先生とのお話②
「はい、僕には闇属性があります」
冷静に、自分には闇属性があると肯定したシキは、闇属性を持つ意味が分かっていないという訳では無いだろう。もしこの事が教会や国にバレれば、シキはきっと人間の世界で生きてはいけない。
それほど闇属性と言うのは、忌み嫌われているのだ。むしろ、恐怖の対象であると言うべきか。人間が持っていたという前例が無いのもそれに拍車をかけている。
「俺から聞いた事だけど、あんまり簡単に肯定するのは、危険だよ?」
「わかってます。だから、僕は今まで誰にも言ってきませんでした。僕は、先生だから素直に認めたんです」
シキは、分厚いメガネの下で、ニカッと笑った。
爽やかとも言えるその笑みは、教室でいる時の根暗な印象を与える生徒と同一人物とは思えないものであった。
お互いが、予測しあっていたことなのか、普段と変わらぬ様子で言葉を交わす2人とは正反対に、何も知らされていないアイカは、混乱の最中に突き落とされ、手に持っていたお盆を胸に抱えたまま、呆然と立ちすくんでいる。
一体この人たちは、なんの話をしているのだろう。
そんな風にキャパオーバーになったアイカの脳内は、理解することを拒否しようとさえしている。
そんなアイカを見て、シシツキは苦笑した。
「アイカくん、なんの心構えもないまま、話して悪かったね。1度外に出て、頭を冷やしてくる?」
その言葉で我に返ったアイカは、シシツキの顔を見て、別の意味で頭が真っ白になった。
それは、先ほどの混乱に満ちた脳内をリセットさせる程の衝撃だったのだ。で、それはと言うと…。
先生が、微笑んでいらっしゃる!?
滅多に笑みを浮かべないシシツキの、苦笑とはいえ笑みに、アイカは完全に復活した。むしろ気合い十分である。
「いえ、大丈夫です。お見苦しい所を、お見せしました。私は、何があっても先生について行きます!なんでも来いです!!」
握り拳を作るアイカに、シシツキはこれは大丈夫だと確信した。女の子って強い。自分の好きなものに流されやすく、それを受け止める柔軟性を持っていると言うべきか。
「で、シキくん。なんで俺なら、話していいと思ったの?」
「えっ、だって先生も、闇属性持ちでしょ?」
「ふうん。やっぱり、分かるんだ」
「はい」
サラッと、今重大な事が述べられた気がする。
アイカは、再起動させた頭で、言葉をひねり出した。
何時もの調子を取り戻したアイカに、先ほどの混乱の中にあった微かな恐れは、もう見当たらない。
彼女のシシツキに対する愛は、うまい具合に、機能したようだ。いわゆる、恋は盲目というヤツである。ちょっと違うか。
「ちょっと待ってください」
アイカの言葉は、2人に受け入れられた。その為、2人の視線がアイカに向けられた。
アイカは、ん?と小動物のように首を傾げたシシツキに、可愛いと叫びたい気持ちを抑えつつ、とりあえず自分の中の疑問をぶつける事にした。
「まず、なんで先生は、シキ君が闇属性持ちと気がついたんですか?」
「んー、なんというか。勘に近い感じかな?」
シシツキの曖昧な言葉に、アイカは納得出来ないという表情を浮かべる。
そんなアイカの為に、シシツキはもう少し詳しく説明することにした。向ける目線は、アイカであるが、シキにも闇属性について理解してもらうためか、机の隅に寄せてあった白紙の紙と愛用している万年筆を手繰り寄せた。
「そもそも、闇属性というのは、魔族しか持っていない属性で、他の火、水、風、土の属性と比べて威力が高いことや、使う際の魔力が他の属性の様に無色ではなく、黒くなることから、闇属性と呼ばれている。さらに、闇属性の特徴として、属性同士を掛け合わせることが出来るんだ」
例えばと言いながら、シシツキが手をふると、ゴトンと音がして、拳程の大きさの氷が、机の上に落ちた。
「これは、水と火の中の熱を操作する力を使って作ったので、水の熱を、抜き取っていくと、このように氷が出来る。それに、俺の右手を見て。漏れている魔力が、黒いでしょ?これが、闇属性。ちなみに、この属性の名前は、5代目の勇者が付けたらしいよ」
妙な豆知識を盛り込んでくるあたり、シシツキも研究者である。
