13 ここでプロポーズ?/オルシア
翌朝。
深まる秋の空気はひんやりとしていた。
昨日の気まずさを、まだ引きずったまま、私とディーンは小舟に乗っていた。
会話が無いまま小島に着くと、そのまま祠へ。
二人で静かに祈りを捧げる。
私はお願いした。
(水龍様、どうか一度だけでも、私に会いに来てください)と。
そして帰りの小舟。
私は、ふと思ってしまった。
──もしも今、湖に飛び込んだら水龍様は助けてくれるだろうか?
「オルシア! 危険だから動くなよ」
その一言で、体がぴたりと止まる。
これって──
《威圧》?
ソードマスターのスキルを、私に使ったの?
「また落ちたら、風邪をひくぞ。まあ、落ちても俺が助けてやる」
……心配してくれたのね。
ディーンが助けてくれるなら、わざわざ落ちる意味はない。
「だからジッとしててくれ」
「分かりました」
素直に返事をしておく。
小舟を下りると、ディーンに促されて神殿へ戻る。
レティーの姿はない。
護衛が付いてから、彼女は私に近寄らなくなった。
……平和で良いけど。
ディーンは真っ直ぐ司祭様のもとへ向かう。
「挙式をやり直したいのですが、宜しいでしょうか?」
「構いませんが、実は私は高齢で引退するのです。間もなく新しい司祭が来るので、交代してから挙式を行えばどうですかな?」
新しい司祭……ラファエル。
──もう登場するの? 早すぎる! 春先じゃなかったっけ?
間もなく来るというその人、中身はかなりの野心家。
35歳という若さで、次期教皇に最も近い人物。その実績作りのためにこの国へ来る。
──水龍様と契約するために。
いいえ、彼はこの国から水龍様を盗みに来るのだ。
加護が消えると、雨は降らず、湖の水は枯れ、この国は滅ぶ。
それを防ぐためにも、私が水龍様と契約して花嫁になる。
なのに。
水龍様との距離は、ディーンよりも遠い。
今やディーンは──本気で、挙式のやり直しを望んでいる。
司祭の交代を聞いたディーンはしばらく考え込んでいたが、
「オルシア。司祭が交代する前に、式を挙げ直そう。正式に俺の妻になって欲しい」
……不意打ちを食らった。
ここでプロポーズ?
「私はもう貴方の妻です。やり直しなど必要ありません」
平静を装って返す。
「そうだが、まだ寝室は別々じゃないか」
なっ……!
「おや、それはいけませんな」
司祭様まで何を言ってるの!?
……もう、恥ずかしすぎる。
私はその場から逃げ出した。
──ディーンってば、どうしちゃったの?
困った、耳まで熱い。
帰りの馬車の中。
昨日から漂っていたディーンの冷え冷えとした空気は、嘘みたいに消えていた。
「俺は君を幸せにする。信じて欲しい」
真っ直ぐな言葉。
……まるで心を読まれてるみたいだわ。
――こんな人じゃなかったはずなのに。
私を不幸にする張本人なのに。
「俺は子供の頃から騎士団長に憧れていた。尊敬しているし、ずっとお仕えしようと心に決めている」
……どうしたの?
ディーンはいきなり、シャーロッテ王女への想いを打ち明けだした。
「団長にとって俺はただの部下で、弟みたいなものだ。俺がレティーに対する気持ちと、同じものなんだ」
「諦めるのですか? 王配になれるかもしれないのに」
「そんなのは望まない。今は、君と本当の夫婦になろうと思う」
迷いのない声だった。
「最初は、私を拒んでいたのに。いつから心変わりしたのですか?」
「毎日一緒に過ごして、いつの間にか、少しずつだ」
……ああ、それは、私も同じかもしれない。今は彼が悪役とは思えない。
「君といると面白い」
そう言って、ディーンは青い瞳で私を見つめる。
──憎らしいくらい、イケメンだ。
胸がドキドキする。
完全に、想定外。
……またまた、シナリオ変更?
式を挙げ直す前に、ディーンに全部話そう。
私のことも、この世界のことも。
そう決めた。
――それで、きっと。
私たちの物語は、完結に向かう。
***
ディナーの時間は、挙式をやり直す話題で大いに盛り上がった。
家族みんなが嬉しそうで、場の空気は明るい。
──10日以内に式を挙げると決定。
それを聞きながら、私はいつものようにご馳走を堪能。
うーん。……おいしい!
こちらに嫁いできた幸福を実感!
「急いで準備しないといけないわね」
義母の声は嬉しそうだ。
「とにかく、挙式が楽しみだ。わはははは」
義父の豪快な笑い声。──健康に問題は無さそうだ。
こうして、賑やかなディナータイムは終わる。
──この夜。
私は夢を見ていた。
枕元に立つ一人の美しい男性。
青い髪に水色の瞳。
水龍様の<人型の姿>だった。
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