第4話 信じられない
瑞希が合コンでいなくなった後、すぐに追いかけていったのは相葉だった。
…ということを、合コンの翌日、同じクラスの小春にそう聞かされた。
小春だけは心配してくれて、何度も電話してくれた。2次会にも参加しなかったらしい。
「ごめんね…まさかあんなことになるなんて」
「ううん。小春のせいじゃないよ」
あんなこと…相葉に散々バカにされたことだ。今考えても胸が痛くなる。
それから、田口。何度かメールが届くが、思うところがあって返信をしていない。
「じゃあ、先に帰るね」
小春はあの合コンで知り合った男子とこれから遊ぶ約束しているらしい。
今日日直だった瑞希は一緒に帰ることなく、笑って見送った。
▽
だけど、日直の仕事を終えて帰宅しようとしたときだ。校門の前に人だかりができていることに気づいた。
そのほとんどは女子。中に1人の男子が交じっているような気もする。
「――あれ…?」
中心にいた男子と目が合ったとき、瑞希は思わず声を出してしまった。
「あ、やっほ」
相手は笑顔で迎える。
しかし、瑞希は反対にあからさまにげっという顔をしてしまった。
……そこにいたのは、相葉だったのだ。
「こないだここの高校だって言ってたから来ちゃった。ちょっと話があるんだけど」
そう言うと、周囲にいた女子たちを置いて、相葉はこっちに歩いてくる。
なに?今度は何を言いに来たの…?またバカにされるのはごめんだ。
「はっ、話なんて……」
ないと言いかけたのに、問答無用でどこかに連れて行かれる。
「ちょっとだけだから」
強引に連れて行くのだから、よっぽど何かあると思ったのだが、相葉に連れて行かれたのは高校の近所にある公園だった。
戸惑う瑞希を連れて、相葉はベンチに腰掛ける。瑞希も座るように促され、仕方なくベンチの隅に座った。
しばらく沈黙が続いた。
なんでだろう…緊張する。昨日は散々言われたのに、自分も現金な人間だとつくづく嫌になる。
「あれからいろいろ考えたんだ」
あれから…?昨日からと言いたいのだろうか。
「俺ね、こう見えても自分から告ったこともないし、それはそれは綺麗なカノジョがいたときもあった」
自慢?だから何?
「とりあえず女の子には優しくしとけってカンジで……だけど、昨日は違った。なんでか知んないけど、最初に瑞希を見たら、こう――」
そう言って相葉はまっすぐな瞳で瑞希を見てくる。
「まわりくどいのは無理だ。単刀直入に言う!俺とつきあってください」
瑞希は何かを考える前に、あっさりと首を振ってしまった。
それを返答ととったのか、相葉はとても絶望的な表情をした後、やがてしょんぼりとうなだれてしまった。
なに?なんで?意味がわからない。
からかうにしても、わざわざ瑞希の高校まで来る理由がわからない。何かの罰ゲームでもやらされているのかもしれない。
「き、昨日あれだけ言われたのに、そんなの信じられないよ」
率直な感想を述べると、唐突に相葉は顔を上げる。
「昨日は、俺が一目惚れなんてありえないって思ってたし、どう接すればいいのかわかんなくてあんな態度とった……ごめん」
「もういいけど…」
やばい。なんか変だ。
瑞希はその内心を悟られないようにするためにもう帰ろうと立ち上がったが、腕をつかまれてしまう。
「ひゃっ…!」
「明日ヒマ?」
「……暇だけど…」
相葉が嬉しそうに笑った。
「よっしゃ。じゃあ、明日の昼12時に駅前マックに集合!デートしよ」
勝手なデートの約束に、瑞希は戸惑ってしまった。
目の前の男が自分を騙しているのか、それとも本気でデートに誘っているのかわからない。
「行かない…」
それが瑞希の出した結論だった。17年間の経験で、こうしたほうがいいと悟っていたのだ。
「待ってる。ヒマなんだろ?」
「行かないから」
「来るまで待ってる」
「行かないってば!」
お互いに意地になりながら、その日は別れた。
絶対行かない…と瑞希は決めていた。仮に行ったとしても、相葉が来なくて待ちぼうけをしている瑞希を見て、影で笑う相葉の姿が容易に想像できた。
そうだ……絶対に行かない―――