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うちのメイドはやりすぎるっっ!〜最強メイドたちは今日も力で事件を解決します〜  作者: 犬斗
第三章 リリア・カルサス

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第19話 魔女と黒猫と師団長1

 火災から数日が経過した。

 俺は今回の顛末を報告するために、人材派遣局の局長室を訪れた。


「この度はご迷惑をおかけして、大変申し訳ございませんでした」


 姿勢を正し、深く頭を下げる。


「オリハルト課長、頭を上げてください。事情は各方面から伺いました」

「恐れ入ります」


 局長が机から立ち上がり、応接用のソファーへ移動した。

 俺にも座るように促す。

 秘書がコーヒーを淹れてくれた。


「リリアさんの状況は?」

「二日間ほど入院しました。現在は自分自身に治癒魔法をかけたことで元気です。意識が戻った際に、私にも治癒魔法をかけてくれました」

「そうですか。それは良かったです。しかし、巨大魔法を使ったのですよね?」

「はい。申し訳ございません」


 メイド課への異動時に、リリアに巨大魔法を使わせないように注意を受けていた。

 それには理由がある。

 市街地で巨大魔法の使用は法令違反だ。


「今回の巨大魔法は、リリアさんが上手くカモフラージュしたことで、大雨として隠せています。しかし、水面下で魔法師団から問い合わせがありました」

「え? 魔法師団ですか?」

「ええ、巨大魔法の使用がバレました」

「し、しかし! あれは火災の消火のためです!」

「理由がどうであれ、市街地で巨大魔法を使ったことは追及されます」


 もし、市街地で巨大魔法を使用する場合は、事前に魔法師団へ申請し、許可が必要となる。

 今回はそれを行っていない。


 しかし、リリアは犯人を取り押さえ、街の火災を消している。

 それを罪にされるのであれば、俺は断固抗議するつもりだ。


「課長、そう構えないでください。君の部下を想う気持ちは理解してます」


 局長がコーヒーを口にする。

 表情からは、何を考えているのか全く読み取れない。


「今回の件は、魔法師団も状況を把握していますし、犯人は魔法師団に関係する人物ということで、先方も負い目を感じています」

「そ、そうでしたか」

「お互いの妥協点を探りまして、今回は不問にしていただけることになりました」


 局長と魔法師団長による、取引があったということだろう。

 内容は分からないが、相当な駆け引きがあったと思われる。


「ただし、一つだけ先方から条件を提示されました」

「条件?」

「はい。課長には、ある人物と会っていただきます」

「私が? 人と会うんですか?」

「ええ、そうです。それが不問の条件です」

「それでリリアが不問になるのであれば、お任せください」


 局長がコーヒーカップを手に持つ。

 僅かに表情が曇ったような気がした。


「ここだけの話ですが、気をつけてくださいね」

「え? それは危険があるということですか?」

「いえ、そうではありません。先方は人をとても観察する方なので、飲まれないように注意してください」

「わ、分かりました」


 俺は今回の顛末書を提出して、局長室を後にした。


 ――


 仕事を終えた俺は、馬車に揺られ指定された場所へ向かう。

 目的地は、第一街区の中心地に近い最高級のレストランだ。


 店内に入ると、給仕が洗練された所作で出迎えてくれた。

 俺はこれほどの高級店に入ったことがない。

 心臓が口から飛び出しそうなほど緊張している。


「す、凄いな……」


 炎の魔石で照らされた廊下を進む。

 真紅の絨毯は柔らかく、まるで新雪の上を歩いているようだ。

 壁には高級そうな絵画がかけられている。


 廊下の最奥にある個室に案内されると、一人の女性がテーブルに座っていた。

 ワイングラスを片手に、微笑みながら俺に視線を向けている。


「あなたがメイド課の課長さん?」

「は、はい。オリハルト・ヴァラゼルと申します」

