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番かどうかわからないので恋愛結婚を希望します  作者: 幸智ボウロ(bouro)


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28/28

28 一秒でいいから

 王女脱走事件のゴタゴタが片付くまではみんな揃ってファーナム家にいた。安全面を考えたら伯爵家のほうが安心だし、騎士団からの問い合わせや協力要請にもすぐに対応できる。

 特にディアスとフォードは呼び出しも多かったが、脱走に手を貸した子爵家や護衛騎士達の処分が決まったことでやっと落ち着いた。

 テイル以外の騎士達は牢屋送りとなった。懲役刑っていうのかな。課せられる作業は軽いものではなく過酷な重労働。王様の温情措置を無視したため、通常よりも罰が重くなってしまった。

 加担した子爵家は取り潰し、護衛騎士達の実家は現領主が責任を取って代替わり。事件に関与していなかった者達には救済措置があるとのこと。

 テイルの実家は罪に問われず、テイル一人だけが除籍となり平民となった。実家も事情を汲んでくれたようで縁切りまではされなかったと聞いてホッとした。

 そしてジェンナ王女は修道院に強制送還されたが、髪が伸びた頃に他国に嫁ぐことが決まった。政略結婚だから相手に関しては…、フォードのようなイケメンでないことだけは確かだ。詳しくは聞いていない。

