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継章:オルターニア領ノイマール直轄地代官の苦悩


継章




終戦から一月。

ノイマール王国は、オルターニア領ノイマールと名を変えた。

かつてノイマール王国の直轄領だった地域はオルターニア王家の直轄地となり、国土の東側の防衛の要であった旧ハズラン伯爵領もその一部に加えられている。

そんな旧ハズラン領の領都だった城郭都市は、今はオルターニア領ノイマールを治める代官府が設置された治世の拠点となっている。


その代官府の会議室に、アタシはいる。

その他にも、アレクにミーア、ベアトリスにジーマ。

それから、旧ノイマールで執政官をやっていた連中に、オルターニア王家から派遣されて来た役人連中も顔を揃えている。


皆に揃ってもらったのは言うまでもなく仕事のためだ。

ただ、その仕事ってのが大変で…とにかく知恵が必要だと思ったんで、こうして全員に召集を掛けた、ってわけだ。


皆の視線は、バイルエイン家からの使者に注がれている。

まぁ、バイルエイン家の使者ではあるんだけど、正確に言えばオルターニア王政府からの指示を受けたバイルエイン家が、それを持ってやってきているってだけ。

要するに、これから共有される内容は、オルターニア王家、王政府の決定ってことになる。

うん、気が重い。


「王政府は、正式にサラテニアへの対応を、代官様に委任することを決定しました。本日はサラテニアの現状と、オルターニア王政府の基本姿勢をお知らせしたく、参上いたしました」


バイルエイン家からの使者……次の兄上付きの家令で、普段はアタシとも気安い仲なんだけど、さすがに場が場だけにかしこまった様子だ。


……というか、その代官様ってやめて欲しい。

アタシはまだ承諾してない…流れにただただ押し流されて、やんなきゃいけないことをやってるだけだ。

それだけは絶対に認めてやるもんか、と心に決めている。


「まず、サラテニアですが、オルターニアの防衛拠点であるカレンダへの侵攻で大敗し、王と嫡男、王位継承権のある親族が多く命を落とすこととなりました。現在、残りの王位継承権を持つ者は二人。王弟で公爵位にあったラオナール・エルディアスという人物の二人の息子です。歳はそれぞれ、十二と十」


それを聞いて、皆が一様に溜息を吐き、それぞれに近場の連中と囁き合う。

ひどい状況だ。

実際に王権を引き受けるのは先になるだろうし、その間は誰かが国を支える必要がある。

しかし、サラテニアは連邦制ってのを敷いてて、貴族家の力が強く、王家の力が弱い。

これまでに聞いた情報だと、先の戦争でサラテニアがノイマールの南部やオルターニアに侵攻した背景には、軍事力を示して王家の権威を高めようとしたという背景があるらしい。

でも、攻めてった各地で敗北。

高めようと思ってた王権が揺らいで引くに引けなくなったんだろう。

博打的にオルターニア王都を狙ってカレンダ攻略を試み、そこでまさしく砕け散った。


つまり何が起こるかっていうと、国内で有力貴族同士の権力の奪い合いが始まるってことだ。

酷いことになるだろう…世話の焼ける話だ。


「これに対し、オルターニア王権は内政への干渉を行うことを決定しました」


使者の報告に、議場はさらにどよめく。

腹が立つ。

バイルエインの屋敷で、殿下と親父殿、一の兄上と次の兄上が話し合って決めてる光景が浮かんできて、無性に腹が立つ。

いや、バイルエインの家の役に立ちたいってずっとずっと小さい頃から思ってたけど、さすがに限度ってものがあるだろう?


