神谷春兎の日常
俺は、神谷春兎。勇者召喚で、呼び出された生徒のひとりである。
身長は平均、体重も平均。容姿は良くも悪くもない。なんなら、学力も身体能力も平均。
至って平凡な男だ。
ああ、唯一特徴があるとすれば、目がオッドアイな事。普段はカラコンで隠している。右が蒼で、左が黒。
そんな僕は、別に目立つ人間ではないし、愉快な人柄でもない。
どこのクラスにも1人はいるであろう、地味なオタク男子。
それが僕の教室での地位。
オタクの僕が分析した所、僕のクラスには、主人公が2人居る。
1人は、九条ヒカリ。優れた容姿、成績、身体能力。まさに、主人公と言った男である。
でも、彼を説明する上で付け加えておかなくてはいけない。
アイツは、正義を盲信するタイプ。
つまり、全て正義が・・・で済まそうとする。所謂、おバカ。確かに、彼のようなタイプは、物語の中にハマれば上手くいくのだが、残念ながら現実では、鬱陶しいだけである。
まあ、それでも人気なのは、根は悪くない奴だからだろう。
もう1人は、二階堂花蓮さん。もう、まさに彼女こそ勇者という感じだ。容姿、成績、身体能力はもちろんの事、性格も男前なのだ。
だから、彼女に関しては、性別関係なく恋に落ちる。そういう僕も1回恋に落ちかけた。
まあ、そんなクラスだから、僕ははじめ勇者召喚にあった時、この2人のどちらかの召喚に僕らが巻き込まれたのだろうと思ったんだ。
まあ、結果みんな勇者だったらしいけど。
そう言えば、この世界に来る前に、女神と思われるとても美しい女性から、光属性をあげると言われたような記憶がある。
あんまり覚えてないけど。
そんな僕達は、学園でこの世界について学ぶことになった。
どうやら、人数が多すぎて、王宮ではカバー出来ないかららしい。
僕らにこの世界について教えてくれるのは、シシツキ先生と助手のアイカさん。
2人共、すごい美人。あれだよね、ヒカリや花蓮さんで、美形に見慣れている僕達でさえ一瞬見とれてしまったんだよ?
すごい美人だよ?
シシツキ先生は、何時もだるそうにしつつも、生徒の僕達を多分一番気にかけてくれている人。なんて言うんだろ・・・。末っ子の気性とお兄ちゃん気性が上手く同居しているかんじ?
研究者と言うだけあって、その知識の豊富さは底が見えない。マンガで言うなら、主人公にアドバイスを与える渋い男の人かな。めっちゃかっこよくて、下手したら主人公より人気の出るキャラ。あんな感じ。
僕の、凄く尊敬している人だ。むしろ憧れの人?字は汚いけど。
もう1人、先生の助手のアイカさんなんだけど、あの人はめっちゃ怖い。
分かる?初日に先生に迷惑を掛けたら、殺すと言った時の彼女の目・・・。
怖くて、半分意識が飛んだ。
まあ、そんな感じで、僕はいま、異世界で生きている。
日本に未練があるとしたら、連載中のマンガの最後だな。それくらいしかない。
家族とかとあんまり仲良くもなかったし。
僕は、そんなことを考えながら、シシツキ先生が話す事をカリカリとノートにまとめた。
シシツキ先生の授業は、どちらかと言うと、大学みたいな授業をする。板書は必要最低限。ノートは自分たちで取るスタイルがそんな感じだ。
でも、授業自体は楽しいから、みんな真面目に出席している。
ただ、この先生、歴史の話になると途端に饒舌になる。それこそ、時間は気にしない。止めなければ、永遠に話し続けるだろう。それだけは、注意したいところだ。
「じゃあ、今日の授業はここまで。なにか質問があれば、俺かアイカ君に来ること。解散」
授業を解散で終わらせるのは、この世界では普通なのだろうか。
教科書をしまいながら、僕がつらつらとそんなことを考えていると、隣から名前を呼ばれて視線をそちらに向けた。
そこに立っていたのは、僕が普段一緒にいる、宮川太一だった。
