第9話 俺の冒険はこれから始まるんだ
木漏れ日の差し込む草原で、オリバーとタツミは魔法訓練の休憩中だった。
「ふぃ〜……暑いな」
オリバーが水筒を口に運びながら、ふと思い出す。
(そういえば……メリアって、アレックスに魔法の練習させてないな)
無詠唱魔法なら、声を出せないアレックスでも使えるはずだ。なのに、なぜ彼だけ訓練を免除されているのか。
その疑問を、オリバーは隣のタツミにぶつけてみた。
「なあ、アレックスって魔法の練習しないの?」
「か……彼は、魔法が使えないの」
タツミは少し目を泳がせ、ぽつりと答える。
(……彼は人形だからね)
「そっか」
オリバーは頷いた。
(だからさっきからずっと拍手して見てたのか……)
魔法が使えないのは残念だが、彼にも別の強みがあるのだろう。
オリバーは、椅子に腰掛けていたアレックスに近づき声をかける。アレックスは無言でノートを取り出し、ペンを走らせた。
『僕は魔法は使えない。でも、剣には自信がある。それと……この“鞘”がある』
「その鞘、何か特別なのか?」
アレックスはうなずき、ページをめくって一言。
『これで何度も仲間を守った。剣の腕は、それなりに鍛えてある。君に剣術を教えるよ』
「まじで!? ぜひ頼むよ!」
少年らしく目を輝かせ、オリバーは立ち上がった。
二人は、訓練用の木剣を手に取り、草原の広場へ向かう。軽量な素材で作られた子供用の剣だったが、今の彼らには十分だった。
『まず、構えを見せて』
アレックスの指示に、オリバーは映画やアニメで見たような“それっぽい”構えを取る。
『……攻撃してきていいよ』
オリバーは一気に距離を詰めて走り出す。
アレックスは剣を両手で持ち、剣先を下に向けていた。まるで隙だらけに見える構えだ。
(あれ、思ったよりチャンスかも……)
そう思って振り下ろそうとした瞬間。
シュッ――
風を切る音と共に、アレックスの剣が的確に動き、オリバーの剣を横に弾いた。そして反動を使って、そのままオリバーの額に軽く一撃。
「いたっ……!」
思わず頭を押さえるオリバー。
「やられた……早いな、アレックス!」
アレックスは静かに構えを戻した。
その後、二人は三十分ほど剣術の基礎練習を繰り返す。オリバーは必死に食らいついたが、アレックスの技術は確かだった。
やがてアレックスは再びノートを開き、助言を書く。
『君は防御が甘い。あと、攻撃するときにダメージを受ける前提で突っ込んでる。危ない癖だよ』
『それと、一撃に全体重を乗せすぎてすぐバテてる。もっと冷静に、相手の隙を見て叩くんだ』
『剣は“心”だよ。激情に任せた攻撃じゃ、冷静な相手には勝てない。心を静めて、動く。僕は、そう信じてる』
オリバーはその言葉に黙ってうなずいた。
「……心、か」
自然と、剣を握る手に力がこもった。
⸻
訓練を終えた頃、空腹に気づいたオリバーが口を開いた。
「腹減ったな。アレックス、うまい店知ってる?」
アレックスは無言でうなずき、先頭を歩き出す。
たどり着いたのは、小さなパン屋だった。だが、その外観はどこかレストランのような雰囲気を持っていた。
(パン屋……? けど、なんか良さそうな店じゃん)
木製のテーブルと椅子が並ぶ落ち着いた店内。オリバーたちは席に座り、メニューに目を通す。
(ホットドッグみたいなやつ、ピザっぽいパン……魔獣の肉入りもあるのか。……俺はやっぱ、チーズのやつだな)
オリバーはダブルチーズのピザパンを選んだ。メリアはタマゴサンド、タツミもピザパン、アレックスは魔獣の肉入りパンを注文した。
しばらくして、焼きたてのパンが運ばれてくる。
「うまっ!」
思わず声を漏らすオリバー。四人はしばし、のんびりとした時間を楽しんだ。
⸻
食後、オリバーたちは次のクエスト――「ゴブリン退治」の準備に取りかかっていた。
アレックスは愛用の剣を布で丁寧に磨いている。その鞘は一見普通だが、ただの道具ではない気配があった。
タツミはバッグに大量のポーションを詰め込んでいる。オリバーも、メリアにもらったバッグに必要な道具を詰め込んでいた。
「はい、オリバー。これ、あげる。お守りよ!」
メリアが差し出したのは、小さな羽のスクラップだった。
「お、ありがとな。……で、これは何のお守り?」
「幸運アップの効果があるのよ」
「……俺ってそんなに運悪そうに見えるのか?」
「うん! 見える!」
「がーん!」
和やかなやり取りのあと、オリバーたちは武器を背負い、ゴブリンの巣がある洞窟へと歩き出した。




