海の向こうの記憶
「海の向こう……か」
悠真は、思い出帳に浮かび上がった文字をじっと見つめていた。
アヤはさっそく地図を広げる。
「海の向こうって言っても、海は広いからねぇ。どこへ行けばいいのかな?」
「それなら……」
ナナが思い出帳を指差した。
「このページの端に、小さな絵があるよ」
そこには、三本の塔と大きな橋が描かれていた。
その下には、かすれた文字で、
――「三つの鐘が鳴る場所」
と書かれている。
「三つの鐘……」
悠真が考え込む。
すると、アヤが突然手を叩いた。
「分かった! 港町に古い灯台があるって聞いたことがあるよ。そこから船が出てるかもしれない!」
「じゃあ、港へ行こう!」
三人は港町へ向かった。
港に着くと、たくさんの船が並んでいた。
魚を運ぶ船。
荷物を運ぶ船。
そして、一番端には古びた小さな船が一隻。
船の横には、三つの鐘のマークが描かれていた。
「これだ!」
悠真が声を上げる。
船の持ち主に事情を話すと、船長は思い出帳を見て驚いた。
「その本をどこで見つけたんだ?」
「昔の町の跡地です」
アヤが答える。
船長はしばらく黙ってから、海の向こうを指差した。
「あの海には、昔ひとつの島があった。今では誰も住んでいない島だ」
「島……?」
ナナが尋ねる。
「ああ。島には三つの鐘があったらしい。だが、長い間誰も鳴らしていない」
船長は少し笑った。
「もし本当にその島へ行くなら、気をつけなさい」
「何か危険があるんですか?」
悠真が聞く。
「いや」
船長は首を横に振った。
「危険というより……忘れられた場所だからな」
三人は船に乗り込んだ。
ゆっくりと港を離れる。
海は穏やかだった。
アヤは船の先で風を受けながら叫ぶ。
「海の向こうに、何があるのかな!」
「楽しみだね」
ナナも笑った。
しばらく進むと、水平線の向こうから島が姿を現した。
島の中央には、一本の高い塔。
そして、その左右にも小さな塔が立っている。
三本の塔だった。
「思い出帳の絵と同じ……!」
悠真が驚く。
船が島へ近づく。
すると突然――
ゴーン……。
どこからともなく、鐘の音が響いた。
「えっ?」
三人が顔を見合わせる。
もう一度。
ゴーン……。
今度は二つ目の塔から音が響く。
そして最後に、
ゴーン……。
三つ目の鐘が鳴った。
「三つ全部……」
ナナがつぶやく。
その瞬間、島の中央にある古い道が淡く光り始めた。
道の先には、小さな家が一軒だけ残っている。
家の扉には、古い文字が刻まれていた。
――「記憶を探す者へ」
アヤがゆっくり扉に手を伸ばす。
「入ってみようか」
「うん」
扉が開く。
中には、壁いっぱいに写真が飾られていた。
島で暮らしていた人々。
子どもたち。
お祭り。
学校。
海辺で遊ぶ人たち。
そして中央には、大きな一枚の写真。
そこには、かつて島と本土をつないでいた巨大な橋が写っていた。
ナナが写真の裏を見る。
そこには短い文章があった。
――「橋がなくなっても、つながりは消えない」
悠真は静かにその言葉を読んだ。
すると、部屋の奥から小さな光が現れた。
光はゆっくりと一枚の紙へ変わる。
そこには、新しい依頼が書かれていた。
【依頼――失われた橋の記憶を、もう一度つないでほしい】
アヤが目を輝かせる。
「レンタル姉妹、次のお仕事だね!」
ナナも小さく拳を握った。
「今度は……橋の記憶を探そう」
悠真は窓の外を見た。
島と本土の間には、何もない海が広がっている。
けれど、その海の向こうには――
かつて確かに、一本の橋が存在していた。
「よし。探そう」
三人の新しい冒険が、再び始まった。
――失われた橋には、まだ誰にも語られていない物語が残っている。




