番外編 オリバーの料理編
夜の街角。ひっそりとした路地に立つと、メリアは軽く指を鳴らした。扉が現れる。魔法で生み出されたその扉を開け、彼女とオリバーはふたりの住む小さな部屋へと帰ってきた。
部屋に戻ると、それぞれやることが決まっていた。
「じゃ、私は先にお風呂入ってるね」
そう言ってメリアはスリッパを突っかけ、ふわふわと浴室へ向かった。
「わかったよ。……先に、デザート作っておくよ」
オリバーは小さく返事をしつつ、キッチンへと向かう。料理なんて滅多にしないが、今日はちょっと特別だ。プリンを作ると決めていた。
キッチンのフックにかかったエプロンを手に取る。
「……なんだこれ。ピンク色?」
首にかけてみたものの、サイズが小さすぎて、腰紐が締まらない。しかもレース付きの妙に可愛いデザインだった。
「いや、これは無理。なんか、無理」
エプロンをそのまま椅子に置き、いつもの服のまま調理に入る。
(まずは……牛乳、練乳、砂糖だな)
冷蔵庫を開けて牛乳を取り出す。だが、練乳と砂糖が見当たらない。
(あれ……どこだ? メリアに聞くか)
風呂に浸かっていたメリアは、極楽気分に浸っていた。
(ふぅ〜、お風呂最高……)
コンコン。
突然、浴室のドアが叩かれる。
「メリア、砂糖と練乳ってどこ?」
「えーと、砂糖は上の棚。練乳は冷蔵庫の奥にあるよ」
「助かった、ありがと!」
オリバーは言われた通りに材料を揃え、作業台に並べる。練乳の缶をミキサーに丸ごと入れ、同量の牛乳を注ぐ。スプーンで砂糖を三杯、丁寧に加えてスイッチオン。甘い香りが広がる。
次はキャラメル。容器に砂糖と少しの水を入れてトレーの中に水に入れてオーブンで、じっくりと焦がす。
ちょうどその頃、湯船の中のメリアはふと考えた。
(練乳……? 何やってるんだろ、オリバー)
キャラメルができあがり、オリバーはその上から先ほどのプリン液を注ぎ、オーブンへ。設定は180度、25分。
その頃、風呂から上がったメリアが声をかけた。
「ねえ、デザートできた?」
「まだ焼いてるとこ」
「そっか。じゃ、着替えてくるね」
メリアはタオルで髪を拭きながら部屋に戻っていった。
時間を持て余したオリバーは、ストレッチしながら焼き上がりを待つ。その間、メリアは着替えを終えて、今度は夕飯の支度に入っていた。今日のメニューは肉じゃが。
グツグツと煮える鍋の前で、メリアはいつものように落ち着いた手つきで味を整える。
プリンが焼き上がり、冷蔵庫に入れて冷やすだけになった頃、メリアが振り返って聞いた。
「プリン、作れるんだね」
「うん。母さんに教えてもらったから」
「へぇ、料理得意なお母さんだったの?」
「いや、プリンだけはなぜか熱心だったんだよね」
「ふふ、ちょっと面白いね」
肉じゃがが完成し、白米と一緒に皿に盛りつける。ふたりで簡単な夕食を囲む。
「やっぱ、メリアの料理ってすごいな。全部うまいよ」
オリバーは本気で感心した顔をしながら言った。
「そんなに褒められると、照れるんだけど……」
メリアは少しだけ顔を赤らめながら、肉じゃがを口に運んだ。
食後、ふたりは冷蔵庫からプリンを取り出す。見た目は完璧だった。
「わあ……! 綺麗にできてる!」
オリバーがナイフを持ち、皿の上のプリンに手を伸ばした、その瞬間。
「いただきっ!」
メリアが信じられない速さでスプーンを突き出し、プリンの半分をあっという間に口に放り込んだ。
「んん〜っ! 美味しいっ!」
オリバーはしばらく呆然としていた。
(……恐ろしく速いつまみ食いだ。俺じゃなきゃ見逃してたな)
それが、メリアの好物が「オリバーのプリン」になった日だった。
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