「軍事介入では拙いと言うことか…厄介だな」


終戦を迎えてから日を追うごとに素直になって、もう内に秘めてた獣を隠そうともしないアレクが、そんなことを言って表情をしかめる。

どうしてこんなに物騒になってしまったんだろう。


「そうですね…そちら方面で圧を掛け過ぎると、かえって結束を強めることになりましょう」


アレクの言葉に、ノイマール出身の執政官がそう応じる。

まぁ、その通りだろうな…外から圧力を掛けるんじゃなく、内に手を入れて崩す…まぁ、その方が労力も金も人も掛からない。


オルターニア本国は、北のモガルアと、新たな領地となったこのノイマールの西側の紛争地域の警戒のために相当数の兵を割いている。

その上、今は戦争で荒れ果てたノイマールなんてお荷物を抱えてる状態だ。


あまり、手を広げたくない、でも、放置もまずい、ってのはまぁ、分かるんだけどな。

でも、その対応をアタシがやらなきゃいけないって理屈が、誰からも説明がないってところに問題があると思うんだ、うん。


「それで、本国は今後をどう見通しているのかしら?」


憤りを抱えるアタシの代わりに、ベアトリスがそう議事を進めてくれる。

それを受けた使者は畏まった様子を見せてから


「最終的には、サラテニアの属国化か、傀儡化を果たすのが理想と考えているようです。国内の政争の渦中にある一派に援助を行い、その手綱を握ることができれば、十分に可能ではないかと」


あぁ、手綱、ね。

それを聞いて分かった。

この案を考え付いたのは間違いなく親父殿だ。

アタシは、はぁ、と大きく溜息を吐いてしまった。

これくらいは、許して欲しいところだ。


「分かった。で、こっちは、サラテニアの誰の後ろ盾になれば良いんだ?」


アタシがそう尋ねると、皆の視線が使者に集まった。

まぁ、そうだよな。

気になるところだろう。

でも、使者は、ちょっと気まずそうな表情を浮かべながら口を開いた。


「……それについては…何も。目的が叶うのであれば、あとは代官様の判断を優先するとのことで……」


それを聞いたアタシが、テーブルの上に突っ伏したのは言うまでもない。

泣き喚きたい心境を察してくれたようで、隣に座っていたアレクが頭を撫ぜてくれる。

背中には、後ろに控えていたミーアの手が当てられる感触もあった。


ホントにまったく…それだけ高く評価されるってのは嬉しいよ。

嬉しい限りだよ。

信頼の証、だ。

本当に、まったく………


アタシは胸に込み上げたありとあらゆる想いを、もう一度大きく溜息と共に吐き出す。

それから…吐き出し切れなかった憤りを込めて使者に伝える。


「指示の内容は分かった…引き受ける、と伝えてくれ。ただし、人、金、物の要求についてはこっちの希望を必ず飲むように、って条件は付けて、だ」


あとから聞いた話だと、そのときのアタシは相当目が座っていたらしい。

まぁ座りもするだろう。

怒鳴り散らさなかっただけ、良かったと思って欲しいものだ。


アタシの言葉に、使者も痛ましそうな表情をして頷いた。

うん、伝えづらかったろうな、こいつも。

あとでちゃんと労ってやろう、可哀そうに。


そう気持ちを整えてから、アタシは皆に視線を向ける。

皆もアタシを見ていた。


「よし…じゃぁ、本題はここからだ」


アタシに良い手なんて考え付くわけがない。

でも、アタシにはアタシを支えてくれる優秀な連中がいる。

こういうときこそ、アタシの力の見せ所だ。


「皆の知恵を貸してくれ、どうしよう?どうしたらいいと思う?」


そんな情けないアタシの言葉に、それでも皆は力強く頷いてくれる。

あぁ、ホント、頼りになるよな。




『寝台からはじまる女騎士達の大陸戦記』のご愛読、ありがとうございました。

ちょうど1年前からコツコツと書き始め、ダラダラとした更新でしたが、最後までお付き合いいたこと、心よりお礼申し上げます。

ティアとアレクの密な関係描写だけではなく、周囲を取り巻く登場人物、立場、戦争という環境もしっかりと練り込みました。

ティアとアレクの心の底からの“叫び”をお届けできていたら幸いです。


継章末尾にありますとおり、第二部は鋭意製作中です。

また、カクヨムの方では細部修正版を掲載していますので、良かったらそちらへの応援もいただけると嬉しいです。

第二部もカクヨムにて連載を予定しています。

https://kakuyomu.jp/works/2912051596253509078


同時連載している『異世界温泉―竜割湯荘―』も良かったら読んでいってくださいね。

https://kakuyomu.jp/works/2912051596277485067


ある程度の見通しが付くまでは、温泉に浸かりながらのんびりとお待ちいただければと思います。


また「小説家になろう」「カクヨム」での評価、応援、感想などをいただけますと励みになります。

「好きだった場面、好きなキャラ」なんかをお気軽に教えてもらえると作者冥利に尽きます。

お時間あれば、ぜひぜひ何か書き残していってくださいませ!


1年間、本当にありがとうございました。

今後とも、変わらぬ応援のほどよろしくお願いいたします。

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