暗躍していたのは……
乙女ゲームのヒロインであるティアラが、逆ハーを選択した結果。本命の王族である第二王子の婚約者に収まることには、成功した。だが結婚と同時にティアラは、あの呪われたアントロープの地に、男爵夫人として赴くことになる。
ティアラが逆ハーで攻略した三人の令息たちは、邪魔な悪役令嬢である私を排除するために利用された。利用された彼らの末路は、悲惨なものばかり。彼らはヒロインの手に落ちることで、輝かしい未来を台無しにしてしまった。
断罪回避のため、悪役令嬢が奔走するのは、よくあること。そこでシナリオの強制力に苦しめられるのも、あるあるだった。でもヒロインがシナリオの進行に逆らうと、攻略対象共々、ここまで不幸になるのね……。
悪役令嬢として婚約破棄され、断罪寸前までいったものの。レオニスに窮地を救われた。ただその時は、救われたと言っていいのかという状況だった。しかしすべての謎が解けると、レオニスの深い愛を知ることができたのだ。
悪役令嬢なのに、流れに逆らわないことで、断罪は回避された。ハッピーエンドを迎えることが、できた気がする。
ちなみにレオニスにお熱になっていたリーデライナー。彼女が騒動を起こすよう、誘導した人物がいる。それは……。
リーデライナーが騒動を起こすよう、誘導した人物、それはティアラだ。
ティアラは、逆ハーをするぐらいだから、この国の目立つメンズは、自分が手に入れたいと思っていた。レオニスのことも、第二王子の婚約者という立場で近づき、攻略トリオの時のように、そのハートを射止めようと考えていたわけだ。
だが、なぜかレオニスは私を婚約者に選ぶ。
愛のない婚約であったとしても、私にレオニスを奪われた。そう、ティアラは感じていたようだ。そこでティアラはある女性を焚きつけることにした。実は逞しい男性を好む義理の姉・リーデライナーのことを、煽ったのだ。
レオニスがいかにリーデライナー好みの体をしているのか。ティアラは語って聞かせた。さらに王女であれば、彼の心を射止めることができるはずだと、まさに洗脳したのだ。
こうしてリーデライナーは迷走し、あの出来事を経て、そして……大いに反省することになった。猛省したおかげで、私の襲撃を心から謝罪することになる。
これを受け国王陛下も、いつまでもリーデライナーを婚約させなかったことを、反省したという。そして大変マッチョな近衛騎士であり、公爵家の三男であるピータ。彼とリーデライナーの婚約話を進めているという。
リーデライナーの一件は、乙女ゲームのエンディング終了後に起きた事件だ。よってメインキャラとの関連は、ないものと思っていた。まさかヒロインであるティアラが絡んでいたなんて、驚愕だった。
でもこれですべて一件落着となった。
あとは――。
「ジェニー!」
部屋に入って来たレオニスは、碧眼の瞳を煌めかせる。さらに極上の微笑みを浮かべ、私の方へ歩みよった。
スラリとしたその体躯を包み込むのは、儀礼用の明るいシルバーグレーの軍服だ。サッシュとマントは、彼の瞳と同じセレストブルー。ゴールドの飾緒、沢山の略章、襟元の団長を示すバッジが、ひと際輝いている。
キャラメルブロンドの髪は、いつもと分け目が違い、雰囲気が変わっている。
「レオニス、初めて見たわ、あなたの儀礼用の軍服。とても素敵! その腰に帯びている儀礼用の剣も、とても目を引くわ」
「ああ、これか。団長用で代々受け継がれている宝剣だ。魔獣がいると輝くと言われている」
そこでレオニスは私の腰を抱き寄せ、嬉しそうに瞳を細める。
「自分の装いなどどうでもいい。だが愛するジェニーの隣に立つに相応しいものではないといけないからな。これは王立イーグル騎士団の団長のために作られた儀礼用の軍服であるが、ただの軍服ではない。魔獣の巣窟と言われた、北部のノースフォレスト。この地を制圧した団長のみに、着用が認められている」
「ということは、これは王立イーグル騎士団の団長専用軍服ではないわ。レオニス・スターフォード団長のみに着用が認められた軍服、ということよね? これは……歴史に残ることだわ! 今日は宮廷画家が、レオニス様のことをメインに描いてくれると思います!」
するとレオニスは、嬉しいという顔をしていたのに、突然私の手を取り、甲へキスを落とす。その上でいきなり甘い笑顔に変わる。
「ジェニーが喜ぶと、自分の心も踊るよ。何より今日の主役はジェニー、君だ。主役に相応しい、とても素敵なドレスと宝飾品だと思う」
レオニスが褒めてくれた私の今日のドレスは、生地は鮮やかなセレストブルー。彼の瞳の色にあわせ、これを選んでいる。事前にレオニスがこの色のマントを着用すると聞き、選んだということもある。
身頃やスカートに散りばめられているのは、シェルビーズとパールで、南部の地のラグーンをイメージしている。さらにチュールにあしらわれた、銀糸による貝殻やヒトデを模した刺繍、波をモチーフにしたレース。どちらも大変気に入っているデザインだ。
このラグーンをイメージしたドレスを選んだことにも、意味がある。






















































