転生の始まり
俺は奈伊藤オリバー。高校生になる前に、死んだ。
近所の祭りで、友達と最後の夏祭りを楽しむ予定だった。
しかし、集合場所に着いても誰もいなかった。携帯で連絡したかったが、俺にはそもそも携帯がなかった。
俺はしばらく屋台を見て回った。けれど、友達の姿はどこにもなかった。
(あいつら、どこで何してんだ?)
そんなとき、自分の右ズボンのポケットに誰かが触れ、財布を取られた。
俺はその人物を路地裏まで追いかけた。
逃げ場のない路地裏に追い詰めたとき、犯人はナイフを取り出した。
腹を刺そうとする泥棒に、俺はすぐに気づいた。体格で勝る俺は、両手で相手の腕を押さえ、そのまま顔面に拳を叩き込んだ。
だが、相手は隠し持っていたもう一本のナイフで、俺の肩を刺してきた。
「ぐっ……!」
強い痛みに耐えながら、俺はさらに泥棒の顔を殴って、壁に押し付けた。
しかし同時に、相手は再び腹を狙ってナイフを突き刺した。
「ぐはっ!」
ナイフの痛みは鋭く、つらかった。
泥棒の顔がちらりと見えた。
(あいつは……)
そのまま俺たちは倒れ、俺は目を閉じた。
⸻
そして目を開けると、眩しい光が目に差し込んできた。
「おっおおおおお! 目がああああああ! 俺の目がぁああ!」
「Aii, meu olho oooo!!」
すると、綺麗で落ち着いた声が聞こえてきた。
「あらあら、珍しいわね。日本人じゃなくて、外国人が出てくるなんて」
「ふふふ……ごめんなさいね。私の美貌が光を放ってしまっているの」
やがて光は徐々に弱まっていった。
オリバーはまばたきしながら、徐々に視力を取り戻していった。
目の前には、見たこともないほどの絶世の美女がいた。まるで映画に出てくるような、美しさだった。
あまりにも美人だったので、俺は目を大きく見開いて驚いた。
そして、あまりの衝撃に、脳内では鼻血が噴水のように噴き出していた。
「あらあら、私ってそんなに美人だったかしら?」
目の前の美女が話しかけてきた。彼女は玉座に座り、資料を見ていた。
「O quê!?(な、何だって!?)」
思わずポルトガル語が口をついて出た。
(まさか……俺の心を読めるのか……?)
「ええ、読めるわよ」
と彼女は返事した。
俺は驚いて思わず叫んだ。
「……マジか!」
「マジよ」
⸻
「ねぇ、オリバーくん。異世界転生に興味ある?」
「……異世界転生?」
(マジか……え、アニメでよくあるあれ!?)
「ええ、そうよ。あなたがよーく知っている異世界転生」
「行きたい? それとも、行きたくない?」
俺は嬉しかった。
(異世界転生だぞ!ノーと答える人間なんているか?)
「行きたいです!」
「ふふふ……よくわかったわ。では、あなたを転生させましょう!」
と、女神のような美女が言った瞬間、俺の足元に魔法陣が現れた。
でも、内心ではまだ少し不安が残っていた。
(異世界転生はしたいけど……一人はちょっと不安だ)
「……あの、女神様?」
「なにかしら?」
「その……ひとりじゃ不安だから、案内役をつけてもらえませんか?」
勇気を振り絞って、そう頼んだ。
「あなたの不安、ちゃんと伝わったわ。誰かをつけてあげる」
「それと、転生者の能力は性格に応じて決まるから、頑張ってね。転生者や魔王が多い世界だけど」
そして、俺の足元の魔法陣が光り輝いた。
俺はワクワクしていた。けど、何かを忘れているような気もしていた。
そんなことを考えていたら――
「バイバーイ♪」と女神が手を振った瞬間、足元がふっと消えた。
「えっ!?」
魔法陣のあった場所が、突然、真っ暗な円形の穴になり、俺はそこへ落ちていった。
「えええええええーーーーーっ!!」
⸻
こうして、俺は転生した。
やがて、まぶたを開くと――
目の前に、女の子がいた。
……俺の腹の上に、立っていた。
その子は小柄で、褐色の肌に黒髪。羽のようなアクセサリーをつけていた。
服は黄色いTシャツにジーンズのミニパンツ、足元はサンダル。背中には……なぜか天使の羽があった。
周囲は森で、どうやらそこで目を覚ましたらしい。
「小っさ……」
「小さい言うなっ!」
「君はその……俺の守護天使?」
「違うよ、私は妖精なの!」
「でも、君の羽、どう見ても天使だよ?」
「……あっ! 羽、変えるの忘れてた!!」
彼女は天使の羽をボロッと外すと、まるでコスプレのように妖精の羽を魔法で出してつけた。
「私は妖精だから、天使とか人前で言わないでよ」
「うん、分かったよ。それで、君の名前は?」
「メリアよ」
「よろしく、メリア!それで、ちょっとどいてくれる?」
……ていうか、そろそろどいてくれる?
こうして、女神の使者で案内役のメリアと共に、俺の異世界冒険が始まった。