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勾拿  作者: ノノギ
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藹藹 第4話

 夕食の仕度をしている間、数学の復習に専念していた遊眞は、燈樵の作る食事の多さに気付いた。

「あ、あの・・・多すぎませんか・・・・?」

「ん?いや、まだ作るよ」

「え・・・?今日パーティでもやるんですか?!」

「やらないが?」

「・・・・へ?」

それにしてはおかしな量だ。ざっと見て8人分は作っている。さらに未だ作るというのだから驚きだ。一体何が燈樵をそこまで作らせるのだろうか。この疑問はこの後すぐに解決することとなったのだ。

 出来上がった食事は遊眞の勘で約15人分。いくらなんでも作りすぎだと思った遊眞は燈樵に抗議した。

「い、いくらなんでもコレは作りすぎじゃないですか・・・!?こんなにたくさん、どうするんですか?!」

「怪物に献上する」

燈樵にしては本当に珍しい比喩表現だな、と思った遊眞だった。だが、ある意味コレは比喩表現なんかでは一切無かったことを後になって知る遊眞であった。

「ふわぁぁぁぁぁ。燈樵。おナカスいたよぉ~」

仕度が整った頃、穐椰が眠たそうにあくびをしながら2階から降りてきた。燈樵の目つきが変わった。

「ほら、怪物が降りてきた」

「え・・・?」

遊眞は硬直する。穐椰のことをそんな風に呼ぶなんて燈樵とは思えなかったのだ。が、席について食事を始めた穐椰を見て、遊眞は。

―あぁ、怪物って、胃袋の怪物って思えばいいのね?

と呆気にとられて呆然とそんなことを思った。燈樵が早く食べないとなくなるぞと、忠告してくれたので遊眞は食事にありつけた。

 時間にして大体10分。15人前の食事は何処かへと消え去った、否。胃袋の怪物によって食べつくされた。しかし、遊眞の驚きはコレだけでは収まらなかった。

「ねぇ、オカわりはナイの?」

「ない」

まだ食うのか!燈樵はため息をついて穐椰を2階へと追いやった。そして食器を片付けてまた小さくため息。

「食費、馬鹿にならんな」

ポツリと燈樵。数学の苦手な遊眞でもわかる数値に頷くことしかできなかった。

「はぁ。こんなの毎食やられたら餓死するな、俺ら」

「そうですね・・・。 って、え?!毎食?!毎日じゃなくて、毎食?!」

「・・・そう」

燈樵はとぉい目で答えた。遊眞は目元が引きつるのを感じた。

 数学のお勉強会を再開させた。相変わらず明確な指摘のおかげでどんどん理解できる。

「試験はいつなんだ?」

「・・・・・・・・あ、明後日、金曜日からです・・・・」

「・・・・・。そうか」

早口にそういうとまた勉強に取り掛かった。

 何やかんやで勉強尽くしの日々が通り過ぎ、試験当日、遊眞は目眩がして大変な状態に陥っていた。無論、外傷があるわけではなく、ただ単にテスト当日だからである。

「ゆ、遊眞・・・死ぬんじゃないよ・・・・」

様子を察して璃紗が背中を叩いた。

「うん。大丈夫。勉強はちゃんとした!」

「あら、教えてくる人、いたの?」

「ウン!」

「へぇ~。妙に自信ありそうだね?」

「そうでもない!」

「あ、開き直りか」

「イエス!!」

完全に壊れた頭で試験を開始。今日は遊眞にとっては楽な日だ。歴史と英語。遊眞の得意分野。予想以上に鉛筆が進む。初日はいい感じにスタートを切ることができたようだった。

「うわぁ~!英語とかムリだよぉ~!!」

「結構難しかったね!」

「英語とかやる意味がわかんなぁい!」

「何言っているの!大事なものじゃん!」

「アンタはね!そらぁ、将来に希望感じちゃってぇ。英語と歴史はしっかり勉強するとか言っていたからねぇ~。でも私ら関係ないしぃー!」

「そういうわないの!私なんて月曜日は泣きながらテストする羽目になるんだから!」

「あ、数学と物理だっけ?この二つをあわせるって教師は一体何を考えているのやら!」

「うんうん!」

「ねぇ遊眞」

「ん?」

「誰が遊眞に勉強教えてくれているの?」

「私を保護してくれている勾拿の人」

「頭いいの?」

「うん!」

遊眞はこの言葉で後悔するのだった。後悔先に立たずとはこのことじゃいなぁ。

「私も教わりたい!」

「え゛?!」

「いいでしょ?」

璃紗は遊眞の腕をがしっと掴む。

「いや、えと・・・・ちょっと、土日は忙しいらしいから・・・」

「えぇ~。残念!」

がっくりと首を落とす璃紗。心の中で必死に謝る遊眞だった。

 帰りは燈樵に迎えに来てもらい、そのまま家に帰った。どうやらオフらしい。

「オフ、多いですね・・・・?」

「そうだな。ほら、アレがいるからな」

「なるほど・・・・」

「テスト、大丈夫だったか?」

「あ!はい!今日は大丈夫な感じです!月曜日のテストが生死の分かれ道ですネ・・・」

「なんだそれ」

「だって、数学と物理ですもの!私の苦手分野、オンパレードですよ!」

「・・・数字に弱いんだな」

「う゛・・・・。ひ、燈樵さんは・・・苦手なものとかあります・・・?」

「ん~。まぁ、俺は基本的に頭より体動かす方だからなぁ」

「そんなこと言って!頭いいくせにぃ!!」

「いや、それ程でもないって」

「じゃぁ私ってダメダメじゃないですかっ!」

「そういうわけじゃ・・・」

困ったような表情で笑う燈樵。ぷいと不貞腐れる遊眞。こんな感じが大好きで。いつまでも続けばいい。でも、幸せとは簡単に崩れてしまうのだ。絶えず幸せでいるわけには行かない。そうでなければ世の均衡がおかしくなってしまう。それでも。神とは時に残酷にキバを向くのだ。

 燈樵に勉強を教えてもらいながらやっと試験を終了させた。おそらく最悪の事態は免れたと遊眞は一息つく。迎えにきていた燈樵が遊眞にこれから1週間、オフであることを伝えた。

「え?」

「菰亞の様子を見るためだよ」

「そんなに警戒しているんですか・・・?」

燈樵は少し悩んだ風にしてから言い方は気にしないで欲しいと言って遊眞を見た。

「その口が言うか?」

「あ・・・・。そうでした・・・・すみません」

「いや」

そうだ。散々穐椰を恐怖し、警戒し続けた遊眞だ。勾拿の方がそれほどの警戒心を向けてもおかしくは無い。本来なら、穐椰は本部で監視し、『利用』する予定だったらしいが、穐椰の出した条件によってそれが叶わなくなったため、本部の方も随分な警戒を見せていると、桐原と響がぼやいていた。


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