 これで家に帰れる。

 ディアスとライマは王家所有の湖畔の別荘へ行き、フォードと私は元の家に帰る。

 ライマがディアスの番であることを受け入れ、二人は蜜月に入る。蜜月は数週間で終わることもあれば数カ月かかることもある。

 バタバタしているうちに季節は夏。

 ということで、避暑もかねての蜜月らしい。

 追い出されたとは言っても王子様。下町の安い宿屋は安全面を考えたら利用できないし、ファーナム家やフォードの家で籠られても困る。

 ディアスは『外に出た身だから』と断ろうとしたようだが、ライマの安全も考えて別荘の利用を受け入れた。

 リムゼンはふらふらとしているようでいて、しっかりと冒険者としての依頼もこなしていた。

 フォードのほうはそれに付き合ったり、サボったり。

 フォードが借りている屋敷にはディアスの部屋が残されているが、ここにライマと…ってわけにはいかないよね。


「夫婦になるなら、どっか家を借りるだろ」

「ですよね」

「よその夫婦の心配より、オレ達の心配をしたい。そろそろ好きになったんじゃねぇの?」

「さぁ、どうでしょう」

 笑いながら、今夜の晩御飯を何にするか考える。

 フォードもマヨネーズの素晴らしさをわかってくれたので、チキン南蛮とかいいかも。ばぁばに教わったレシピだけでなく、セブンからももう少し話を聞きたいけど……。

 魔法院からの帰り道、フォードがいつものように私を抱き上げる。

「こら、オレといるのにボーッと考え事してんじゃねぇよ」

「考え事って……」

 晩御飯の献立なのに、本当に心が狭い。苦笑していると。

 若い男が目の前に飛び出してきた。

 バンッと地面に魔法陣が描かれた布を置く。直径1mはありそうで繊細で緻密な模様は芸術作品のように美しい。

 男は目を血走らせながらナイフで自分の手首を切った。

 魔法陣に血が滴り落ちる。

「ジェンナ王女殿下に神のご加護を!死ね!黒髪のアリー!!」

 魔法陣が光った。

 フォードが焦った様子で…、私を地面に降ろすと、男を魔法陣の上から蹴りだした。男が派手に地面を転がる。

 魔法陣に火を放つが、燃えない。雷魔法でも剣を突き立てても布は傷ひとつつかない。

「くそっ、てめぇ、何を……」

「呪いの魔法だ。はは…、オレの命と引き換えに、その女を呪い殺す…。ジェンナ…王女、殿下の………カタ……キ…………」

 地面に倒れた男の顔色がどんどん悪くなっていく。

 フォードが私の側に来て。

「絶対に助ける!」

「………フォード、大丈夫です」

 男は苦しそうにしているが、私のほうは…、何も変わらない。呪うなんて言われたから気分は悪いが、今のところ体調に変化はなさそうだ。

「大丈夫じゃねぇだろっ。こんな時まで…、なんでそう平気そうなんだ。くそっ、アリーにもマジックアイテム、つけさせておけば良かった」

 抱きしめられた。

「絶対に助ける。助けられなかったら、一緒に死んでやる」

「いえ、結構です。ファーナム家の皆さんに申し訳ないので、フォードは長生きしてください」

「アリー……」

 ぎゅうぎゅうと抱きしめられている背後から、セブンの声が聞こえてきた。

「取り込み中っぽいね。今ならフォードの尻尾、触れるかな」

「黙ってろ。てめぇの軽口に付き合う余裕はねぇんだよ、殺すぞ」

 ガルガルしている背中をぽんぽん…と叩いた。

「フォード、落ち着いてください」

「落ち着けるかっ」

「うわ、機嫌ワルッ。まさかオレのせいじゃないよね?まだ邪魔してないじゃん」

「………あぁ、そうか。魔法院からの帰り道はセブンさんの通勤路でもあるのですね」

 魔法院も繁華街に近い。商業地区とは異なるが、街の中心地で重要施設が集まっている。魔法院の近くは高級住宅街だ。王城や魔法院で働く人達用のアパートメントも多い。

「おぉっ、ご明察。アリーちゃんは冷静だねぇ」

「フォード、帰りにお菓子を買って帰りましょうか。久しぶりに食べたいです」

「アリー……」

 泣きそうな顔で覗き込まれた。

「アリー、頼むから……、もっとオレを頼ってくれ」

「あのですね」

 誰にも聞こえないよう、そっと小さな声で告げる。

「私の本当の名前はフェアリです」

 フォードが首を傾げた。

 どうやら私が異世界から来た事を忘れて…、いや覚えていても、ピンとこきていないようだ。という私も、何故、何も起きないのか…で、思いついたのだが。

「セブンさん、セブンさんの本当の名前って教えてもらえますか?」

「やだよ、魔法がある世界で真名を教えるとか、危ないでしょ。異世界あるあるだよね」

「さすがです。私は…、正直、元の名前が嫌で、嫌で……」

 母親には申し訳ないが、もっと普通の名前が良かった。存在も性格も地味なのに妖精はない。良い機会だと、こちらの世界に合わせ、なおかつ簡単な名前にした。

「なに?なんの話をして………」

 命をかけた呪術で、かけた本人には気の毒だが、そもそも名前を間違えている。

 私の名前は鈴木羽愛璃。超絶平凡な姓と素晴らしく乙女チックな名前で、正しく発音し、書ける人はこの国にはいない。仮に日本語の読み書きができる人がいたとしても、漢字で書くとなると組み合わせがかなり広がり一発で正しい漢字は…、学校の先生も困っていた。

「彼は『黒髪のアリー』に呪いをかけましたが、私の本当の名前はアリーではありません」

 フォードはしばらく固まっていたが、私の両肩に手を置いて長く息を吐いた。

「そ…、そうか、そうだったな。アリーの故郷は……」

「はい。とても遠い国で、この国の言語よりもかなり複雑な文字を使っています」

 フォードは私の肩におでこを乗せて、また固まってしまった。とても心配してくれたのだろう。私のせいではないが申し訳ない。

 よしよし…とフォードの髪を撫でていると。

「安心するのは早いんじゃない?衛兵呼んで、転がっているそいつ、調べてもらわないと。あと、呪いなら…、神殿?」

 セブンの言葉に『そうだ!』とフォードが動き始めた。


 神殿で調べてもらったところ、やはり呪いはかかっていなかった。

「準備されつくした強力な呪いだから、逆に弾くことができたのでしょうね。真名を必要としない簡単なものでしたら災いが起きていたかもしれません」

 若い神官に言われて、そんなこともあるのか…と。雑なほうが有効とか、呪い、怖すぎる、笑えない。

「神殿で販売しているマジックアイテムなら簡単な呪いを弾きますし、神のご加護もございますよ」

 神官、商魂たくましいな。呪いがかかっていないか調べてもらうために少なくない金額を寄付しているのに、さらに売るのか。ちょっと呆れたが、フォードは勧められるがままに魔石のついたネックレスをいくつか買った。

 そのうちの一つ…、オレンジ色の石がついたものを私の首にかける。

「ないよりはましだ。あとでもっと強力なの、作ってもらおう」

 心配性だな。

「明日はまた取り調べですね」

「仕方ない。犯人が死んでないのが救いだ」

 そうなのだ。私が死なない代わりに、犯人も一命を取り留めた。命と引き換えの呪いだからな。良かった…と思う。誰であっても人が死ぬのは見たくない。

「今夜はどこかで食って帰るか」

「そう、ですね」

「疲れた。オレの寿命のほうが縮んだ」

「それは困りましたね」

 笑って言う。

「フォードには私より長く生きしてほしいのに」

 一分でも一秒でもいいから、長く生きてほしい。先に逝かれたら寂しすぎる。

「私が死ぬ時は手を握っていてください。フォードが居てくれて幸せだったと言いますから」

「いや、いきなりそんな先の話をされても……、え、それってオレと結婚して、それからってことだよな?」

「一生、友達で、同居人というのもありですね」

「ねぇよっ、鬼かっ」

 フォードに抱き上げられて、笑って首に抱きつく。

「おまえ、ほんと、オレがどれほど我慢しているか……」

「そうですね。自分の番が誰よりも良い男で、とても嬉しいです。だから…、もう少しだけ待っていてください」

 今はまだわからないけど。

「きっとフォードにとっても幸せな答えを見つけます」


 一カ月後…、夏が終わる頃、ディアスとライマは家族用の小さな家を借りて一緒に暮らし始めた。しばらくは冒険者稼業で生活費を稼ぐ。

 フォードとリムゼンも本来の仕事に戻った。

 私は魔法院にスカウトされて定職を手に入れた。給料も悪くない。フォードが引退したら一緒に田舎に引っ込む予定だから老後のためにしっかりと貯金しなくては。

 運命の相手かどうかはわからない。たぶん、何年かかっても、死ぬまでわからないだろうが。

 フォードがずっとそばにいる気がしていた。

閲覧ありがとうございました。

年末年始は書く時間をあまりとれないため、ここで一旦、終了とさせていただきます。続きの更新は来年でしょうかね。ちょっと早いけど良いお年をお迎えください、いや、早すぎかΣ(・ω・ノ)ノ!

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