こんな女がAVなんて、夢のような世界だが・・・?
「お、もういいのか?まだあと三日も残ってるぞ」
くたびれたボストンバッグの底から、長方形のビデオカセットを出してカウンターに置いた正男に、浩司は驚きの表情で答えた。
「ああ、もう見たからよ」
と、ぶっきらぼうに正男は返した。
例のビデオテープは、前日に清美が町に買い出しに行っている間に、ちゃんと見た。
「凄かったろ?タマん中、空っぽになったべ?」
「うん、ああ……」
今は仕事中と、皮膚の裏で待機していた卑猥さが、フライング気味に顔に飛び出してしまった浩司であったが、正男は釣れない返事だった。
「何だよ、その歳でインポテンツか?」
「いや、そうじゃねえけどよ」
何か、正男にはうまくいかないところがあったらしい。
「確かに凄かったよ。驚いた」
どうせ紛い物と期待していなかったが、中身はいい意味で予想を遥かに裏切るものだった。
ビデオの中のカンナは、パッケージの写真そのものだった。
アイドルのような小顔の少女が、体に不釣り合いな巨乳を揺らし、次々に男を征服していく様は、今までこういったビデオに対して有していた正男の観念を、根底から覆すものであったのだ。
「こんなかわいい娘がやってんだもんなあ。こりゃ奇跡としか言いようがないぜ。やっぱり、カンナは2026年から来たっていうのは本当かもな」
浩司は一人で興奮しているが、正男は冷めた風だった。
「だとしたらよ」
と、正男はポツリと切り出した。
「あんまりいい世界じゃなさそうだな、その2026年ってのは」
浩司は不思議そうに正男を見つめた。
「何だよ、そのってのは。2026年にそのもあのもねえだろ。カンナみたいな女がうじゃうじゃAVに出てんなら、夢のような世界だべ」
正男は首を横に数回振った。
「いや、俺は見たには見たけどよ。それが現実のものとは思えなくて、ちっとも興奮しなかったな。なんつうか、綺麗すぎてよ。どうしても、これは作り物じゃないかって思っちまったんだ。本物の女とは思えないんだよ」
「綺麗すぎて芸術品になっちまうってやつか?サンタフェ症候群だな」
「バカ言えよ。分かってるだろ」
宮沢りえの写真集が発売されたのは、二人ともまだニキビ顔で、学生服を着ていた時代だ。
二人で帯広の古本屋を数件回ってそれを手に入れたのを、昨日のことのように覚えている。
美しすぎて役に立たない、と言われたその裸身で、お互いバカになるほど擦りまくったものだった。
「とにかく、そのビデオは俺には用はないんだ。返しとくよ」
「そうかあ」
と、浩司は店の天井を虚ろな目で見上げた。
おそらく清美のことを考えているのだろう、と正男は推測した。
「じゃあな」
と、背を向けて帰りかけた時、浩司はポツリと言った。
「お前も歳を取ったなあ」
正男は振り返り、言った。
「まだ現役よ。昨日だって二回戦だぜ?」




