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交番の恋愛事情

 晴れ渡る空の下、御琴警察署管轄御琴南交番で当職と一ノ瀬は書類を整理していた。

「先輩、ここってどう記入するんですか?」

そんなありきたりな質問に、当職の心拍数は跳ね上がる。危ない、もう少しで恋に落ちてしまうところであった。この状況をポジティブに考えるとしよう。上昇した心拍数を緊張感からなっているものだと思いこめば、いい緊張感を持って職務に励むことができるのではないか。

「いい加減に覚えろ」

咄嗟に口をついた言葉に続いて、書類の記入方法をつらつらと説明していく。その間も、心音がうるさいほどに耳の中で木霊してしまう。

「ありがとうございます先輩!やっぱり先輩は頼りになりますね」

「口を動かす前に手を動かせ」

口から溢れ出しかけた甘い言葉を飲み込み、冷たい言葉を吐いた。そうしなければ、当職は彼女の隣に立てなくなってしまう。


 「2人ともご苦労さん」

そう言って仮眠室から出てきたのはこの交番のハコ長(交番所長)である、大河内警部補だ。これまで数々の修羅場をくぐり抜け、刑事課での勤務経験もある現場を叩き上げてきた大ベテランだ。

「ハコ長、この書類に印鑑お願いします」

数枚の書類を丁寧に手渡す時、一ノ瀬は伸びをしてデスクから立ち上がる。猫が伸びをするさまを見ているかのような錯覚に陥る直前で、ハコ長の顔の顔を見てそれを中和させた。

「そろそろ小学生の下校時間なので、立ち番してますね!」

一ノ瀬は帽子をかぶると、警杖を握りしめ、全開になっているガラス張りの引き戸をくぐり抜ける。と、そんな一挙手一投足を目で追ってしまう当職をハコ長はニマニマとした目線で貫く。

「若いね〜。好きなの?」

そんな学生のような問いかけをするハコ長にうんざりして、ため息を噛み殺す。

「まさか。色恋沙汰で異動なんてごめんですし、職務に私情は持ち込みませんので」

嘘。そんな一文字が当職の脳内を何度も反復横跳びの要領でちらつく。

「そうだね。ただでさえ人手がないのに、これ以上欠員を出さないでね」

鋭い目付きの笑顔で告げるハコ長に、当職は首を縦に振ることしかできなかった。

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