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第12章 産業革命 1~物流革命(logistics)

第12章 産業革命 1~物流革命(logistics)




1 制御室(通称第一艦橋)


「補助エンジン、スタート……」


「魔素エネルギー充填60%……魔動エンジン始……」


「待てっ!」


 賢者(セージ)が叫んだ。

 帽子を被りつつ、『くわっ』といった表情だ。


「確実に始動させるために、めいっぱい充填するのだ!120%にまででござるよ」


「……入れすぎて壊れるかも」

 

 ラベルが表情を変えずに答えた。


「だまれっ!」

 賢者(セージ)、二度目の『くわっ』である。

 

 ややあってから、小さく唸るような甲高い回転音が響いてきた。

 沙那からすれば空港でたまに聞こえる音にも似ていた。


「はいはい。魔素充填120%。壊れても知らないぞ」


「よーし。フライホイール始動!動力接続……魔動エンジン、点火っ!」


「火は点かないけどな」

 ラベルが運転ハンドルをゆっくりと手前に引いた。

 マスター・コントローラーとも呼ばれるもので、小さなドアハンドル程度で良いものだが賢者(セージ)の要望でT字型の大き目のレバーになっている。


「ぬあっ。そこは一度は失敗するのがお約束でござるよっ!」


「何がだよ」

 ラベルはにべもない。

 彼にとっては確実に作動することが大事なのだ。


「あああああっ……男のロマンがっっっ……」


 賢者(セージ)の悲鳴をよそに、列車は動き出した。


「汽笛すらならさないのは風情がっっ」




 この列車に汽笛はない。

 後日、警笛のために似たモノが取りつけられることになるのだが、蒸気機関ではないので用意されていなかった。

 

 男爵領初の、いや帝国初の鉄道である。


 当初計画して試作もされてきた蒸気機関車ではない。

 この世界の人々には蒸気機関の方がまだしも理解しやすいのかもしれないが、何分、大掛かりになりすぎる。

 燃料を燃やす窯と蒸気を作るためのボイラー、そして巨大な水タンクが必要である。

 燃料と水を運ぶこと自体も大ごとだが。駅ごとに給水施設が必要になり、幾つもの機械を組み合わせるために整備もたいへんなこになる。


 人手が多く必要になってしまう。

 現代ですら蒸気機関車はワンマン運転はほぼ不可能なのだ。

 決して大きな領域ではない男爵領で運転維持管理するにはとにかく人手が足りない。


 そこで気付いた。

 魔素機関がある。

 空島世界から手に入れた飛行船用の推進器である魔素機関は、その点で優れていた。


 元が半永久機関であることから燃料の補充が要らない。

 原則的にタービン機関であり外燃機(窯とボイラー)が不要である。

 元々が回転運動なのだから車輪を動かしやすいのもあった。

 したがってかなり小型化可能なこと。

 大勢の整備士も不要である。

 