彼は、通称残念イケメン。それだけで彼がよく分かる。むしろ、分かってくれ・・・。
根は悪いやつではないんだがな。
「メシ行こーぜ、メシ!」
「ちょっと待って、今準備する」
ガサガサとカバンから学生証を探していると、視界の端で、紫樹が1人で教室を出ていく姿を見た。
「あ、また誘い損ねた・・・」
寮の部屋が、同室になり話すようになった紫樹だが、教室でいると、一言も話してくれない。
寧ろ、寮でも学校でも、距離を置きたがっている節がある。
僕は、彼と仲良くしたいのに・・・。
「神薙か?」
「うん。アイツ、いつも1人だろ?」
「俺、中学から一緒だったけど、ずっとあんな感じだから、気にするなよ」
そう言って肩を竦めた太一に、曖昧に頷いて、僕も食堂へ向かった。
ちなみに、ここの学食はとても美味しい。
何故なら、お坊ちゃんやお嬢さまが通う学園だから。
お坊ちゃんやお嬢さまは、クラスが違うため、関わりがないが、勇者とのコネを持ちたいのか、時々話しかけてくるが、基本無視している。
下心が見え見えの奴と話したって、面白くないだろ?
もちろん、単純に興味を持って話しかけてくる奴もいる。
そういう時は、ちゃんと対応するぞ。
ハグハグと昼食を食べていると、珍しくシシツキ先生が、食堂に現れた。
「そこの2人、一緒に座っていい?」
今は、お昼ご飯の時間。
必然的に、人が多くなる。4人席を2人で陣取っていた僕達に、声がかかるのは仕方ないだろう。
それに、声をかけてきたのは、シシツキ先生だし。
「良いですよ」
「ささっ、どーぞ」
ありがとうと言って、僕の向かい側に座っていた太一の隣に座ったシシツキ先生は、いただきますと手を合わせた。
彼のお昼ご飯は、ハンバーグに唐揚げ、みそ汁に白ご飯(大盛り)あと、サラダとプリンが2つ。細っこい見た目に反して、結構大食いらしい。
「珍しいな、先生が学食なんて!」
早速太一が、先生に話しかけた。
先生は、口の中に詰め込んだご飯を、ゴクンと嚥下してから、太一に答えた。
「いつもは、弁当なんだけど、今日は、バタバタしてて、学食になったんだ」
「へぇー、お弁当作っているんですね、意外」
太一が感心しながら言うと、先生は、首を横に振った。
「いや、まさか。作ってもらっているんだよ」
みそ汁に口をつけた先生を見て、太一は目をキラリと輝かせた。
あ、先生、ご愁傷さまです。
コイツは興味を持ったことは、とことん追及する質なので、頑張ってください。
僕は余計な飛び火がしないように、口を噤んでおきます。
「誰に、作ってもらっているんですか?まさか、アイカさん、とか?」
ニヤニヤしながら太一が聞くと、先生はキョトンと首をかしげた。
本気で、太一がそんな質問をしたのかわかっていない顔。
えっ、先生、もしかして、アイカさんが抱いている気持ちに気付いてない・・・?
「なんで、そこでアイカ君の名前が出てくるのか、イマイチ分からないけど、違うよ。義妹に作って貰っているんだ」
妹?兄の話しなら聞いたことがあるけど。
先生には、妹がいたのか。
だから、お兄ちゃん気性でもある訳か・・・。
「先生の妹なら、すっごい美人だろうな・・・」
「うん、すごい美人だよ」
嬉々として妹の自慢を語り始めた先生を見て、太一はあちゃーという顔をした。
「予想外の所に地雷あったな・・・」
「これは、昼休み中、永遠と聞かされるのだろうか」
太一とアイコンタクトでそんな会話を片隅で繰り広げていると、ツカツカと僕らの机に近づく影があった。
それを見た瞬間、今まで嬉々として話していた先生が、ゲンナリとした表情をした。
「おや、こんな所に、下民が紛れ込んでいるとは・・・。全く、目障りだ」
「そんなこと言うくらいなら、絡みに来ないでよ」
「忠告してやっているのだよ」
先生を蔑んだ目で見ているこの男。
確か…スズカとかいう教師だったか?
