1999年生まれの生まれの娘の娘の名前はカンナ
正男は昨晩、清美を抱いた。
カンナのビデオを見て興奮したから、というのではない。
どこか幻想の場所に行ってしまった自分を、現実に引き戻すために、清美を抱いたのだ。
清美のでかい尻を、抱き抱いて顔を埋めると、正男は大地の懐に包まれたような安心感を覚えた。
AVを見てから、否、パッケージのカンナを見てから、地上数センチのところを浮かんでいた彼の両足が、しっかりと地に降り、地中深くに根を下ろした。
それとともに、確かなエネルギーが体に湧いてきたのである。
それで二回もしてしまったのだった。
その時、清美と二人目が欲しい、などという話をした。
これまでその話題を避けていたのは、心のどこかに、どうせ今子供が産まれても、世界が終わってしまうのだ、という漠然とした思いがあったからだった。
昨晩は、何かそういう懸念を吹っ切ったような心持ちが、正男にあった。
「ま、趣味じゃなかったってことだな」
と浩司は言った。
正男はデブ専だから、という考えしか、彼の頭にはなさそうだった。
実際はそうではない。
清美と結婚したのは、ただ彼女が自分の嫁としてこの先の人生を共に歩んでいくのに、相応しい相手だと思ったからだ。
「お前も早く結婚しろ」
正男はそう言って、再び帰りかけたが、途中で立ち止まって振り返った。
「なあ、浩司」
「うん、何だ?」
「2026年になったら、俺たちはどうしてるかな?」
浩司は少しの間、戸惑ったような表情を見せたが、すぐに平常に戻ってあっさり言った。
「変わらねえよ。こんな田舎は、何年経とうと変わらねえ。山と川と田んぼと畑と、あとは牛だけだ。お前は髪が薄くなって、ますます牛の匂いを体に染み込ませて生きて行くんだ」
「まあ、そうだよな」
と正男は言った。
心のどこかに、浩司にこう言って欲しかった気持ちがある。
世界は1999年で終わっちまうんだよ、と。
でも、そんな期待は出来ないのだろう。
それは少し安心するようで、寂しいような気がした。
「じゃあ、な。帰るわ」
と言って、再び帰りかけた正男の背に向かって、浩司が叫んだ。
「あ、俺はかわいい嫁さんもらってるけどな!」
一瞬、振り返って苦笑いを見せてから、正男は店を出た。
駐車場に停めてあった軽トラックに乗り込むと、後ろめたいものがなくなったボストンバッグを助手席に投げ込み、エンジンをかけた。
田舎ののどかな景色の中、農道を走っていると、昨夜のことが思い起こされた。
そろそろ二人目が欲しいわね、なんて、清美は話していた。
「昨日の子が生まれたら、1999年生まれかあ」
と、正男は独り言を呟いた。
それから、思い出したように車を停め、Uターンさせた。
「女の子だったら、カンナにするのもいいな」
きっと、肥やしの匂いが全身に染み込んだ、逞しい娘に育つこと請け合いだ。
店に戻ると、意外な顔の浩司が声を掛けた。
「お、何だ、忘れ物か?」
「次のも借りてくわ。あれが入ったって言ってたろ、ブルセラ。本物の渋谷の女子高生が出てるやつ」
「か、どうかは分からんけどよ。顔にモザイクかけたくなるほど不細工だぞ」
「いいじゃねえか、現実っぽくて」
フフ、と正男は自嘲的に唇を歪めるのであった。