 欠点は起動に魔術師が必要であることだった。

 これはクローリーが魔術師であること、初期は初級魔術師を雇用して、将来的には男爵領の領民から育成された魔術師を配置すること。

 少し気の長い話になってしまうが、軌道に乗れば流通の大革命になる。

 特に、大きな街道すら舗装や整地もあまりきちんと行われていない帝国世界であるから、馬車を自動車化するよりも鉄道の方が遥かに整備しやすい。


 もちろん問題も少なくない。

 軌道レールを作るのも最初は難しかった。

 いくらドワーフの鍛冶師たちがいるといっても、大量生産には向かない。

 手工業だからだ。

 空島から魔動力のプレス機械を手に入れたといっても規模はそれほど大きくはない。

 本来は飛行船の補修部品を作るためのものでしかない。

 この最初の鉄道線……アレキサンダー男爵領から、カストリア子爵領までのそれほど長くない区間を造るのもなかなかに大変だった。





「きーてきいっせーしんばしをー♪」


 座席から身を乗り出した沙那が歌っていた。

 日本の鉄道唱歌である。

 駅メロに使われたりテレビでも聞きかじったので沙那でも知っている。

 ただ……。


 最初の一小節以外の歌詞は知らなかった。

 良くある話だ。

 つまり、それ以降はフフフーンと怪しい鼻歌でしかなくなる。


「思ったよりすげーっスな」


 沙那の隣に深く腰かけたクローリーが感心した。


「それに速ぇーっス」


「そーおー?」


 沙那が首を傾げる。

 それもそのはず。

 この魔動列車の速度は時速20キロ程度なのだ。

 その3倍4倍で電車が走るのが当たり前な沙那にとっては、かなりゆっくりに感じる。


 だが、クローリーからすればかなり速いのだ。

 馬車は通常、人間の歩く速度とそう変わらない。

 全速で走らせれば、魔動列車と同じくらいの速度は出せるが短時間しか馬が保たない。


 連絡用の早馬でも、30分ほどが限界で魔動列車と同じくらいの速度かそれ以下でしかない。 

 それが、1時間でも走り続けられるとなれば魔動列車の存在は大きい。

 しかも大量の荷物を運搬することも可能なのだ。


 クローリーからすれば驚異の技術だ。

 大型の船が地上を走っているようなものなのだ。

 しかも速度がかなり速い。


「こういうのがもっと前からあったら……と思うこともあるっスな」






2 魔動列車内/クロ-リー



 先代の男爵……ってか、オレの父親ってのはなかなかの変わりモンだったっス。

 おかげでオレも少なからず影響は受けてたかもしれねーっスな。


 

 絹の国(シリカ)とか砂の国(アルサ)とかから妙な物を買い付けたりしてて……。

 しばしばガラクタを押し付けられたり……いや、もう、騙されてゴミを売りつけられてりもしたっス。


 それでもごくごく稀にはまともな品もあったりはするんスが、結局役に立たないことは多かったスな。

 安く大量に手に入るんだったら使い道も多かったかもしれねえんスが、逸品物が一つ二つあったところで飾りにしかなんねーんスよ。

 

 例えば、こいつ。


 懐中時計(ラモントル)っていうんスが、機械仕掛けの時計なんスな。

 砂時計より持ち運びに便利だし、長い時間計れるし、便利この上ないものなんスが……これ1個だけあっても使い道ねーんスよ。


 オレが魔法を研究したり実験する時には重宝したんスが。

 普通の生活には細かい時間を計る必要なんてないっスからね。

 朝とか昼の違いなんてお日様の高さでだいたい分かれば仕事は困らねーし。


 教会が日時計を元に時報の鐘を鳴らせば事足りるっスな。

 1日二食、朝と夜くらいしか食事できねー庶民からしたら、お昼を知る必要もない。

 いやあ、ともすりゃ1日一食もできるかどうかわかんねーのもいるわけで。


 砂の国(アルサ)の商人から大枚叩いて手に入れたは良いっスが、オレくらいしか使わないものになったっス。

 これが安けりゃまだ良かったんだが、ドカル金貨500枚もするもんだから。富裕層やや貴族だっておいそれとは買えないシロモノで。

 え?

 そうっス。

 そんな高価なものを。こんな辺境の男爵風情が購入したんスから、アホというかなんというか……。

 もちろんデカい借金したっス。


 

 ある時は絹の国(シリカ)から紡績機っていう機械を買ったっス。

 糸を効率よく作る道具っスな。

 それまでの10倍近い速度で糸が作れるってことで……布や服が庶民にも買いやすくなるハズ……ってことだったんスが。

 

 これまたバカ高いシロモンで。

 量産効果で糸が安くなるはずだったのが、紡績機購入の借金返済でぜんぜん安くならなかったんス。

 しかも高価すぎて紡績機は1台しかねーもんで、思ったように大量の糸は作れなかったんス。

 ま、借金が残っただけっスな。


 んで、糸ができても布を織るのには織機も必要だってことで、それも砂の国(アルサ)から買ったもんだから……。


 まあ、近隣の領に比べれば少し流通量が増えたかもしれねーんスが。

 途中の町よりは少し服のバリエーションが多かったしょ?

