魔法で特訓すっぞー
オリバー「やっぱり全部食うべきじゃなかったんだ……」
──一方その頃、メリアたちは──
アレックスがゴブリン退治のクエスト用紙を持ってきた。
魔法の訓練のあとで行きたい、とノートに書いて見せる。
メリアとタツミはその提案に賛成した。
そのとき、トイレから出てきたオリバーが合流し、話を聞いてから同意した。
オリバー「いいじゃん、それ行こうぜ」
メリア「それじゃあ、行こうか」
こうして、オリバー、メリア、タツミ、アレックスはギルドを出て、訓練場へと向かった。
しばらく歩くと、小さなドーム型の訓練場に到着した。
そこには木の剣や盾、棍棒などが揃っていて、藁の人形も置かれていた。
さっそく魔法訓練が始まる。
メリアはまずオリバーに向き合い、説明を始めた。
メリア「オリバー、まずは魔法と魔力の説明をするわ」
オリバー「おう」
メリア「まずはっきり言っておくけど、君の魔法の才能は……かなり低い」
オリバー「……マジかよ」
メリア「高威力の魔法、例えばトルネードとかは無理よ。でもファイヤボールとか、武器に属性を付与する魔法ならできるはず」
オリバー「なるほどな」
メリア「属性付与っていうのは、火の属性を剣に付けて、一時的に”ファイヤソード”みたいな状態にするってことよ」
メリア「タツミのほうは魔法の才能はあるけど、あとは基本と訓練が必要ね」
タツミ「えっ……あ、あの……ほんとですか? そ、そんな……才能が……あ、あるなんて……。あ、ありがとうございます……メリアさん、すごく物知りで……尊敬します……」
メリアはちょっと照れたように「ふふん」と笑った。
メリア「じゃあまずはオリバーからやるわよ」
その間にオリバーは藁の人形に向かい、両手を突き出して叫んでいた。
オリバー「ファーーイーヤーー……ボーーールッ! くたばれーネリーザ!」
メリアはすかさずオリバーの頭にツッコミを入れた。
メリア「ちょっと何やってるのよ! ていうかネリーザって誰よ!」
オリバー「えっ、メリア知らねぇの? 『スターボール』の有名な悪役だよ。主人公の七人の嫁を攫った悪の帝王さ」
「……って、スターボールの主人公の真似したって出るわけねーよな……」
メリアはため息をつき、ふわっと肩に乗ると、オリバーの首元を手でなにか操作するような仕草をした。
オリバー「ハハハッ、くすぐったいって!」
メリア「これで面倒なプロセスを飛ばしたわ。さ、もう一回やってみて」
オリバー「おう、今度こそ! ファーーイーヤーーッボーーール!」
今度は両手から小さなファイヤボールが飛び出し、藁人形に命中した。
タツミ「わ、わぁ……すごい……!」
アレックスは拍手しながら、ノートに「やったね」と書いて見せた。
オリバー「フッ……俺の勝ちだな」
メリアはジト目で見つめた。
メリア「……まあ、うん。その調子で練習してて」
メリア「次はタツミさん、こっちに来て」
タツミ「あっ……は、はい……」
内心は不安と緊張でいっぱいだった。
そっとカバンから木の杖を取り出す。
オリバー「おいおい、タツミ。この小枝で魔法撃つのか?」
「杖ってもっとこう、長くて重々しいもんじゃね? アニメとかだと、棍棒みたいに投げたりするし」
メリア「そういう杖もあるわよ。でもこれは初級者向けなの」
メリアは咳払いして、タツミに向き直った。
メリア「まずはこう唱えて」
⸻
「出よ、フレイムボール──私の前に立つ者よ、炎となりて焼き尽くせ!」
⸻
呪文を唱えると、タツミの杖からオリバーのものより大きな火の玉が現れた。
ただし、速度はとても遅い。
オリバーはフレイムボールに気を取られた。
タツミ「わ……で、できた……! ほ、ほんとに出た……!」
メリア「よくやったわ、タツミ!」
メリア「オリバー、これが無詠唱と詠唱魔法の違いよ」
「無詠唱は速いけど、範囲も威力も小さい」
「詠唱魔法はそのぶん遅いけど、範囲も広くて威力も大きいの」
オリバーは火の玉を見ながら反応する。
オリバー「へー……俺のって無詠唱だったのか?」
メリア「そうよ。『ファイヤボール!』って叫んでただけでしょ?」
オリバーがくしゃみをした瞬間――
火の玉はふっとかき消えた。
オリバー「あっ……消えちゃった」
それを見たタツミはショックを受けた。
「が、ガーン……」
タツミ「や、やっぱり……わ、わたし……ダメなんじゃ……ないかな……」
メリアはすぐにオリバーのところへ行き、頭をはたいた。
メリア「炎で遊ぶな!」
オリバー「いてっ、ご、ごめん! まさか消えるとは……」
オリバーはタツミに近づいて頭を下げた。
オリバー「悪かった、魔法……消しちゃって」
タツミ「う、ううん……だ、大丈夫……。ま、まだまだ、練習すれば、き、きっと上手くなるから……」
オリバー「ほんとに悪かった。つい……」
タツミ「う、うん……」
メリア「……まあ、とりあえず二人とも続けて練習しなさい」
こうして、オリバーとタツミの魔法訓練が始まった。
オリバーは「ファイヤボール」と「フレイムボール」を覚えた。
メリア「次は属性付与を教えるわよ。オリバー、剣を構えて」
オリバー「こうか?」と両手で剣を構える。
空中に浮かんだメリアが剣に手をかざし、火の属性を付与した。
剣は赤く光り、火花を散らしていた。
オリバー「おお……すげぇ!」
メリア「そのままあの藁人形を攻撃してみて!」
オリバー「了解! はっ!」
剣を振ると、斬った部分が焦げて黒くなった。
オリバー「すげぇ……焦げてる!」
メリア「これが属性付与よ」
メリア「今度はタツミ、オリバーの剣に近づいて。こう唱えて」
⸻
「濡れよ、この剣──清き水と共に、邪なるものを断つ力となれ」
⸻
タツミが震えながら詠唱すると、剣が青く光り、水滴を帯び始めた。
オリバー「おおっ、今度は剣が濡れてる!? なんか青くてカッコいい!」
メリア「よし! オリバー、今度はそのまま思いっきり藁人形に向かって振って!」
オリバー「オーケー! はああっ!」
剣を振り下ろすと、水の斬撃が飛び、藁人形の首をきれいに切り落とした。
オリバー「Eita caramba !(おっ、マジかよ!)」
タツミ「わ、わぁ……す、すごい……!」
アレックスはまた拍手しながら、ノートに「すごいぞー」と書いて見せる。
メリア「どう? この威力!」
メリア「よーし、この調子でマスターして、ゴブリン退治に備えるのよ!」
オリバー「おーっ!」
タツミ「……おっ、おー……っ」
──こうして、ゴブリンのクエストに備え、オリバーたちの魔法特訓が始まった──