第三十一の歴史ーー共有できない未来
未来の町の奥にある建物。
その扉の前で、悠真たちは立ち止まっていた。
中から、かすかな声が聞こえる。
「僕は……誰とも未来を共有したくない」
ミチが静かに尋ねた。
「どうして?」
しばらく返事がなかった。
やがて扉が開く。
中には、一人の少年がいた。
これまで出会った住民たちと同じように、名前はない。
胸には、
【未来――非共有】
という紋章が浮かんでいる。
少年は一歩後ろへ下がった。
「僕の未来は、僕だけのものなんだ」
悠真は頷いた。
「そう思うのも、一つの選択だよ」
少年は驚いた顔をした。
「……怒らないの?」
「怒る理由なんてないよ」
「でも、みんなは未来を共有してる」
ミチが答える。
「共有する未来を選ぶ人もいる。でも、一人で進みたい人もいる。それでいいと思う」
少年は黙り込んだ。
すると、彼の足元に一本の道が現れた。
【一人で歩く未来】
さらにもう一本。
【誰かと歩く未来】
少年は二本の道を見つめる。
「どちらかを選ばなきゃいけない?」
悠真は首を横に振った。
「選ばなくてもいい」
「え?」
「今は、一人でいたいなら一人でいい。でも、いつか誰かと歩きたくなったら、その時に選べばいい」
少年の紋章が少しだけ光った。
【未来――保留】
記録者が本を開く。
「未来が『保留』になることも、記録できます」
少年が本を見る。
「僕の未来……なくならない?」
「なくなりません」
「誰かが勝手に決めたりもしない?」
「しません」
少年は少し安心したように笑った。
「それなら……ここにいてもいい?」
悠真が頷く。
「もちろん」
少年は建物から外へ出た。
その瞬間――
町の中央に、新しい道が生まれた。
【一人で歩く道】
そして、もう一本。
【いつか誰かと歩く道】
二本の道は途中まで別々に伸びている。
しかし、遠くを見ると――
一本の橋でつながっていた。
ミチが驚く。
「最初から、つながる可能性があったんだ」
少年はその橋を見る。
「……僕が、いつか渡ってもいいの?」
「もちろん」
悠真が答える。
「渡らなくてもいいけどね」
少年は少し笑った。
「うん。自分で決める」
その瞬間、空に新しい文字が浮かんだ。
【未来を共有しないことも、未来を選ぶこと】
そして、もう一行。
【共有とは、同じ未来を持つことではない】
【違う未来を尊重することでもある】
記録者が静かに読み上げる。
「これは重要な記録です」
すると、未来の町全体が広がった。
一人で暮らす家。
みんなで暮らす家。
旅をする道。
休む場所。
何もしない場所。
名前を決める場所。
名前を決めない場所。
それぞれの未来が、同じ町の中に存在し始める。
「すごい……」
ソラが町を見渡す。
「未来って、全部同じじゃなくていいんだ」
アオも頷いた。
「違っていても、一緒にいられる」
そのとき、少年が悠真のところへ来た。
「僕、名前を決めてもいいかな」
悠真は笑う。
「もちろん」
少年は少し考えた。
「僕は……『ユイ』」
「ユイ?」
「うん。違うものを、無理に同じにしない。でも、どこかでつながっている。そんな意味にしたい」
胸の紋章が光る。
【名前――ユイ】
【未来――自分で選ぶ】
世界に、新しい名前が刻まれた。
ユイは自分の名前を見つめる。
「……これが、僕なんだ」
ミチが笑う。
「うん。でも、これから変わってもいいんだよ」
ユイも笑った。
「分かった」
その瞬間――
町の中央にある大きな時計が動いた。
カチッ。
カチッ。
そして、新しい文字が浮かぶ。
【第三十一の歴史――共有できない未来】
【一緒にいることは、同じ未来を選ぶことではない】
その直後。
時計の針が突然、見たことのない方向を指した。
空に巨大な扉が現れる。
そこには、
【第三十二の歴史――違う未来が出会う場所】
と刻まれている。
ユイが扉を見る。
「違う未来が……出会う?」
悠真は頷いた。
「行ってみよう」
扉が開く。
その向こうには――
同じ世界に存在しているのに、互いに決して交わらないはずだった、無数の未来が広がっていた。
そして、その中の一つから声がする。
「お願い……僕たちの未来を、もう一度つないで」
悠真たちは顔を見合わせた。
新しい冒険が始まった。