 安くないけど。



 ……んなことが何度もあるから、ただでさえ金のないビンボー領主が更にビンボーになるっていうね……。

 もう、なんだかなーな感じだったっス。


 さすがのオレも呆れたもんだったっス。





「へー。でも、それって、他所から買うから高くついたんじゃないのー?」


「まあ、そうっスな」


「機械を買うより、商品を輸入した方がよかったんじゃないー?」





 そうしたかったんスがね。

 砂の国(アルサ)からは大きな砂漠を越えた陸路しかねえ。

 馬車が運べる量は多くはなないし、織物やなま物は虫が湧いたり腐ったりするっス。

 無事に帝国領内まで辿り着く量を考えると悩ましいっス。


 海路で船積みすれば良いことは判ってるんスが、帝国の船乗りでは難しいんス。

 ほら、ルシエさんの船なんかは何も見えない洋上を突っ走ってたっスが、普通の船はできないっス。

 陸地が見えないと自分の位置が判らなくなるから常に沿岸航行するしかない。


 え?何故って?

 帝国の船乗りのほとんどは数学ができないからっス。

 洋上を航海するには測量と計算が必要なんスが、三角法が判らないと計算が出来ねーっス。

 計算が出来ねーと、目印がないとどっちに進んで良いか判らなくなるんスな。


 それに、そもそも文字の読み書きが気できる船乗りはほとんどいないっスから……数学以前の問題なんスな。

 指の本数以上の数の計算は出来ないのがふつーなんス。


 てーと、沿岸沿いの航海しかできねーっスから、時間もかかるし、別の大陸に行くことも難しいんスな。

 ルシエさんが仲間になるまではトウモロコシやイモとか硝石の輸入なんかできなかったワケで。

 植物は栽培できるようになったっスが、肥料の硝石とかは今も輸入頼み。

 航海可能な船や船員が限られてるからス。


 今のところ、ルシエさんのスカーレット号にくっついていくのが精いっぱいだから、船団組んで1回往復するのもなかなか大変ス。

 はぐれないように纏まって動かないといけないから、たくさんの船で行くわけにはいかない。

 なんで、だいたい3~4隻くらいで航海するのがせいぜい。


 交易すら難しいってことっスな。


 

 そんでもまあ、オレの父親は色んなことをやったっス。

 最後にやったのが馬車っス。

 駅馬車っつーから、この魔動列車と似たようなものを作りたかったのかも知れねーっスな。

 どこまで考えていたかは知らねーっスが。


 このアレキサンダー男爵領と、隣接した諸侯との城下町を馬車で継いだんスな。

 といっても輸送力は低いっスから、少人数の旅客輸送か小型の貨物、それと郵便がメインだったっス。


 便利だったかって?

 いやー、これがあんまり使えなかったっスな。


 まず何といっても道が悪いっス。

 一応は街道と銘打ってる帝国街道が伸びてはいるんスがね。

 なにぶん1000年前の作られたモンなわけで、しかも荒れるに任せて補修や整備がされてねえんスな。


 道路の補修や整備は金も人手もかかる。

 少しでも自分の懐に入れることしか考えねー領主や役人が手入れするわけもねえんス。

 獣道よりはちょっとマシって程度の、道路ともいうのも烏滸がましいモノが帝国の街道で。

 道はガタガタ。

 馬車が走るには路面が悪すぎるから、一部の交易商人くらいしか通らないんスな。


 オレたちもここに来るまで、歩きと船ばっかりだったっしょ?

 歩き慣れてないだろうさにゃを馬車に乗せてやりたかったが、歩くより酷ぇことになりかねないっス。

 若くて体力のある子どもなら……って、叩くなっス。

 それでも1日で歩く距離を短めにしながら進んで来たんスよ。



 え?

 旅人?

