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第97話 順調すぎる計画

 私のもとに、聖女様の使いが訪れた。計画の進捗を報告したいそうだ。

 急ぎではないということなので、学校が休みの週末に伺いますと返事をした。


 図らずも同じように返事をしたいつもの三人で、大聖堂の聖女様の部屋に向かう。

 部屋に入ると、ソファーでくつろぐ聖女様がいた。

 私たちは軽く頭を下げ、ソファーに座る。慣れたものだ。

 前回までは、緊張や不安で自発的に座ることが出来なかった。

 だけど勝手を分かった今は、なんの躊躇もなく座ってみせた。

 関係を知らない人が見たら、きつくお叱りを受けそうだ。

 まあ、この部屋に入れる人自体ほとんどいないから、見られることもないんだけどね。

 聖女様も、何も気にすることなく話を切り出した。


「お主らには、たびたび足を運んでもらって申し訳ないのじゃ」


 頭を下げる聖女様に、私たちは戸惑う。

 実質的な権力や影響力は、皇帝陛下を遥かに凌ぐほどの人だ。軽々しく頭を下げないで欲しい。

 それにここを訪れるたびに私たちは、大きな利益を受け取っている。

 教会との協力関係や、シバ国との戦争回避策。こっちこそ頭を下げたい気分だ。

 というより、感謝を伝えておこう。


「こちらこそ、聖女様のおかげで夢の実現に近づいています。ありがとうございます」


 私も頭を下げた。それを見た聖女様が、微笑んだ。


「マリア。お主はそのままのお主でいてくれ。世の中の汚さを汚いと、世界の美しさを美しいと思えるままに……」

「はい?よくわかりませんが、わかりました。それで、計画の進捗報告と聞いてきたのですが」

「そうじゃ。簡潔に言うと、計画は順調に推移しておるのじゃ」


 私たちは、それを聞いて安堵した。そしてフリードリヒは、詳細を求めるように質問をした。


「シバ国内に食糧が出回り始めたということですか?穏健派の復権は?強硬派の妨害は?」

「待て待て!一気にまくし立てるでない。順に説明するので待つのじゃ」


 幼い頃より北方紛争回避に尽力していたフリードリヒは、私やお兄様よりも戦争回避への気持ちが強いのだろう。

 聖女様は圧倒されながらも、ゆっくりと説明を始めた。


「まず輸送隊第一陣は、シバ国南部を中心に輸送を完了させつつある」

「では、食糧が出回り始めたのですね。こちらも、第二陣の出発を急がせます」

「そうじゃな。冬季ゆえに、シバ国内の食糧事情は今なお厳しいからな」


 今は、二月の中旬。冬に向けて備蓄した食糧が尽きかけている頃だろう。

 雪や寒さで大変な中、輸送隊の人達も頑張って迅速に食糧を届けているようだ。ありがたいです。


「次に穏健派。穏健派貴族が手を回しておったから、食糧の流通は極めて順調。民たちは、その手腕を褒め称えておるのじゃ」

「穏健派の勢力が盛りかえしたのですね。よかった……」

「第二、第三陣と到着すれば、シバ国全土に穏健派の影響力は広がるじゃろう」


 フリードリヒは、我が事のように喜んでいるようだ。

 これで、反戦感情が高まるのは間違いないだろうし、対帝国の感情も友好的になるだろう。


「最後に強硬派。直接の妨害は無し。穏健派を弱腰だと非難するにとどめておるようじゃ」

「マリアの狙い通りですね。手を出せば、強硬派が損をする。まったく、とんだ策士ですね」

「本当じゃな。可愛らしい顔をして、えぐい策を弄するものじゃ。まあ、強硬派以外幸せになる、優しい策でもあるがの」

「ええと……私は褒められているという認識でいいのですか?」


 私の問いかけに、二人は笑顔で頷く。

 その後、第二陣以降の計画を話し合い始めた聖女様とフリードリヒ。

 私は、終始無言だったお兄様に問いかける。


「お兄様、体調がすぐれませんか?言葉数が少ないようですが」


 私の心配に、微笑みをもって答えるお兄様。だけどお兄様は真剣な表情に戻り、懸念を示した。


「心配させてしまったか。大丈夫だ。だが……上手くいきすぎている。強硬派はどう動く?」

「ザビーネ様も、窮鼠猫を噛む的なことをおっしゃっていました。お兄様も、似たような考えですか?」

「元帥閣下も、か。私も、強硬派は軍を動かすと思っている」


 上級王が穏健派のままなら、軍を動かすのは難しいのでは?

 いや、お兄様の事だ。シバ国の内情を知った上での推測だろう。


「強硬派に、それが可能なのですか?」

「そうだな。マリア、シバ国の正式名称は?権力体制は?」

「シバ連合王国です。複数の王国が上級王のもとにまとまっています」

「各王国は、どの程度の力を持っていると思う?」


 お兄様の言いたいことはわかった。確かに、軍を動かすことは可能だ……。


「かなりの自治権を認められているらしいです。ですが、可能なことと実際やるかは別の問題だと思います」

「そうだ。だが、その上でやると考えている」

「根拠のようなものがあるのですか?」

「急に動きが活発になった強硬派。なぜこのタイミングだったのだろうか?そう考えたことはないか?」


 そうだ。シバ国内でも、かなり無茶な方法で権力を……上級王の座を手に入れようとしていた。

 そんなやり方だ。仮に戦争が起こせても、成果が上がらなければ猛烈な批判を浴びる。勢力を維持できないほどに。

 なら、確実に成果を……帝国に戦って勝つ方法を持っていると考えるべきだろう。

 守る帝国に攻め込む。その上、国力差もある。それでも勝つと思う手段を、最近になって手に入れたと?


「強硬派は、必勝の策なり手段を手に入れたと考えているのですね?」

「あくまで憶測。単純に、強硬派が愚かだっただけという可能性もある。だが今回の件で、駆け引きが出来ることは確認できた」

「駆け引き?妨害を仕掛けてこなかったことですか?」

「そうだ。愚かなら、仕掛けてきたはずだ。だからこそ、嫌な予感がする……」


 お兄様も、憶測だとは言っている。だけど、話の筋は通っている。

 もし必勝の策があるのなら……?いまだにこの国は、危険に晒されているのではないか?

 お兄様の考えを吟味しているうちに、聖女様とフリードリヒの話し合いは終わったようだった。

 教会の情報網で、不穏な気配を察知していないか?

 それを聖女様に確認しようとした私を、聖女様の発言が遮った。


「報告は終わったが、お主らにしか頼めない……とっっっても大事な用事があるのじゃ!」


 その言葉に、私たちは身構える。そこまで大事な話とは?


「妾の……話し相手になってくれ!似たような境遇のお主らにしか頼めないのじゃ……」

『は?』


 あまりにも予想から外れた提案に、みんなおかしな声を出してしまった。話し相手……?

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