059 山崎の戦い その2
遂に動き出す戦場。光秀さんの乾坤一擲の一撃は発動するのか?!
拮抗する戦いを見せていた明智勢が明らかにジリジリ下がり始めた。奮戦する事数時間。遂に織田勢の圧力が明智勢の抵抗を上回り始めたのだ。
原因は間違いなく疲労蓄積の量である。
直接戦闘している部隊数が極端に少ない為、織田勢だけでなく明智勢も部隊を入れ替わりながら戦闘を行っていたが、そもそも戦闘に参加している軍勢の人数に差がある為、当然明智勢の方が疲労の蓄積が早いのである。
だが、さすがは明智軍それでも大崩れせず。戦線を維持し様としている。綻びそうな戦線をこまめに補修しながら、只管耐えている。
「何故。何も仕掛けて来ない?」
当初から思っていた疑問を口にもらす信忠さん。当然の疑問である。このまま何も仕掛けて来なければ、どれだけ頑張ってもいつかは押し負ける。戦線が崩壊したら一挙に織田勢が雪崩れ込みそれでジ・エンドだ。
仕掛けるとしたら、釣り野伏では無いかと言うのが、開戦前の秀吉さんの意見であった。
釣り野伏と言うのは、自部隊を凹ませ、其処へ敵軍をワザと引き込み、瞬時に包囲して殲滅する大技である。九州の島津が得意とする戦法だといわれており、彼らはもう少し戦術機動を大胆に使うらしいが、単純化すれば、つまりそういう事である。
極めて連度が高い軍勢でしか成しえない戦術だが、明智が率いる部隊であれば十分可能だろう。しかも明智は鉄砲部隊による十字砲火を得意としておりこれをやられたら恐らく前線の将兵の多くが犠牲となるだろう。
「其れをやられたら、どう対処するのだ?」
信忠さんは合戦前の打ち合わせ時に、素直に秀吉さんに聞いた。
「何もしません。只押しまする。」
秀吉さんの答えは簡潔この上ない。
非道っ!!私は心の中で思わず毒づいた。
秀吉さんはこう言っているのである。例え最前線の部隊に大打撃を喰らっても、その死体を乗り越えてでも更に後続の部隊を突入させる。恐らく相手は二度目の一斉攻撃を行う間もなく前線が崩壊するだろう。一旦崩壊した戦線を回復するのは不可能だ。そうなれば明智勢は一方的に蹂躙されるだろう。其れを行ってなお余りある戦力的優位をこちらは持っているからだ。
あれ程人死にが嫌いなのにこういう事を平気で言う。秀吉さんの底知れぬ恐ろしさを感じるのは正にこういう時である。信忠さんは酷く渋い表情をしていたが、興味深かったのは、秀吉さんの表情も左程差が無かった事だ。
これが戦国大名という百年の戦争が生み出した歴史上でも稀に見る世にも奇妙な生き物なのかもしれない。
そんな事を思い出していると、本陣がざわついた。
前線が大きく動いたのだ。
「来たか?」私は固唾を飲んだ。だが明智軍の陣形は私の想像と異なる形へと変形していた。
「何?!」信忠さんも私と同じ気持ちだったに違いない。それは凹ではなく凸という形だった。いやここからはそこまではよく見えないが◇の陣形かもしれない。いわゆる方陣である。
いずれにしても両脇が大きく開いた戦線から、織田の多く部隊が雪崩れ込む。当然後の部隊も其れを追い。明智の陣形を包囲すべく両端へ向かって走り出す。明智も包囲を逃れる為、部隊を大きく後退させながら反撃する。壊走とは異なる極めて統制の取れた後退機動だ。
「明智は何を狙っているの?!」
私は思わず漏らしてしまったが、本陣にいた多くの者は同じ気持ちであったに違いない。だが次の瞬間。私ははっと気付く!
秀吉さんが中心となって主攻部隊は、後退する敵陣を包囲せんと狭隘の反対側に攻め込んでいる。この為信忠さんの本陣と主攻部隊の間に恐らく瞬間的にではあるが、広大なスペースが開いてしまっている。信忠さんが孤立した!
「まさか?!」私はそう叫びながら辺りを見回す。
そして、最悪の予想が的中した事を知る。
信忠さんの本陣左翼の唯一と言って良い軍勢が一瞬で崩壊していたのである。
まず、官兵衛さんの軍勢は何が何やら判らない内に瞬時に引き裂かれる。その次に細川さんも官兵衛さんに何か起こっている事は気が付くも、対応出来ないまま混乱の内に崩壊した。
こちらからその様子を見ていた本陣からは何が起こったかは直ぐに理解した。
天王山から敵部隊が逆落しで全力の横撃を食らわせたのだ。
そしてその一団がこちらに向きを変え、勢いもそのまま猛突進してくる。
やられた!明智さんの狙いはこれか!
つまり、戦局を見極め敵の首脳部を襲撃する。所謂首狩り戦術である。
実は予測はしていた。圧倒的不利な状況の光秀さんが戦術レベルでこの劣勢をひっくり返すとすれば、狙うのは信忠さんであろう。と。
だが残念ながら圧倒的に経験不足の私にはその方法が判らなかったのだ。
見事という他無い。自らを囮にして、信忠さんを孤立させるとは!
だが感心ばかりもしていられない。私が出来る事はないのか?私はちらっと後ろで控えている白星を見る。「信忠様お逃げ下さい。」私はその言葉をすんでの所で飲み込んだ。
逃げられる筈が無いのだ。ここで信忠さんが撤退すれば、全軍が崩壊しかねない。本陣は混乱する事すら許されないのだ。
何も出来ない自分に歯噛みする私。
「信澄。頼む」
一見平然とした口調で、信忠さんは最後の頼みでもある本陣総予備の信澄さんに命じる。
「おうっ!」と言って自らの騎兵を率いて敵軍に向かう信澄さん。これで信忠さん本当に丸裸になってしまった。
私はただ短槍を抱き抱える様に持ちながら辺りの警戒を強めたのだった。
書いてて色々おかしい所はあって、気付いてはいるんですが、演出上多少の欺瞞は確信犯的に交えています。リアルにやり過ぎるとただ退屈な場面になってしまいかねないですからね。ハイ。只の実力不足です(笑)皆さんは気にせず読んでください。