 ンなモンはあんまりいねーっス。

 そもそも平民は他領地へ行く権利がないっス。

 自由にしたら、税金の安い領地へ逃げちまう。

 ンなことされたら領主は困るから。

 逃げられないように関所が作ってあるっス。

 さにゃも何度か見たはずっスな。


 関所を通るには許可証が必要なんスが、それを発行してもらえるのは商人か公的機関くらいっス。

 商人も通行税を取られ……これがまた領主によって金額はマチマチで。

 交易の利益なんか簡単に吹っ飛んじまうようなボッタくりもあるっス。

 だから交易商人が運ぶものは高額品ばかりなんス。


 ほんとなら麦とか食料を運べれば良いんスが、通行税に見合わないんスな。

 生活必需品を周囲の領地間で融通し合えば、生活水準はもうちょいマシになると思うんスがね。

 貴族や富裕層が喜びそうな高額品ばかり。

 だから野党が出るっス。

 真面目に働くより確実に儲かるっスから。


 そりゃ治安は悪くなる。

 オレらも何度か襲われたことあるっスよな。

 街道を行く馬車はたいてい高額品を運ぶ商人っスからな。


 冒険者?

 あー、まー、旅人と言えねーこともねーっすが。

 宿代、食費、通行税……儲かる仕事じゃねえ。

 その日暮らしの流れ者ばかりっス。


 オレ?

 帝都や故郷にいたら見ることのない色んなものを見たかったんス。

 理由は、オレの父親っス。



 オレは父親が間抜けな商売ばかり始めようとするトロいおっさんくらいにしか見てなかったんスな。

 最初はっス。

 ところが少し大人になってくると気がついたんス。

 

 自分の利益のためじゃなく領地を少しでも発展させて豊かにしようとしてるんだって。

 なるほど。アレキサンダー領独自の産業があればビンボーな辺境地から脱却できるかもしれねー。

 発展すれば巡り巡って税収が増えて自分も豊かになるかも……ということらしい。

 そのための先行投資だったんスな。




 あー、馬車の話だったスな。

 客があんまり集まらないんス、

 料金が安くねえのもあるんスが、文字の読み書きが出来ねー人が手紙のやり取りなんかしねーし。


 カネや権力があるなら、マジもんで重要なブツは自分の手勢で運んだりする。

 となると、経費を考えりゃ赤字なんスな。

 意味のねーもんに見えたっスなあ。


 

 んで、オレは父親の助けになる知識を得ようと帝都に遊学したわけなんス。

 父親のへんてこ事業は着眼点は悪くねー気がしてたからっス。

 なんか、こう、ひと工夫すれば軌道に乗ったりするんじゃねーかと。


 魔術学院に進んだ理由もそれで。

 魔術師じゃなくても使える魔法は作れないかなって考えてたんスな。

 オレも父親に似て少しアホなのかも知れねースな。


 簡単に火を点ける魔法装置とか、呪文を唱えなくても使えたら便利じゃねースか?

 ま、これが。

 後々になって賢者(セージ)がくれたライター……みたいなのを考えてたっス。


 さにゃに預けたペンギンたちも、元は馬の代わりに馬車を牽く泥人形(ゴーレム)を作ろうとした研究のなれの果てっス。

 馬並みの力は出せなかったんで失敗ではあるんスが。

 他に何でもいい。

 何か手助けになるものを造れればなーって。

 だからネタ探しに冒険者してたっスよ。




 そんで何年か過ぎた頃だったんスな。

 学院が休校になってオレは帰郷してみたんス。

 帰り着いてビックリ。


 父親が亡くなってたんス。


 流行り病ってことだったんスが、ちいと死ぬには早すぎたと思うっスな。

 まー、それよりも。


 その連絡がオレのところに届いていなかったんスよ。

 だから帰郷した時はもう葬式も終わって何ヶ月も経ってた。

 

 手紙は送られたらしいんスが、届かなかった。

 理由は判んねーっス。

 交易商人に渡してお願いしたらしいんスが、報酬だけガメて手紙は捨てたのかもしれねーし。

 商人ごと野党に襲われてパーになったのかもしれねーっス。


 ただ、まあ、そこで思ったんス。

 手紙や荷物がほぼ確実に届くような、そんなシステムがあればって。

 


 その頃に賢者(セージ)と出会ったっスな。

 元の世界では国が運営してる郵便があって、格安で手紙がほぼ確実に届くっていう話を聞いたっス。

 え?

