068 黄梅談義 その1
信忠さんが相談と称して、秀吉さんに日本の未来を語ります。
会合が解散した後、信忠さんは秀吉さんを呼び止め、酒席に誘った。
少し相談したい事があるとの事だ。当然の様に私はついていったが、十蔵や佐助は席を外す様いわれた。余程重要な話の様だ。
酒席といっても、信忠さんも秀吉さんも下戸なので、急遽お茶席になった
しかも信忠さんは茶の湯は面倒だと言って、私にお茶を煎れさせる始末で、どちらかと言うと私のジト目を他所にお菓子をばくばく食べて居た。女子の敵である。
そもそも茶の湯って身分を気にせず、気軽にお話が出来るという事で武士の間で流行したという話だったと思うのだが、其れすら面倒って言うのだから、どうかと思う。もしかしたら信忠さんは信長さん以上に、仕来りブレーカーなのかも知れない。
まぁ私も全く同意できないわけでも無い。利休さんとか商人から派生した一派が妙に小うるさい事言い出したあたりから逆に面倒と感じる様になったと思う。私は田舎者であまり侘びとか寂びとか判らないので、彼らが言うのは単なる形式論じゃないのかも知れないけど、理解出来ない人間にとっては苦行でしかない。お茶やお菓子ぐらい自由に食べさして欲しいよね(笑)
「そういえば、本能寺から茶器が結構発見されております。前日の茶会で信長様が披露された物だと思われます。土の中に埋めて保護されていたようです。」
秀吉さんが思い出したように言う。
「そうか。流石に、供養と称して死蔵してしまうのはもったいないか。貞成に相談して何処かで保管してくれ。」
この頃茶の湯は大流行中で、武士さん達の間でも盛んに茶器のコレクションが競い合われているそうだ。確か信長さんの所蔵にはたった一個で国が買えるとまで言われたものがあった筈だ。
信忠さん自体はどうやらあまり茶器そのものには興味は無い様だが、一方で歴史やその史跡・名跡は大好きだから、それら歴史的遺物の保護には熱心だ。
光秀さんが妙覚寺をはじめ京の街を荒らさなかっただけで、一族郎党の罪一等を減ずる程だから、押して知るべしである。まぁ兵に一般市民への狼藉を働かせなかったと言うのが一番大きいとは思うけどね。
秀吉さんは、若干欲しい欲しいオーラをかもし出していたが、完全に信忠さんにはスルーされていた。もしかして秀吉さん、自分に貰えないかな?という事でさっきその話をみんなの前で出さなかった?態度があからさま過ぎて、逆に憎めない。この辺の子供っぽい所は彼の魅力かもしれない。
ただ多分歴史的遺産という観点で見ている信忠さんはそれらを誰かに独占させる気は無いのかも知れない。その内一般の人でも見られる様な施設を作る位の事はしかねい。もちろん其れをガイドするのは天下人から転職した信忠さんだ(笑)まぁこれは私の希望的勘だけどね。
「して、それがしのご相談とは何でしょう?」
得意の切り替えの速さを見せる秀吉さん。
信忠さんはうん。と答えたものの何処から話したものか少し迷っているご様子。私は多少間を持たせるために、彼らのお茶を新しい物に換えた。もちろん作法なんて知ったこっちゃ無い。もちろん信忠さんも気にしない(笑)なんだかんだ言って、私達結構良いコンビかもね。
「まぁ、実は色々おぬしに聞いてもらって意見を聞きたい事は多々あるのだが、それは安土で折を見て話すとして、まずは例の海の話だ。」
秀吉さんの目がきらっと輝くのが見えたが、秀吉さんは無言で頷いた。
「当面日ノ本の統一に精力を傾けるが、海軍や海運の整備は恐らく一朝には行かんと思う。いまから種を仕込んで置きたい。」
信忠さんはそこでお茶を啜り、喉を潤してから続ける。
「やる事は山積みだ。海軍だけでも艦そのものの開発。数の確保。軍隊としての訓練、戦術の開発。軍港の整備等々だ。それ以外に商業航路の計画や開発など海軍以外にもやる事は多くある。特に伴天連のものに伍する船の開発と海運まで含めた港の開発は急務だと思っている。どちらも時間がかかるからな。」
「上様の腹案は?」
例によって秀吉さんが試す様に言う。
「港の方は、この前の大返しで摂津の陸揚げに使った兵庫。その他良港を統合的に運用して瀬戸内の海にまずは一大海洋拠点を構築する。」
信忠さんのその構想に秀吉さんにやりとする。どうやら及第点らしいが、表情的にはもう一声!という感じだ。
「さらにもう一つ。石山。ここの港を整備し、堺と連携させ一大物流拠点を作る。同時に巨大な軍港を置き、いずれ創設する新海軍の中心地とする。」
秀吉さんが改心の笑みを浮かべた。差し詰め合格!って感じだろうか?
「ついでだから言ってしまうが、藤吉郎。俺は京を政治の中心から引き剥がそうと思っている。京というより天子様や公家共だな。彼らには京での祭祀の中心として、文化の発展とその継承に勤めてもらう。そして、政治の中心は新たに石山に構築するこの巨大経済圏に移す。」
秀吉さんが始めて驚きの表情を見せる。
「そこまでお考えを?!大改革をではないですか?それでは大坂あたりに巨大な城が必要ですな!」
秀吉さんは急に前のめりになる。築城とか町の建設とか大好きなんだろう。
「まぁ城は後で良いと思ってる。まずは港とその周りの施設の整備が急務だ。後は城を含む町の縄張りだけやっとけば、とりあえず良いだろう。だが一つ大きな問題がある。」
信忠さんは急に声を暗くする。
「資金にございますか?」
秀吉さんが最もな事を聞く。そうねぇお金大事よ~。先立つ物が無いと何も出来ないからね。
「実は金はそれ程心配しておらん。今現在有り余っているとは言わんが、西国との経済圏に海運を中心とした物流網(もちろん将来は東国もだが)、それが整備されれば、金は勝手に転がりこんでくる。織田家は元々尾張の物流を牛耳ってのし上がって来た家だ。その辺の仕組みは重々心得ている。それが回り始めるまでの当面の資金も当てはある。」
「それは?」
秀吉さんが堪らず聞く。
「甲州金だ。」
今度は信忠さんがニヤリとする。急に私のお実家方面に話が飛んできた?!つづく!!
本当は1話で終わらすつもりが、信忠さんノリノリで自分の構想を語るもんでついつい尺が伸びてしまいましたよ。今だ画に書いた餅という自覚はありそうですが、誰かに語って置きたいんでしょうね。秀吉さんは秀吉さんでそう言う夢のある話は嫌いじゃない!って人なので、止める気ゼロです(笑)