「ごめんなさいね。先に飲んでいたわ」

「とと、とんでもないことでございます」


 給仕が椅子を引く。

 俺が着席すると、給仕は一礼して退室した。


 俺はこの女性を知っている。

 いや、王都に住んでいて、知らない者はいないだろう。


「ほ、本日はお招きいただき……」

「そう緊張しないで、課長さん。ふふ」

「そ、そうはいっても……」

「あらあら、そちらの局長さんに何か言われたのかしら?」

「い、いえ……」


 早くも見抜かれたようだが、俺は必死に他の理由を考えた。


「これほどの高級店は初めてで、とても緊張しています。それに、恥ずかしながら私はテーブルマナーを知らなくて……」

「大丈夫よ。そのために個室にしたんだから。気にしないで。ふふ」

「あ、ありがとうございます」


 白いドレスを纏い、妖艶な笑みを浮かべる女性。

 青髪の長髪が優雅に流れる。

 名はアドリアーヌ・オレームという。

 王国の数ある軍隊の中で、最強と呼ばれる魔法師団の団長だ。


 『ヴァルストの魔女』と呼ばれ、この国どころか、世界的に見てもオレーム様以上の魔法使いはいないと言われている。


 それほどの人物が、なぜ俺に会おうと思ったのだろうか。

 疑問に思っていると、給仕が入室しグラスにワインを注ぐ。

 そして、食事が運ばれてきた。


 オレーム様と乾杯をして、しばらく食事を楽しむ。

 当初は緊張して味なんて分からなかったが、徐々に緊張が解けてきた。


「う、旨い!」

「あら、良かったわ」

「あ! 失礼いたしました!」

「ふふ、普通に食事を楽しみなさい」


 王都のレストランで最高と格付けされているだけあって、どの料理も信じられないほど旨い。

 俺はこれほどの料理を食べたことがなかった。


「美味しそうに食べるのね。ところで、オリハルト課長。私に何か質問はあるかしら?」

「質問……ですか?」


 俺を呼んだ理由を聞きたいところだが、さすがにそれを聞くのは失礼だろう。

 それ以外となると、犯人の状況が気になっていた。


「オレーム様、犯人はどうなりましたか?」

「アドリアーヌでいいわ」

「アドリアーヌ様……」

「さんでいいわよ。あなたとは仲良くしたいの」

「か、かしこまりました」

「犯人はね、元魔法師団の者だったわ」

「え?」

「規律違反を繰り返す団員だったのよ。それでも魔法使いは貴重だから、何度か更生のチャンスを与えたわ。でも調子に乗ったみたいでね。最終的に懲戒処分にしたわ。その際に魔力制限もかけたのよ」

「魔力制限ですか?」

「そうよ。私の力で魔法を使えないようにしたの。ほんとバカよね」

「そ、そんなことが……。あ、申し訳ございません」


 できるのかと口にするところだった。

 魔法師団長に対して失礼すぎるだろう。

 できるからやった。

 それだけだ。


「あなたは真面目ねえ。私にだって、それくらいできるわよ?」


 私にだってというか、そもそも他人の魔力に制限をかけるなんて聞いたことがない。

 それに俺が入室してから、ずっと俺の目を見ている。

 その視線は俺を観察しているようだ。


 この人、怖い……。

 なんとなくエリザベータさんと同じ匂いがする。


 アドリアーヌさんがワインを口にした。


「犯人は現在取り調べ中よ。大量の炎の魔石は、魔法師団から盗んだものだった。取り調べが終わったら、犯人の死罪は確定ね。死者が出ている放火だもの。それに被害が大きすぎる。一族も責任を追及されて、裁かれるでしょうね」

「そうですか」


 今回の放火事件は相当な被害が出たそうだ。

 騎士団が後処理を行っている。


「ねえ、オリハルト君」

「なんでしょうか?」

「あなたは、リリアちゃんを守ってくれたんだって?」

「え? ま、まあその……部下ですし」


 アドリアーヌさんが姿勢を正した。


「本当に、ありがとうございました」


 そして、深く頭を下げる。

 この店に来て、アドリアーヌさんが初めて俺の目から視線を外した。

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