 今は国営じゃないって?

 ほー……さにゃとは時代が違うだけなのか、実はよく似た他の世界なのか迷うところっスなあ。


 ま、そんなものがあればなーと思ったりもしたっス。

 先ずは手が届く範囲でってことで父親が始めた駅馬車事業を帝都まで繋ぐことから始めたわけ。

 さにゃが始めた学校も将来的には有用っスな。

 文字の読み書きができる人間が増えれば、それだけ郵便の仕事も繁盛しそうって。


 そう考えると、この魔動列車は馬車なんかよりもスゲーもんだなって思うんス。

 より速くて、より大量の荷物を運べて、この線路があちこちに延びればって想像するだけでも楽しい。

 今はまだカストリア子爵領へしかいけねーっスがね。





「今回はまだ5両編成でスガ、将来的には10両、15両と増やしたり、速度を上げていきたいところデスナ」


 マーチスが頷いた。


「沙那さんの国では弾丸列車(ビュレット・トレイン)がありますが、あれはこの10倍どころじゃない速度で走りますカラ」


「……10……倍以上って……スゲー話っスな。にわかには信じられねース」


「あんなものが帝都まで開通したら、1日かからずに辿りつけるようになりまスナア」


「そこまでは期待してねーというか、想像できねーから。まずは一歩づつっスな」

 

「物を大量に速く輸送できれば物流的に大革命が起きまスナ」


「石鹸とかリンスとか香水とかー……そっか、ジャガイモとか穀物も大量に輸送すればそれなりに儲かりそうだねー」



「もっと凄いことにも使えるぜえ」

 それまで半分寝ていたシュラハトが起き上がる。

「そういうことが可能なら軍事的にも革命だぞ」


「……ご飯をいっぱい運べるから?」

 沙那が能天気なことを言い出した。

 この世界での軍隊に最も必要な物は食糧だと聞いたからだ。

 装備はともかく、兵士の食料は日数にもよるが大変な量になる。

「保存食じゃない普通の御飯を運ぶこともできそうだしー」


「ま、物資を運ぶのにも便利なのはある。が、そこじゃねえ」

 シュラハトが周囲を見回す。

「今、俺たちが乗ってる車両だけで人間が何人乗れると思う?」


「あ……」


「そうだ。完全武装の兵士が50人乗れるとしよう。それがさっきの話の10両なら、ざっと500人。それを歩く速度の数倍で移動できるとしたら、どうする?」

 

「軍隊の移動速度自体も革命的になるということデスナ」


「ま、うちの領内だけの線路なら防衛のための援軍をすぐに送り出せる利点にはなるかな」

 男爵領の軍事を統括するシュラハトらしかった。

 他のメンバーに欠けやすい軍事的な視点を心掛けているのだ。


「そうでござるな。拙者の世界の歴史でも世界大戦と呼ばれる大戦争では、鉄道で予備兵力を大量輸送して補充するので戦線が硬直化した例がござってな。100万人を超える大兵力が狭い地域で向かい合ったりしたものでござる」

 賢者(セージ)が口を挟んだ。

 さすがオタクである。

 多少の軍事知識や歴史にも明るい。

「ただ……」

 鼻息を荒くする。

「拙者、もう少し別の軍事利用を考えているでござるよ」



「……まったく。男どもときたら……」

 黒髪の美女マリエッラが呆れた顔で溜息を吐いた。

 流れて行く景色を楽しく眺めていれば良いのに、と思っていた。

 余裕ができた庶民が旅行を楽しめるようになる方がどれほど良いものか。

 

 食事をしたりお土産を買ったりするとなれば、それは経済が回ることになるのだから。

 そういえば綺麗な上水道はもとより、温水まで城下町に引く源泉になっている沙那の連れているい精霊女王を利用すれば観光用の保養地を作ることもできるのではいだろうか。

 女性なりの、というよりもマリエッラの個人的な趣味なのかも知れないが。

 豊かにするという方向性が経済ばかりでなく、娯楽も必要ではないかと考えつつあった。 


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