キリア1
「冒険者さん!これどうぞ!」
「うぉあ?!キリアちゃん!?ど、どうしたんだい?これは?」
「あるお方からの奢りみたいですよ!『これでも食べて骨を休めてくれ』だ、そうですよ!」
「おお!ありがてぇ!どこのどいつだ?」
「もう部屋に戻られたみたいです。エールも人数分奢りだそうですので今持ってきますね!」
厨房に戻った後キリアが持ってきたのは大量の料理だった。と言っても大皿が三皿分くらいだが、大体五百ゴールドくらいか?宿屋の娘だけあって複数の料理やジョッキを運ぶ姿は様になっている。
「はい!これで全部ですよ冒険者さん!そう言えば今日はお休みだった方が多かったですよね?何かあったんですか?」
「おぉ!それがよ、いきなり魔境が封鎖されちまったんだよ!」
「封鎖……ですか?何か原因とか分かるんですか?」
「いやいやそれもよぅ、『スタンピード』の危険があるってしかギルドからは説明がなくてよぉ、後はデマっぽい情報がわんさか出回ってるんだよ。」
デマ、実際何を信じるにしても、遠目から見えない火山が噴火したなんて情報を誰が信じるだろうか。何が原因だとしてもギルドのスタンピードとやらが起きるかもしれないという事を肝に銘じておくのが最善なのだろう。
「デマ……スタンピード……、冒険者さん、今回も町は大丈夫ですよね?」
「大丈夫さ!キリアちゃんは俺が守るぜ!」
「そうだぜ!もし危なくなったら俺たちを頼ってきてくれていいんだぜ!」
「ふふっ、ありがとうございます!」
チラリと流し目を送られた。何かの合図……情報を聞き出すということか。
キリアは自然な動作で先程から受け答えをしていた冒険者の隣に座った。若干のざわめきの後に俺の聞き耳にキリアの声が聞こえてきた。
「そう言えば皆さんはいつくらいからウチに来てくれるようになったんですか?」
「それは……コイツらとパーティー組んで最初に大金を稼いだ打ち上げでここに来たんだったな。」
「そうだぜ!たまたまレア素材が木陰に生えてたんだよ!」
「馬鹿野郎!たまたまじゃねぇ!俺の勘で見つけ出したんだ!」
「たまたまじゃねぇか!」
「ふふふっ!じゃあ期待株さん達なんですね。」
「おうよっ!やっぱりキリアちゃんは分かってるねぇ!」
どんどん上機嫌になっていく冒険者。頬を赤らめ饒舌に、勿体つけて大袈裟に、声を上げて自慢げに、俺の知りたい情報を話し始める。
「可愛いだろキリアちゃん。」
「えっ?」
耳を澄ませることに夢中になっていたせいで目の前に座った男に気づけなかった。
「……何ですか?」
「おっと、そんなに邪険にしないでくれよ。おじさんは若い冒険者に話を聞いて欲しいだけなのさ。」
顔は赤く、酔っているがゴツい手に体の武装を隠すような薄汚いコート。多分冒険者だ。
「お前さん会話が下手だって言われねぇか?返事もしねぇうちに考え込むのはいけねぇことだぜ?」
「…………」
「ヌハハハハっ!冗談!冗談だよ!それよりキリアちゃんだよ!お前さんずっとあの娘を気にしてただろう?」
それはそうだが意図はそうじゃない。もしかして面倒臭いのに絡まれたか?
「全く、周りの奴らは顔しか見ねぇんだからいけねぇ、あの娘の綺麗なところは心だ!お前さんもそうは思わねぇかい?」
綺麗かは兎も角、心を見るというのは同意だ。と同時に何を聞かせれているんだろうかと言う心境にもなる。
「……確かにあの子は何を考えてるか分からない所がある。」
「ほぅらな!やっぱりお前さんも俺と同じ所を見てる。……やっぱり、時々話しかけて貰えると分かるんだ、あの娘は可愛さを『造ってる』。でも仕草から分かるんだよ滲み出る謙虚さが。余裕がない時は特にだ。可愛さを捨てて完全に仕事モードになるんだよ。それをだ、俺みたいな分かってるやつは眺めてるだけで癒されるんだよ。」
可愛さは人を惹きつける道具。謙虚さは人を喜ばせる武器。アイツはそうやって何かと戦っている様な印象を受ける。
ならばあの時無理矢理俺を宿屋に引きこんだのはキリア『らしくない』行動。でも普段の行動がキリア自身にとって『らしくない』行動だとしたら……
「……おい、おい、お前さんそういうところだぞ、全く、本当に興味が無いのかと思ってちょっとおじさん傷ついたぞ……。女将さーん!勘定だ、あとそこの坊主にオレンジジュース!」
「あいよっ!キリア〜!」
「はーい!すみませんちょっと行ってきますね。」
「だあら、あん時トドメを刺したのは俺らっていって」
「ばあろう!俺があそこまで弱らせたんだろうがよぅ!」
おっさんは勝手に話して勝手にどこか行ったし、後ろは後ろでベロベロに酔っていた。
「はい、ノアールさん話聞けてましたか?誰かとお話しされていたようですけど……。」
「……知りたかったのは大体、助かった。」
「!そうですか!良かったです!後はお部屋に戻られますか?」
「……そうする。」
情報も整理したいし、明日はどこに行くかも考えたい。あとうるさい場所に居たくない。
「分かりました、オレンジジュースの分のお代は大丈夫ですから、また後で。」
「……おやす、……後で……?」
問いかける相手は既にそこにはおらず、注文を取りに走り去って言った。
可愛い娘の予想外の「後で」ってテンプレですよね。




