死の魔王 ガルミ・シーマ
闘技大会で敗北したサボンは、悔しさを抱えながら医療室で仲間に支えられていた。
一方その頃、光の勇者ナタリアは圧倒的な力を見せつけ、試合後にはサボンを見舞いに訪れる。
オリバーは彼女に弟子入りを願うが、あっさりと断られてしまった。
その後、オリバーたちは「墓荒らしの捕縛」という新たなクエストを受注する。
そして、霧深い墓地で出会ったのは――骸骨の死体だった。
骸骨の肩に触ったオリバーは、思わず叫ぶ。
「eita meu deus um esquelet !!」
(オーマイガー! 骸骨だー!)
身の危険を感じたオリバーは、慌てて後ろに一歩下がった。
だがその瞬間、地面の土から伸びた手が彼の足を掴む。
「!?……」
下を向いたオリバーは、土中から這い出そうとするゾンビの頭を踏みつけ、必死に足を振り払った。
「な、なんだよこれ……!」
状況に混乱するオリバーをよそに、アレックスは即座にタツミの前に立ち、彼女を守るように片腕で下がらせ、もう片手で剣を抜いた。
タツミはガタガタ震えながら骸骨を指差す。
「ひっ……が、骸骨……!?」
メリアはオリバーの肩に飛び乗り、周囲を鋭く警戒する。
「気をつけて、オリバー……あれは魔法で蘇ったゾンビとスケルトンよ」
オリバーははっとした。
――さっき足を掴んだのはスケルトンじゃない。ゾンビだ。
もし本物のゾンビなら、噛まれれば感染してしまうかもしれない。
恐怖に駆られたオリバーは慌てて自分の足を確認した。
「なぁメリア! こいつらゾンビ、噛まれても大丈夫なのか!?」
「……は? 何言ってるのよ」
メリアは呆れたようにため息をつく。
「それは映画の話。こいつらは科学じゃなく魔法で蘇ったゾンビなの。だから噛まれても感染しないわよ」
「sem problemas?(問題なし?)」
「イエス! ノープロブレム! ノーインフェクションよ!」
「あ、そうか……ここ異世界だったな。そういうの無いんだったな」
「そうよ、さっさと倒しましょう」
「じゃ、やるか」
オリバーは剣を抜き放ち、目の前のスケルトンとゾンビを素早く斬り伏せる。
次第に霧が薄れ、墓地の全貌が明らかになっていった。
——!?
ほとんどの墓は荒らされ、墓石の近くでは無数のスケルトンやゾンビが土を掘り返している。
そして墓地の中心には、巨大な土の山が築かれていた。
その山の上に、二つの人影が立っていた。
「ご主人様、どうやら冒険者がやってきました」
「冒険者が来たか」
椅子に腰掛け本を読んでいた人物が、面倒くさそうに答える。
ひとりは青白い肌にメイド服をまとった女。死者のように冷たい表情をしており、身体の随所には縫い跡が走っていた。閉じた片目の代わりに、残る片目だけが鋭く光っている。
そして本を閉じ、立ち上がったご主人らしき男が振り返る。
オリバーは彼を見て目を丸くした。
「……えっ、嘘だろ。本屋の店員!?」
「あれっ? あいつ、最近俺の本屋に通ってるオタクじゃねえか?」
「何だよ、お前……冒険者だったのか」
呆然とするオリバーは、すぐに質問をぶつけた。
「なんで本屋の店員の君がここにいるんだ? それに……もしかして本、無くしたのか?」
「無くしてねぇ! それに俺は店員じゃない、店主だ!」
「そして俺は偉大なるネクロっ……」
彼が名乗ろうとしたその瞬間、オリバーが割り込む。
「あっ分かった! お前、魔王だな!」
「うーん、多分……死の魔王だな! 当たっただろ!」
「……」
本屋の男は相方のメイドをちらりと見る。
小声での相談が交わされた。
「ご主人様、彼は勘違いしてますけど……」
「……まあ、魔王でいいんじゃないか? ‘死の魔王’ってかっこいいし」
「確かに……ネクロマンサーよりはマシですね」
そうして男は大声で宣言した。
「そうだ! 俺こそが偉大なる死の魔王――ガルミ・シーマだ!」
その間、メリアはオリバーの耳元で小声で突っ込む。
「ちょっと! あの人、絶対魔王じゃないわよ」
「えっ、マジで!?」
「ネクロマンサーって言おうとしたのよ。でも君が魔王だって言ったから、乗っかっちゃったわよ」
「……えぇ?」
無視されているのを感じながらも、ガルミは続けた。
「おいティーネ。確か妹が実験体を探してたよな?」
「はい。妹様はモルモットが欲しいと仰っていました」
「なら、こいつらを贈ってやろうじゃないか」
ガルミは片手を突き出し、命令を放つ。
「行け! 奴らを捕らえろ!」
次の瞬間、墓地中のスケルトンとゾンビが動きを止め、一斉にオリバーたちへと牙を剥いた。
墓地全体が、不気味な呻き声で満ちる。
——グルルル……ガァアッ!ウァッウワーッ!
棺の中からも、土の下からも、次々と亡者が這い出してくる。
⸻
次回
「厄介なメイド!」