シシツキは、その出した氷を消して、今度は左手に火を灯した。
「これは、普通のみんなが使っている方の魔法」
「確かに、何か違いますね。何とは言い難いですが」
「そうなんだよね。多分、魔力の質が違うと思うんだけど」
うーんと唸るシシツキとアイカに、今まで静観していたシキが口を開いた。
「それは、僕達が霊力と呼んでいるものです」
「れーりょく?」
始めて聞いた単語と、長年の疑問が解消されるという期待からか、目を輝かせたシシツキは、ずいっとシキに詰め寄った。
本当に、研究のことになると、生き生きとしている。
「シキくん、そのれーりょくというものについて、詳しく教えて欲しいな」
「あ、はい。もちろんです」
その勢いに圧されつつシキは、シシツキに先ほどの手繰り寄せたものの何も書かなかった白紙の紙を貰い、説明する体制に入った。シシツキもそれに合わせて、手早く手帳とペンを取り出す。こういう俊敏性が、研究に関連したことにしか発揮されない所が、少々残念な男である。
シキは、シシツキとアイカの準備が整ったのを見計らって、説明を始めた。
「霊力というのは、僕達が術を使用する上で、必要不可欠なものです。この霊力は、体内の血液中で作られるもので、僕達の世界では、氣などとも呼ばれています」
シキは、白紙の紙の紙にわかりやすいようにと、図を書いていく。その手元をシシツキとアイカは、興味深そうに覗き込んだ。
ちなみに、字はとても読みやすい。どこかの誰かさんとは雲泥の差である。
「僕が、この世界に来て感じたのですが、この世界で霊力は、不純物の様な感じがします。僕達の世界では、霊力は不透明だったものが、黒く濁っていますから」
シキは、先ほどのシシツキの様に、右手に霊力を込めた。
その霊力は、シキが慣れ親しんだ不透明な霊力ではなく、やはり黒く濁っている。
それが、シキにとって少し寂しい。
「そうか。魔力が大気中から魔素を取り込んで体内で魔力を精製するのに対して、霊力は全部体内で作られているのか」
「はい。霊力の素になっているのが、人間の精神です。だから、人間は多かれ少なかれ、霊力を持っているものなんです」
しかしと、シキは顔を曇らせた。メガネ越しで分かりづらいが、どこか憤っているようにも感じる。
「この世界は、霊力と相性が悪い。まるで、霊力が拒否されているようです。霊力は、人間が心を持つ上で、必要不可欠なものなのに」
まるで、堰を切ったようにシキの小柄な体格から、覇気が溢れ出した。否、覇気では無く、霊力と言うべきか。薄らと身体を覆う霊力は、闇色に染まりつつ、幻想的に揺蕩っている。
だが、霊力に慣れていないアイカには、刺激が強すぎたようだ。
顔を真っ青にしてふらついたアイカを見てシキは、慌てて霊力を抑えた。
「ごめんなさい。まだ、コントロールが上手くなくて。普段は、この眼鏡で抑えているのですが…」
つまり、道具の方がキャパオーバーになってしまったのだ。
それほど、シキの霊力は高いのだろう。
「アイカくん、大丈夫か?」
「はい、大丈夫です」
何とか持ち直したが、まだふらついているアイカに、シシツキは、ポンポンとソファの自分の隣を叩いた。
もちろん、ここに座れという合図だが、普段から従者の様にシシツキの斜め後ろに立ちたがるアイカは、ちょっと躊躇した。
しかし、アイカは考え直した。
これは、シシツキの隣に座るチャンスではないか。最近、女子の勇者達に人気のシシツキだから、万が一このシシツキが、ほかの女子に目移りするかもしれない。そうなる前に、自分を助手だけではなく、女として見てもらわないといけない。
下心満載の理由で、シシツキの隣に座ったアイカを、シキが半分呆れたように見ていた。
「シキくん、さっきから言っている僕達と言うのは?君以外の勇者という訳では無さそうだけど」
シシツキの問いに、シキはそう言えばと手を叩いた。
「改めて、自己紹介を。昼間は学生、夜は陰陽師をしています。神薙紫樹です。よろしくお願いします」
お粗末さまでした。
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