメントをもらえたんです!」
美咲は自然と笑顔になる。
「それは嬉しいね。」
「はい!」
「登録者が増えたことより嬉しかったです。」
その言葉を聞いて、
美咲は少しだけ目を丸くした。
以前の結衣なら、
最初に登録者数を話していただろう。
でも今日は違う。
「その人、最後にね。」
結衣は画面を見ながら続ける。
「『居心地が良かったです』って。」
「それがすごく嬉しくて。」
美咲は静かに頷いた。
「それは最高の褒め言葉だね。」
「はい。」
「高梨さんが言っていた意味が、少しだけ分かった気がします。」
「数字も大事だけど。」
「また来たいと思ってもらえる場所のほうが、もっと大事なんですね。」
その言葉を聞き、
美咲は少しだけ照れ笑いを浮かべる。
「実はね。」
「私も今でも勉強中なんだよ。」
「え?」
「配信って正解がないから。」
「だから毎回、これで良かったのかなって考える。」
結衣は安心したように笑った。
「高梨さんでもそうなんですね。」
「うん。」
「だから、一緒。」
その一言に、
結衣は大きく頷いた。
通話を終える前、
結衣が少し照れながら言う。
「今度は私も。」
「誰かが『また来ます』って思える配信を続けます。」
「応援してるよ。」
「ありがとうございます!」
通話が終わり、
部屋は再び静かになる。
その様子を見ていた恒一が、
リビングから声を掛けた。
「いい報告だったみたいだね。」
「うん。」
美咲は嬉しそうに微笑む。
「結衣さんね。」
「今日は数字の話をしなかったの。」
「そうか。」
恒一も微笑んだ。
「きっと、一番大切なものが変わったんだね。」
夜。
手帳を開く。
今日のページの最後に、
静かに書き記す。
『人は、言葉で変わることもある。』
少し考え、
もう一行。
『でも、本当に人を変えるのは、自分で気づいた喜びなのだと思う。』
ページを閉じる。
机の上には、
いつもの折り紙のウサギ。
その小さなお守りを見つめながら、
美咲は優しく微笑んだ。
誰かの成長は、
自分の成長を教えてくれる。
今日の嬉しい報告は、
結衣だけではなく、
美咲の心にも温かな灯をともしていた――。