自分は貴族ですと主張しまくった服装に、スラム街出身のシシツキ先生を見下す態度。ほんとに、僕の嫌いなタイプだ。
向かい側の太一も、不愉快そうに眉をしかめている。
「忠告ね…。この間学園長に言われたこと、もう忘れたの?これだから鳥頭は困るんだよ」
…先生、全力で煽りに行ったな。
「なっ、貴様!」
「ちょっと、スズカ先生だっけ?」
このままでは、埒が明かないと判断した僕は、口を挟むことにした。
そう言えば、以前九条も、絡まれたって話をしていた。
先生を貶すだけ貶して、最終的に、”あんなスラム街出身の下民よりも私の方が、あなた達勇者の教師に相応しい。"とほざいたので、九条が珍しくブチ切れたという事をきいた。
この男、反省を全くしていないな。
スズカは、僕達をみて、目を丸くした。
「おや、これはこれは勇者様方。こんにちは。こんな下民と…」
「下民?シシツキ先生は、僕達勇者の先生だ。この国での、勇者の地位は、国王とほぼ同じ。そんな僕達の先生を、貶すなんて、スズカ先生の方が何様?」
スズカの顔が青くなった。
そう、シシツキ先生はいくらスラム街出身であっても、僕達勇者の先生であると言う肩書きは、とても重視される。
それこそ公爵家でも、シシツキ先生は無下に扱えない。
何故なら、勇者の先生とは即ち、それだけ勇者と親しいということ。
勇者との繋がりが欲しい貴族からしたら、先生は重要人物になるはずだ。
「で、でも、この学園は、身分の差は関係ないはずで…」
「さっきまで、シシツキ先生を、下民って貶してたアンタが、それを言うの?」
太一も参戦。こいつは、口は回るから、非常に心強い。
「いや、さっきのは…」
「さっきのはなに?あれはどう見ても、校則に違反している言動だね。それに、僕達は、身分や階級がほとんどない所から来ている。そんな僕達の前で、下民がと言った時点で、スズカさんは、僕達の教師にはなれない」
「むしろ、お断りだよ。僕達は、シシツキ先生だからこそ、僕達の先生であると認めているんだ」
きっとこれは、クラス全員の総意だ。
だからね、シシツキ先生。
へぇー、そうなんだって、他人事で聞かないでくれ。
あなたの事だから。
その後も、粘る素振りを見せたスズカだが、太一に上手くあしらわれて、立ち去っていった。
「ったく、なんだよ、あの男」
「2人とも、ありがとう。まさか2人がそんなに頼もしいとは思わなかった」
はい、唐揚げあげると言われ、僕達のそれぞれのお皿に、唐揚げが載せられる。
「そう?俺、頼もしいかな?」
「あ、うん、君が残念イケメンと言われる理由が分かった」
ピリピリしていた空気を打ち破るように、太一がおどけながら、先生に聞き返した。それにより、重い空気が、スゥと無くなった。
きっと、太一はわざとこういうことをしている。
コイツのこういう空気を読んで、変化させる能力は、純粋に凄いなーと思う。ただ、それの代償に、残念イケメンという称号が付けられたのだが。
「じゃあ、2人ともありがとう。午後からも頑張りなよ」
いつの間にか食べ終えていた先生が、席から立つと、じゃと手を上げて、去っていった。
その背中に乾いた笑みを零す俺と太一。
「また、訓練か・・・」
「そろそろ、僕、本気で死んでるかも」
「骨なら拾ってやるよ」
ちなみに、僕は異世界…と言うか、この学園に来た時から、午後の記憶が曖昧だ。
曖昧にしないと、訓練が辛すぎて、鬱になる…。
だから、僕が正気に戻るのは、大抵次の日の朝。
こんな感じで、僕は異世界で暮らしている。
最近では、訓練についていけるようになった。
次の目標は、とりあえず、シシツキ先生に1勝する事かな。




