1998年の夏。2026年の未来から最高のAV女優が現れた!
だってよ、あんな女がいるわけないべ。
正男は、さっきから脳裏にこびりついて離れないイメージを振り払うように、そう思った。
居間のテレビは、夕方のニュース番組の間の、CMを流していた。
テレビの中では、妙齢の元アイドル歌手が、手軽にリッチな気分を味わえる、インスタントスープのカップを手に、謎めいた微笑みを浮かべていたが、彼女のことではない。
正男の頭の中にいるのは、別の女だった。
彼は改めて、その女のことを考えてみた。
いや、世の中に綺麗な女なら、いる。
テレビドラマに出るような人気女優は別嬪だし、昭和の白黒映画を見ていると、昔の大女優に見惚れてしまうものだった。
この国には昔から、綺麗な人はいるのだ。
でも、それがアダルトビデオとなると、やはりあれは嘘なのだと思ってしまう。
きっと、最新のコンピューターグラフィックスとやらで、パッケージだけ美しく作っているのだろう。
そうだよ、そうに違いない。
あれはそういうものだ。
レンタルビデオ屋で見るパッケージの女優の顔は、綺麗でかわいいのだ。
だが、実際に家に帰って見てみると、似ても似つかない二級品だったというのが、お決まりのパターンだった。
でも、まあ、そんなもんだと思う。
そんな綺麗なお嬢さんだったら、AVになんて出たりはしない。
AVにいるのは、他に行く当てのない、すれっからしのドドメ色の女だけに決まっているのだ。
だから、幼馴染の浩司が鼻息荒く見るように勧めた現物が、彼のくたびれたボストンバッグの底に入っていたとしても、それを取り出して見ようという気は、なかなか起きないのであった。
「騙されたと思っていっぺん見てみろよ。すげえぞ」
家業がレンタルビデオ屋の浩司が持ってきたのは、一本のアダルトビデオだった。
パッケージには、見たこともないような美女が、あられもない姿で微笑んでいた。
「かわいいな」
思わずポツリと呟いた。
が、それ以上に正男が驚いたのは、そのスタイルだった。
小さな顔のやや下には、似つかわしくない、今にも重力に負けて落っこちるのではないかと思わせる丸いメロンが二つぶら下がっていた。
くびれもしっかりある。
「驚きだぜ。Jカップだとよ」
「J?」
Jって、どのくらいだ?
ウチの女房が確か……。
正男は自分の奥さんのバストサイズがいくらだったか、思い出そうとした。
だが、そんなこと気にしたことがなかったため、把握していないことに気づいた。
彼の奥方なら、Jぐらいあるかもしれない。
でも、彼女の体は、どこもかしこもデカかった。
「こんな可愛い顔して、やることはすげえんだ。ベテラン女優も真っ青の、ハードコアだべ」
「じゃあ、やっぱり」
「それがよ、まさにこのパッケージのまんまの美人なんだよ」
そんなことがあるわけない。
どうせパッケージ詐欺に決まっているが、そこにはこう書いてあった。
2026年の未来から来た、最強プリンセス。
「なんだ、こりゃ」
「カンナは、2026年の未来からタイムスリップして来たっていう設定らしいぜ」
「ふふっ」
正男は、思わず吹き出してしまった。
バブルの崩壊から始まった不況の波は、AV業界にも押し寄せていると見える。
ついに安っぽいSFを入れてきたか。
この様子じゃ、AVもそろそろ終わりかもしれない。
だが、浩司は真顔だった。
「それが結構、2026年の世界について詳しいことを語ってるんだよな。案外、本当かもしれないぞ」
「そんなことあるわけないべ」
「未来には、スマホってのがあるらしい」
「スマホ?なんだそれ」
「要するに、携帯が進化したやつのようだ。蒲鉾板みたいなのを指で触るだけで操作できるんだと。2026年じゃ、AVもそいつで見れるんだそうだ」
「へえ」
正男は、自分が持っている、携帯電話の小さな画面でAVを見ているところを想像してみた。
「ちっとも楽しくなさそうだな。退化してるじゃないか」
「でも、みんなそうしてるんだと」
だとしたら、やっぱり人類は一度滅ぶのだな、と思った。
あの予言は本物だったのだ。




