表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
先生は勇者と共に…  作者: 朱音
第1章
25/65

敗北と勝利

 

 それは、花蓮にとって、初めて目にした死であった。


 学園長の体から力が抜け、その固く閉ざされた瞼が二度と開かないことを理解した瞬間、花蓮は恐ろしくなった。

 目の前に突きつけられた、生命の脆さとそれに伴う、濃厚な死に本能的に、恐怖を突きつけられたのだ。


「アハハっ!良くやったね、アンドウ・テルアキ!!」


 魔族の喧しいはずの声も、どこか遠くに聞こえる。


 花蓮は、そっと辺りを見回した。

 ひどい有様の戦場。いや、戦場だからこその、この酷い有様か。

 鉄臭い臭いが立ち込めるこの空間は、まさにあの世と現世の境目であるのだと、実感した。


「クソがっ…」


 恐ろしい程の怒気が含まれたその言葉に、弾かれるようにして声の主の方を見ると、ふらつきながら、立ち上がろうとする桜輝の姿があった。


「大事なモン守れなくて、何が勇者だ」


 自嘲気味に呟かれた言葉は、花蓮の胸に重く響いた。


 そうだ。自分たちは、勇者なのだ。

 魔王を筆頭とした魔族から、人間を救うために召喚された存在。


 それなのに、今のこの状況はどうだ。

 魔族に惨敗している上、大事な人の大事な人をみすみす死なせてしまった。

 シシツキは、こちら側に背中を見せている状態であるのだが、その背中が雄弁に、シシツキが悲しみの渦へ飲み込まれていることを示していた。


 後悔等という、生温いものでは無い感情が、花蓮の胸に溢れ出した。


 魔族が気味の悪い笑い声を上げながら、シシツキを罵り、テルアキを褒め、学園長を貶しめる。

 それは、先程までシシツキを恐れていた自分を誤魔化すためのものであるのか。

 それは非常に、不愉快なものであった。


 しかし、光属性が使えないのに、何が出来るというのだろうか。

 光属性が使えない自分では、魔族の不愉快な言葉でさえ、遮る力はないというのに。


 花蓮の脳裏にそんな考えが過ぎった。


 1歩、また1歩と魔族が学園長を抱えて座り込んだまま動かないシシツキに近づく。

 きっと魔族が、自分の中の恐れを消すために、シシツキを殺そうと考えているのだろう。


 花蓮は、ぼうとそれを見ていた。

 もう、心が諦めてしまっていたのだ。


 自分が、以前した決心を忘れて。


 しかし、それを思い出させる存在がいた。

 桜輝に続く様にして立ち上がった紫樹は、魔法がダメなら、剣をというように、剣を構えた。


 その瞳は、その横顔は、まさに大切な者を護るものの顔。

 背が低く、いつも内気な雰囲気を持つ紫樹とは、似ても似つかないその姿は、しかし彼にピッタリとハマる姿でもあった。


 護る。


 そう横顔が雄弁に語っている。


 その強い姿に、花蓮は自問した。

 果たして自分はこのまま、何もせず、地面にうずくまっているままで良いのか。


 いや、良くない。

 自分は、守ると決めたのだ。

 それが、何故光属性が無いだけで、折れる必要があるのか。

 そもそも、光属性が無ければ、自分は人を助けないのか。

 そうではない。


 花蓮の心の声が、力強く体を動かす。


 負けるな。立ち上がれ。戦いはまだ終わっていない。


 花蓮の体から、溢れるように、魔力が迸る。

 先程まで、尽きていた魔力が。


 その勢いは、魔族だけでなく、紫樹や俯いていたシシツキを振り向かせる程の勢いであった。

 そして、花蓮の右手は無意識の内に、魔族に掌を向けて持ち上げられた。

 自然と、口も詠唱を唱える。


「“我ハ彼ノ者ヲ、打倒ス者ナリ“」


 短い詠唱だった。

 それに比例するのか、花蓮の魔力が創り出した光属性の魔法はなんの形もしていなかった。

 ただ、絵の具を水に落とした時のように、光属性の魔力が、辺りを満たす。


 シシツキ達に取っては、ただ、綺麗だなという感想を持つだけに終わるこの光属性も、魔族に取っては毒ガスと大差ない。

 光属性に当たった魔族は、日に当たり苦しむ吸血鬼のように、もがき苦しみながら、地に倒れふした。


「おのれ!!この僕が、人間如きに…!!」

「人間如き?私は勇者ニカイドウ・カレン。冥土の土産に覚えておきなさい。あなたを倒した者の名を」


 決意を新たにするような花蓮の名乗りに、魔族はただ、苦しみ、憎みの表情を浮かべながら、体を砂のように崩壊させた。

 それが、魔族の末路。


 学園を荒らし学園長を殺した魔族の最期であった。

 呆気ない最期である。


 それを呆然と見つめるシシツキの頬に、涙の後があるのを、認めて花蓮は唇を噛んだ。


「強くならなくちゃ…」


 花蓮の言葉が届いた紫樹が、何かを言うよりもはやく、ヒカリ達が戦っている方向から光の柱が立ち上ったのを見た。


「あちらも、終わった様だね」


 スッと立ち上がったシシツキは、学園長の亡骸をアイカに預け、亡き学園長の代わりに、後片付けをしに、駆け出した。



 結局、この学園襲撃事件では、全校生徒職員1236名の内、軽症653名、重症23名、死者1名を出す事となった。

 軽症者や無傷の者が多いのは、早期対応が出来て避難が迅速出会ったことと、勇者達が活躍したことが理由だ。


 しかし、鉄壁である言われた学園に、魔族が侵入したというニュースは王都だけではなく、世界中に衝撃がはしり、魔族と手を組んだテルアキは、牢に投獄され、裁判を待つのみになったのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