私の本心
「あのいかれた殿下が望むのは、ジェニーの不幸だった。だったらジェニーを幸せにするつもりはない。道具として利用すると思わせ、国王陛下に褒美として、悪女を欲しいと告げた方が、許可は下りやすいと考えた。パトリック殿下から反発されずに済むと思った。そして実際、その通りになっただろう?」
「それはもう、その通りだったと思います。でもこのお屋敷に来てからは、全て話していただいてもよかったのではないですか……?」
「そうしなかったのには、理由がある」
一体、どんな理由があるのかしら?
「自分がジェニーに骨抜きであることは、隠したかった」
骨抜き!? え、そうなの!?
つい気持ちが盛り上がるが、なんとか静め、尋ねる。
「え、えーと、それはつまり……」
「他の貴族達の目を、少しの期間は気にする必要があると思った。いきなり屋敷に連れ帰って、溺愛でもしてみろ。使用人たちは微笑ましい気持ちで、自分とジェニーのことを語るだろうが、出入りしている商人がそれを見聞したら……。新聞で書かれていることとは違うようだ。俺はすっかり悪女にメロメロだ――なんて噂になりかねない。そんなことになれば、パトリック殿下が何か仕掛けてくるかもしれない。ジェニーが不幸になるようにと」
溺愛!?
反応しそうになった私は、深呼吸をして、気持ちを再び落ち着かせる。一方のレオニスは、襲撃者に卵を投げつけられ、襲われた時のことも話してくれた。
私達を救出した後、レオニスは気付いてしまった。私の首が赤くなっていることに。レオニスは怒りをあらわにし、襲撃者を叩きのめそうだった。そこでレオニスの怒りを鎮めるため、ついそばにいて欲しいと口走ったところ……。レオニスはふわりと私を抱きしめてくれた。
突然の事態に胸が高鳴っていたが、レオニスの態度が豹変する。「さっさと屋敷へ帰れ」と冷たい言葉を放たれ、肝を冷やした。
だが近くの屋敷の貴族の使用人が続々出てきたことに、レオニスは気付いたのだ。そこで急に私に余所余所しい態度をとった。
つまり突然の態度急変にも、理由があったわけだ。
そこで視線を感じ、レオニスの顔を見ると、愛おしそうにこちらを見ているのが分かった。これにはフイッと顔の向きを変え、しどろもどろで口を開くことになる。
「で、では、世間のう、噂対策のためで、本音をすぐに話さなかったのですね!」
「そうだ……。だが、まさかラザフォード公爵邸からの帰り道に、襲撃に合うなんて。紋章を出していない馬車だ。おそらく公爵邸から見張っていたのだろう。そこまでする人物がいるとは驚きだった。驚きだったが、そこまでするということは、相当な執念だと思った。パトリック殿下やマネースキー伯爵令嬢とはまた違う人物が暗躍しているのでは?そう感じたわけだ」
「そして襲撃犯の影に隠れる黒幕を……真犯人の名を、聞き出そうとしたのですね?」
レオニスがコクリと頷く。
黒幕として、王女の名が明らかになり、奇しくもレオニスは彼女と牢で鉢合わせをしたわけだ。
そこでレオニスが、ふわっと小さく欠伸をした。
「すまないな。レディの前で欠伸だなんて」
「いえ、お疲れのところ、全て話していただき、ありがとうございます。おかげで謎は……解明しました」
「自分はさっき話した通り、ジェニーが初恋だ。だから今回の婚約と結婚は……自分にとってはまさに夢が叶ったに等しい。だがジェニーはどうなんだ? 君の本心、この結果をどう思っているのだろう?」
私の本心。それは決まっている。
「レオニス様は、この国の英雄ですが、私だけの英雄でもあるんです。ピンチの場に颯爽と現れ、私を救い出してくれた。少し驚く方法でしたが。恋に落ちないわけがないですよね? あの舞踏会では最低な人!と思いましたが、さっきの話を聞いて……。レオニス様の愛の深さを知ったのです。これからどんどんレオニス様に追いつくぐらい、好きになると思います」
「では……自分との結婚は」「楽しみでなりません」
レオニスがとろけそうな笑顔になった。
◇
エアリルにより起こされ、目が覚める。
昨晩レオニスと、腹を割って話すことができた。謎が解明し、お互いの気持ちを確認できたのだ。おかげでぐっすり眠れた。
気分爽快で、オフホワイトの生地に、濃紺とターコイズブルーで大ぶりの花がプリントされたドレスに着替えた。
準備が整い、ダイニングルームへと向かう。
朝からレオニスは素敵だった。キャラメルブラウンの髪はきちんと整えられ、肌はつやつやで血色もいい。碧眼の瞳は、ブルートパーズのように透明感があり、本当に美しい! 白シャツに、スカイブルー×マリンブルー×シルバーのストライプ柄のベスト、ズボンはスカイブルーだ。爽やかで見ているだけで気持ちが洗われる。
一方のスターフォード伯爵は、今日は休みを取っている。レオニスと同じように、クリーム色のシャツに、セピア色のベストとズボンという軽装をしていた。スターフォード伯爵夫人は、若草色の生地に、銀糸の刺繍が実に美しいドレスを着ている。
朝食が始まると、レオニスが昨晩私に話したことを、スターフォード伯爵夫妻に聞かせることになった。
傭兵に襲撃を命じた黒幕が、第一王女リーデライナーであることが判明すると、もう夫妻は驚き、言葉を失っている。
まさにレオニスが驚きの情報を明かした時、ヘッドバトラーが書簡を手に、レオニスのところへ向かう。
「坊ちゃま、国王陛下からの書簡でございます」
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完結のお知らせです。
【章ごとで読み切りの第三章が完結】
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