油断は大敵!
訓練所を出て森を歩いていたオリバーたち一行は、軽く世間話をしていた。
「スターボールってさ、主人公が天然でさ! 七人も嫁がいて、しかも敵まで友達にしちゃうすげーやつなんだよ!」
オリバーが嬉しそうに語る。
「しかも必殺技がめっちゃカッコいいんだよ! 『レインボクルーエクスブロージョン!』って叫ぶんだぜ!」
「……タツミは、どんなアニメが好きなんだ?」
タツミは少し照れたように口を開く。
「ま、魔法少女……とか、結構好きだったよ」
「へぇ~いいね! アレックスは?」
オリバーが振り向くと、アレックスは手元のノートにささっと文字を書いた。
『そういうのは見ていない』
「そっかー……」
そんな他愛もない会話をしながら、一行は森を進んでいた。
⸻
やがて、目的地であるゴブリンの洞窟に近い村へと到着した。
「ここが“始まりの村”か……!」
RPG風の発言をするオリバーに、すかさずツッコミが入る。
「いやいや、ちゃんと『トスート村』って看板に書いてあるでしょ」
肩に乗っているメリアが、冷静に指摘した。
その時、全身毛むくじゃらのおじさんが話しかけてきた。顔のほとんどが毛で埋もれていて、目しか見えない。
「おお、お主たち……冒険者じゃな? ゴブリン退治に来たか?」
おじさんは、背の高いアレックスに向かって話しかけてきた。
アレックスはノートに返事を書く。
『はい! ゴブリン退治に来ました』
「おお、そうかそうか。待っておったぞ。わしはこの村の村長――カベロンじゃ!」
その名前を聞いた瞬間、オリバーがぷっと吹き出して、そっぽを向いた。
「……オリバー、何笑ってるの?」
ジト目のメリアが問う。
「だ、だってさぁ……ロン毛じゃん。カベロンって。ポルトガル語で……」
「……」
無言でジト目の圧をかけるメリア。
オリバーは笑いを必死にこらえ、真面目な顔に戻した。
⸻
村長の話によると、近くの洞窟に住み着いたゴブリンたちが村の作物を盗んでいるという。
俺たちは森を抜け、ゴブリンの洞窟へと向かった。
先頭はオリバーと肩に乗ったメリア。タツミは真ん中、アレックスが最後尾で行動する。
洞窟に入ると、ジメジメと湿っていて、下水のような匂いが漂っていた。食べかけの果物や骨のようなものも転がっている。
「トラップに気をつけろよ……」
オリバーは足元に注意しながら進む。
奥に進むにつれ、何かの物音が聞こえてきた。オリバーは壁に張り付きながら移動し、ゲームや映画でよく見る軍隊のハンドサインを使って仲間に合図を送った――が。
(……全然通じてねぇ)
キョトンとした顔の三人を見て、オリバーは小さな声で作戦を伝える。
「俺が先頭でゴブリン倒す。メリアは援護。アレックスは他のやつらを頼む。タツミはアレックスの援護な」
「わ、わかった!」
「任せろ(ノート)」
「了解、援護するわ」
「メリア、光の魔法で目潰しできる?」
「できるけど…」
「じゃあ、頼む!」
メリアが光の玉を放ち、洞窟の奥で眩い閃光が炸裂。ゴブリンたちが苦しそうに目を押さえて叫び出した。
その隙に――突撃!
オリバーは二匹のゴブリンを斬り倒し、アレックスはタツミの水属性魔法を付与された剣で残りのゴブリンを一閃。瞬く間に戦いは終わった。
「意外とあっさりだったな」
「誰も怪我しなくてよかったよ」
「ふふ、完璧な連携ね」
洞窟内を調べたが、残されていたのは壊れた樽、腐った果物、そして使い古された布だけだった。
⸻
報告のために洞窟を出ようとしたその時――
「囲まれてる……!」
森の茂みに身を隠していたゴブリンたちが、弓を構えていた。
一同、緊張が走る。
アレックスがオリバーの肩を叩き、ノートを差し出す。
『安心しろ』
いや、全然安心できねぇよ!と思ったその瞬間――
アレックスが前に出た。ゴブリンたちが一斉に矢を放つ。
……が、矢は彼に届く前にポトリと落ちた。
「なっ……!?」
彼の腰の鞘が、黄金色に輝き始めた。そして、アレックスは剣を鞘に収め、そのまま構えていたゴブリンたちに向けて――
一閃。
剣から放たれた光の斬撃が、一直線にゴブリンたちの首をはね飛ばし、その先の大木までも真っ二つに切り裂いた。
「す、すげーぞアレックス!!」
オリバーが拍手喝采。
メリアとタツミも、安堵の表情を浮かべていた。
⸻
村に戻ると、村長は涙を流して大喜びし、一泊分の部屋を用意してくれた。
こうして――オリバーたちの最初の冒険は、無事に幕を下ろしたのだった。