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人間失格の英雄  作者: enoha
魔境に集う者
39/61

…コミュ障……?


宿に着くと、取り敢えず一眠りすることに決め、昼間からは想像出来ない様なシンとした食堂を通り抜けた。

ベッドに入ってからふと思い出してしまう。この時間帯、冒険者は何をするんだろうか。いや、魔境に入れるならそこにいるまでだと言われればそれまでなんだが……、知らない事だらけだ、魔境に入れない間はとことん情報収集をする。

でも今は眠い。もしかしたら夜の方が冒険者も酒が入って口が開くんじゃないだろうか?

そんな言い訳をしながらゆっくり目を閉じた。


◇


「……さん、ノアールさん、……寝てる。……今なら……」

「……何してる」

「っふぁい?!」


何か声が聞こえて、遠くの喧騒が聞こえてきた後の不穏な発言。バッチリすぎる目覚ましだ、苦情を入れたい。


「えとえと、ご飯が出来たので呼びに来たんですよ!本当です!」

「…………」


なるほど、それは本当かもしれない。で、何で普通に部屋に入ってきてる?


「……女将さんに苦情入れときますね。」

「…なんか話しかけれずにオドオドして終わりそう……?」

「…………」


別に怒ってない。この程度で怒るわけが無い。が、しばらくこいつのことは無視してやる。

勢いよく立ち上がって扉に向かった。鍵はかけたと思ったんだが……合鍵か?まぁ取り敢えず食堂に向かおう。戸締りも忘れずに。


「あちょっ、鍵かけてっ、おこってっ、ノアールさん怒ってる!?ごめんなさいーい!」


さて、誰か知らんが食事には自信があるって言ってたし、楽しみだな〜。


◇


扉を開けてまず目に付いたのは大男共のバカ笑い。もう既に酔っているのかそういう気分なのか、どちらにせよいい情報源になってくれそうだ。


「…の、ノアールさん、食事はその日の店主のおすすめメニューが出されます、それ以外は別料金になるので注意してください。」

「…………。」


…料理はどこで貰えるんだろう。女将さんに頼んでみるか。


「…あの、」

「料理は私がお持ちいたしますので!ノアールさんは好きな席に座ってお待ちください!」

「…………。」


……座ってるか。…あの男たちから遠過ぎず近すぎない場所に。

しばらくすると料理がやって来た。一つのプレートに肉、パン、サラダ。別の器にシチュー。思ったより粗野な見た目。でも疲れた体でこれを食えばそんなことも忘れてしまいそうだ。パンは白いし、シチューも野菜がゴロゴロ入ってる。何から食おうか……。


「ノアールさん、私は仕事に戻るので何かあったら声をかけてくださいね。」


黙々とパンにかじりついた、キリアはそれを見て苦笑しながら女将の方に走っていく。……そろそろ許してやるか。


◇


最後のパンの一欠片でシチューの器を拭って口に放り込む。手を合わせて、軽く一礼。俺はご馳走様は心の中で言うタイプだ。作った本人がその場に居れば口に出すが、こんなものは誰に感謝してるか、敬意を払っているによって変わるものだろう。旅団でも「いただきます」は流行らなかったが「ご馳走様」は浸透していた。

食器は厨房の人に渡すか、もしくはそのまま置いていってもいいんだろうが、目的のひとつが住んでいない。

…情報収集……。後ろからはどこのどこにかわい子ちゃんだのキリアちゃんが一番だのこの後どこに遊びに行くだのあまり見になる情報が入ってこなかった。

こういう時、前世では酒を奢りながら巧みに情報を聞き出している映画を何本か見たりしたんだが、実際に出来るかと言われると……


『…なんか話しかけれずにオドオドして終わりそう……?』


背中を冷たいものが伝う。

……大丈夫なはずだ、落ち着け、まずメニューからビールみたいなのを探して、……て、どれだよ。ビールビール……もしかしてこれか?『エール』結構安いな。これで情報をくれとかなんかダサくないか?ケチ臭いというか……。そもそもこれ一本で何を聞けばいいんだ?最近の冒険者事情?あの喋る魔物とか?いやでもあいつら『かわい子ちゃん』の話しかしてないぞ?ここで魔境の話なんか振ったら空気読めてないなんて事になりそうだぞ……。

そんな俺の謎の緊張感を気にもとめずに話しかけてきた奴がいた。


「ノアールさん?どうしました?水くらいなら無料でお出ししますけど……、あ、メニュー。ご注文ですか?」

「……いや、その……」


…来ちゃったよ。こうなったら腹を括るか……。


「……このお酒をあそこのテーブルの人達全員に……」

「…へ?……あ、そういう事ですか。……でも大丈夫なんですか?それだと付き合いでノアールさんも飲まなくちゃいけないでしょうし、口下手っぽいノアールさんが喋れますか?」


普通に辛辣なことを言う。言外に止めておけと言われているようだ。

しかしそこで人差し指を立てて「でも、」と続けられる。


「三百……いや、五百ゴールドで手を打ちます。それだけでノアールさんが聞きたい情報を私があの手この手で聞き出して来てあげますよ?」


高くつく情報代、でもこれなら


「……水ください。それまでに考えておきます。」

「了解しましたー!」


キリアは注文表の裏とペンを俺に差し出してコップを持っていった。さて聞き出したいことは……

・初心者がするべきこと

・魔境の安全地帯と危険地帯

・その他に注意すること

・ファミリーについて

・効率的なお金の稼ぎ方

喋る魔物については今回は無しだ。この事が一宿屋の娘に知られていい事なのか判断できない。

注文表の上に合計五百ゴールドになるコインタワーを建てて脇に置く。

しばらくして目の前に水の入ったコップが置かれ、注文表とお金は無くなっていた。


「では少々お待ちくださーい!」


自然な顔でキリアは厨房に去っていく。……五百ゴールド……いや、惜しんではいけない。魔境が開くまで三日、時間はあるように見えて意外と無いのかもしれないのだから。


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