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第8話 皇子の思惑2

「マリア、話したいことがある」


 ノックとともにお兄様の声が聞こえてくる。

 ちょうどアマラへの情報共有を終えたタイミングだった。


「お兄様、どうぞ」


 アマラに目配せしお茶を準備させる。

 何を話したいかはだいたい予想がつくが。


「ご用件は?」

「さっきの話についてだ」


 お兄様の表情が固い。

 そういう時はたいてい私関係の話だろう。


「マリアは学校について知っていたな?」


 ええ、知っていますとも。

 夢の世界で通っていましたから。

 でもお兄様に夢の内容を話したことはないはず。


「はい。不思議な夢の中で私は学校に通っていましたので。ですが、お兄様にお話しした記憶がございませんが?」

「ああ。マリアからは聞いていない。だが、アマラから寝言で大学と言っていたと聞いてな」

 

 私のプライバシーはどこにいった?

 妹の寝言を兄に話す侍女がどこにいるのよ!

 ジロっと侍女を睨みつける。


「お嬢様ぁ……これには深ぁぁいワケが……」

「私がアマラに無理を言って聞き出したんだ」

「いくらお兄様でも乙女の寝言を聞き出すのは褒められた行動とは思えません!」


 お兄様が申し訳なさそうな顔をする。


「それについては謝る。だが必要なことだったんだ。マリアの夢の内容を把握しておかねば危険だからだ」

「危険ですか?」

「そうだ。マリアの夢の世界はとても発展している。違うか?」


 確かに文化や技術はこの世界を大きく超えている。

 魔法は存在しないが、それを差し引いても百年や二百年では追いつかないだろう。


「はい。確かに千年先だと言われても納得してしまいそうなほどです」

「さきほど叔父様が学校についてマリアに聞いていたら……どう答えていた?」


 あっ、お兄様より正確に答えてしまっただろう。

 この世界では一般的には知られていないことを。

 引きこもりの私が遠くの国で学校が出来たことを知るはずもないのに。


「自分が体験したかのように、スラスラと答えていたと思います」

「そうだろうな。相手が叔父様たちであれば問題はないが、他家の人間やましてや皇族だったらどうだ?きっとその知識を囲い込むために動くだろうな」


 お兄様の言っていることは正しい。

 今やるべきことの何個も先の答えを知っている人間を欲しがらない為政者はいないだろう。

 気付かないうちに私は危険に飛び込もうとしていたのかもしれない。


「お兄様、ありがとうございます。私のことを考えての行動だったのですね」

「いいんだ。マリアを守ることが私の幸せであり存在価値なのだから」


 お兄様、それプロポーズと勘違いしてしまうようなセリフです。

 ほかの女性に言ったら一撃で堕ちます。

 きっと今、私は耳まで赤く染まっていると思う。


「お、お嬢様!気を強く持ってくださいぃ」

「アマラ、いきなり何事だ?まあいい。他にも話したいことがあったんだ」


 よかった。追撃はなかったらしい。

 天然たらしは手に負えない……。


「学校はただの学問を教える教育機関ではないと思っている」


 学校とは学問を教えるから学校なのでは?


「それでは何を教えてくれる場所だと思うのですか?」

「魔法だ」

「その根拠は?」

「今回皇帝陛下に呼ばれたメンバーが成体から成人の年齢だからだ。学問ならもっと若くても問題ないはずだ」


 成体後だと家の仕事を手伝い始める貴族も多い。

 その大切な時期の貴族を呼び寄せるのだから魔法関係となると確かにしっくりくる。

 

「そうですね。では、皇族が資金を出してまで急ぐのはなぜなんでしょう?」

「早ければ早い方が利になるってことだろう。それに第一皇子殿下が発案というのも気になるな」


 そういえば第一皇子は私と同い年のはずだから……みんなと一緒に学校通いたいから急がせたってこと?

 可愛いとこあるじゃない。


「お嬢様ぁ、皇子殿下はそのような可愛らしい方ではないと思いますよぉ」


 私ってそんなに顔に出やすいかなぁ。

 完璧に心が読まれてる気がする。


「そうだな。マリアは考えてることがだだ洩れなことがあるな。そして殿下はやり手で極めて合理的だろうな」

 

 合理的な人が急いで魔法学校を作る理由。


「戦力の拡充と管理の容易化?」

「マリア、素晴らしい回答だ」


 魔法は戦争において勝敗を左右する。

 優秀な貴族の魔法は百人の兵に勝る。


「我が家のような有力貴族と、弱小の女爵家では魔法教育にも歴然の差がでる。であれば、皇族が受けるレベルの教育を提供すれば戦力の底上げができるだろう」

「しかも、学校だったらテストで成績管理されますしね」

「お嬢様の言うテストはよくわかりませんが、戦力を把握しやすくなりますねぇ」

「結果シバ王国に対する圧力にもなるだろうな」


 シバ連合王国。帝国の北の隣国。

 国土の多くを雪に覆われているため、南下することを目指している。

 北方紛争とは幾度となく攻め込んでくるシバ国との戦いのことを言う。


「あの戦闘狂の南進至上主義国がおとなしくなってくれればいいですねぇ」

「そうだな。殿下は戦争を回避又は優位に進めるほうが学校を作るより安上がりと考えたんだろう」

「そこまで考えてのことだったとしたら尊敬すると同時に恐ろしくもありますね」


 そんな御方が手ぐすねを引いて待っている品評会、もとい謁見。

 辞退できないかな……。


「まあ、これは私の仮説だから絶対ではない」

「ですが、出立前より情報も増えて対策もたてやすくなりましたね」

「そうだ。叔母様たちには感謝だな」

「お嬢様ぁ、ハインリヒ様。そろそろお休みになりませんと明日に障りますよぉ」

「そうだな。マリア、長々とすまなかったな。おやすみ」

「いえ、ありがとうございました。おやすみなさい」

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