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婚約破棄の悪役令嬢は娶られ、翻弄され、溺愛される  作者: 一番星キラリ@9/2やられる前に発売:商業ノベル&漫画化進行中


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反則だと思う。

「王宮の私室から引き取った荷物は、この部屋に搬入させる。ドレスもちゃんと自分の物を着て、実家に顔を出せる」


「……! 重ねて御礼申し上げます。ありがとうございます!」


 なんて気遣いができるのだろうか。これには感動で胸が熱くなる。

 第二王子の婚約者となり、その後は妃教育に追われ、それが終わるとパトリックとヒロインであるティアラ、攻略対象トリオによる私の追い込みが始まった。エアリル以外は味方がいない――そんな時間を長く過ごしてきたのだ。レオニスの気遣い。これは傷だらけの私には、優しくしみてしまう。


 同時に……苦しい。そう感じる。


 気遣いの先に愛情があればと願う自分がいて、でもそれは叶わないものだと分かっていた。


「それで実家に顔を出すなら、少しでも元気な姿を見せたいだろう」


 ハッとしてレオニスに意識を戻し、彼を見る。その手には丸薬の入った小さな瓶。


「錬金術師に依頼した回復薬ポーションが今朝届いた。飲むタイミングは毎朝一粒。水なしでも飲める。昨晩のように苦くはない。安心しろ」


 もう何度目になるか分からない御礼の言葉を伝え、小瓶を受け取ろうとした。だがレオニスは、小瓶のコルク栓を抜き、丸薬を一粒、自身の手の平へと取り出した。そう思ったら、そのままその手を口に運び、くいっともう片方の手で、私の顎を持ち上げている。


「!?」


 昨晩の馬車の中の出来事を思い出し、心臓がドクンと高鳴る。

 口を開かされた状態で、レオニスの整った顔が近づく。


 これはキスではなく――。


 閉じそうになる瞼を開け、そこで理解する。

 レオニスの唇には、丸薬が挟まれていた。

 キス寸前の距離まで近づいた彼の唇から、ポロッと私の口の中へ、丸薬が落ちる。


 そうか、昨晩も今のようにして、薬を飲ませたんだ……!


 口の中に入った丸薬は、甘い蜂蜜の味がする。

 苦さなどなく、そのままごくりと飲み込めた。


 もうポーションは飲み終えているのに、レオニスの顔は遠ざからない。


 体の芯の部分が、キュンと疼く。


 清涼感のあるレオニスの香水を吸い込み、吐息が漏れてしまう。

 なんで、こんな飲ませた方をするのか。

 昨晩のポーションは、苦いもの。私が吐き出したりしないよう、そうするしかなかったのだろう。しかしこれなら、ちゃんと一人でも飲める。


 キスをするつもりなんてないだろうに。

 こんな風に顔を近づけるのは……反則だと思う。


 切ない気持ちにブランケットをぎゅっと握りしめる。


 そこでようやくレオニスの顔が離れ、爆発しそうになる鼓動が、少しだけ弱まった。


「これはジェニーの香水か? フレッシュな甘い香りがした……」


 レオニスの頬がハッキリ赤くなっているので、再び心臓が反応した。

 それを沈めるために、指摘された甘い香りについて考える。

 香油だ。

 みずみずしい桃のようなにおいの香油を、エアリルが薄くのばし、つけてくれたのだと思う。毎晩寝る前につけているものだ。それを伝えるとレオニスは、実に新鮮な反応をする。


「……そうか。女性は野郎どもと違い、こんなにも甘い香りがするのか」


「令嬢とダンスされたこと、ありますよね? 皆さん、素晴らしい香水をつけていたのでは?」


「社交界デビューのため、十五歳の時に一度、舞踏会へ行った。でもその一度だけだ。ダンスは……踊ったが、誰とダンスしたかなんて覚えていない。当然だが、香りなんて……どうだろうな。香水はつけていたのかもしれない。だが自分の印象には残っていないな」


 二十三歳にて、舞踏会に出たのが一度だけ!?


「あ、昨晩、顔を出したな。二度目の舞踏会だ」


「え、あれは舞踏会に本当に一瞬足を運んだだけですよね? 誰ともダンスもせず、これといった社交もされていないので、ノーカウントでいいと思います」


 そう答えながらも、不思議な気持ちになる。

 これだけの容姿と戦歴と性格……(エロをのぞいた)気遣いができれば、舞踏会でもモテるだろう。だが浮いた話一つなく、ひたすら魔獣討伐で二十三歳になった。そして弱点にならないような私と婚約し、結婚する。これでレオニスの人生はいいのだろうか?


 私は、一度詰んだ元悪役令嬢だ。首の皮一枚でつながった命だと思う。よって昨晩からの人生は、まさにボーナスタイム。たとえお飾りで、そこに愛はなく、いつ魔獣に害されるか分からない身だとしても。文句など言えまい……とは思うけれど、レオニスは違う。


「こほん」とレオニスは咳ばらいをすると「とりあえず今日の分のポーションは終了だ」と告げる。


「着替えが終わる頃には、足首の痛みもかなり緩和されているだろう。だからまずは着替えだ。様子を見て、明日もポーションは自分が飲ませるから」


 レオニスはベストのポケットに、あの小瓶をしまっている。


「!? 今のポーションでしたら、自力で飲めます。その小瓶を預けていただければ……」


 私の言葉にレオニスは腕を組み、首を振った。


「その提案には、承服しかねるな」


「えっ!?」

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