第二十九の歴史ーー最初の未来
新しく生まれた世界。
まだ名前はない。
まだ歴史も少ない。
そして、そこに生まれた存在にも名前がなかった。
少年は自分の手を見つめる。
「僕は……誰なんだろう?」
悠真は答えた。
「それを一緒に探そう」
少年は頷いた。
すると、空に一本の白い道が現れた。
道の入口には、
【最初の未来】
と書かれている。
ミチが道を見る。
「未来への道かな?」
記録者が本を開く。
「正確には、未来が生まれる前の道です」
「未来が生まれる前?」
「はい。まだ何も選ばれていない未来です」
一行が道を進む。
しばらくすると、道が三つに分かれた。
【未来を見る】
【未来を選ぶ】
【未来を作る】
新しく生まれた少年は迷った。
「どれを選べばいいの?」
悠真は言った。
「選ぶ前に、全部見てみよう」
まず【未来を見る】の道。
そこには巨大な湖があった。
湖面に、無数の未来が映っている。
少年が覗き込む。
そこには――
森を歩く自分。
海を渡る自分。
町で暮らす自分。
一人で旅をする自分。
誰かと一緒に旅をする自分。
そして、名前を持つ自分。
「こんなにあるんだ……」
少年が驚く。
しかし、一つの未来が突然消えた。
「え?」
記録者が湖を調べる。
「これは、まだ選ばれていない未来です」
少年は不安そうに尋ねた。
「じゃあ、消えちゃった未来は、もう戻らないの?」
「いいえ」
記録者は答えた。
「まだ選ばれていないだけです」
次に【未来を選ぶ】の道へ進む。
そこには巨大な扉が並んでいた。
一つ目。
【森へ】
二つ目。
【海へ】
三つ目。
【町へ】
四つ目。
【空へ】
五つ目。
【誰かと一緒に】
少年は扉を眺める。
「どれも楽しそう」
ミチが言う。
「でも、一つ選んだら他は消えるのかな?」
少年が扉に手を伸ばす。
すると、扉の文字が変わった。
【選ばなかった未来も、可能性として残る】
「……なら、選んでもいいんだ」
少年は一つの扉を開ける。
しかし、その瞬間、別の扉も同時に開いた。
「えっ?」
記録者が驚く。
「これは……」
二つの未来が同時に存在し始めていた。
「一つ選んだら一つしか残らないんじゃないんだ」
悠真が笑う。
「未来は一本道じゃないんだね」
最後に【未来を作る】の道へ進む。
そこには何もなかった。
本当に何もない。
少年が立ち止まる。
「ここには、何もないよ?」
悠真が答える。
「だからこそ、作れるんじゃないかな」
少年はしばらく考えた。
そして、地面に小さな線を一本描いた。
すると――
その線が道になった。
少年が驚く。
次に、小さな円を描く。
円は池になった。
さらに四角を描く。
家になった。
ミチが笑う。
「すごい!」
少年は夢中になって描き始めた。
森。
橋。
広場。
星。
そして――
小さな町。
世界に、新しい景色が次々と生まれていく。
記録者の本に文字が刻まれた。
【未来を作る者――確認】
少年は自分の作った町を見つめる。
「僕……未来を作れるんだ」
その瞬間。
町の中央に、小さな鐘が現れた。
鐘の下には文字がある。
【この町に名前をつけますか?】
少年は少し考えた。
「まだ、つけない」
鐘が淡く光る。
【名前――未定】
悠真は頷いた。
「いい選択だと思うよ」
ところが、その直後。
町の外から、誰かの声が聞こえた。
「……その町、僕も入っていい?」
少年が振り返る。
遠くの道に、誰かが立っている。
姿はまだ見えない。
ただ、胸のあたりに小さな光がある。
新しく生まれた少年が尋ねる。
「君は誰?」
声が返ってくる。
「僕も……まだ分からない」
その言葉を聞いて、少年は笑った。
「じゃあ、一緒に探そう」
すると町の門が開いた。
【新しい未来――出会い】
空に星が生まれる。
一つ。
二つ。
三つ。
世界そのものが、少しずつ広がっていく。
そのとき、突然、巨大な文字が空に現れた。
【第二十九の歴史――最初の未来】
そして、その下にもう一つ。
【第三十の歴史――未来を共有する者】
悠真は空を見上げた。
「未来を共有する……」
ミチが頷く。
「一人で未来を作るんじゃなくて、誰かと一緒に作るってことかな」
新しい少年は、町の入口に立つもう一人の存在を見る。
「それなら……僕もやってみたい」
二人の間に、一本の道が生まれた。
まだ誰も歩いていない道。
二人は、その道の先へ歩き始めた。
そしてその先には――
この世界で初めての「未来の町」が待っていた。




