021 出会い
京に着いたものの信長から中々呼び出しが無く、暇を持て余すおゆき。京に繰り出したおゆきはある男に出会う。
こない~。
信長公からの呼び出しがこない~。
既に京都に到着してから数日が経過している。
こんな事ならあんなに急ぐことなかったんじゃないかしら。
マジでそう考える今日この頃。そして・・・
はい、今私は拠点としている菊亭家の別邸を一人抜け出して、京の街に来ていま~す。
本当ならきりを伴う所なのだが、たっぷりの休養を取り、完全回復を果たしたきりは佐助に駆り出され、なにやらこき使われている。曰く、小助の合流が遅れ、十蔵や手下達も明智勢の情報収集等色々作業をやって貰っているせいで、完全に人手が足りず、まさに猫の手も借りたい状態だそうだ。
猫の手以下の私はというと、ただただ独りぼっちで暇を弄ぶばかり。なので屋敷をこっそり抜け出して、京の街に繰り出したのだ。
だって京見物とか全然まだしてないもん!
もっともこっそりといっても、佐助の手のものが気付かぬ筈は無いので、どこからかこっそり見張っている事だろう。安心の放し飼いである。
私は久々に女姿に戻り、町娘風の身なりになっていた。こちらの方が若侍姿よりは目立たんだろうと言う判断である。
お母様は京の事を魑魅魍魎跋扈すると言っていたが、織田家が統治下に置いている現在、治安はかなり良い。少なくとも街中で昼日中に女の子がかどわかされる様な事は滅多に無いそうだ。
どっちにしても私の場合、そう簡単に攫われるような事も無いとは思うけどね。
そんなわけで、街中で開かれている市をウィンドウショッピング中である。
市と言うぐらいなので野菜や魚など食料品が多いが、茶わんや小物など生活品も多く見られる。
さすが楽市楽座の君主で知られる信長公のお膝元である。基本的にはTPOさえ弁えれば、誰が何処で店を開いても、咎められる事の無い楽市楽座。当然の様に市は賑やかになる道理である。
一々その効果を実感せざるを得ない。
きっと人自体も増えるんだろうなぁ・・と思ってしまう。
色々装飾品を物色していると、ふと私の目に止まったものがある。装飾品や茶碗等の小物を雑多に扱っている店だ。
小さい真ん丸の白いフクロウを模した陶器の恐らく鈴である。
こんな雑多に置かれている物にしては絵付けが見事だ。指の先程の小ささなのに、ハッキリとフクロウと判る。
陶器自体も白く見事なものだ。もしかして磁器?
日本で磁器を作っているとはついぞ聞いた事がない。だとすると大陸の物かな。これは掘り出し物かも!
ところが私がそのフクロウの鈴を摘み取ろうした瞬間、横から男性と思われる腕がすっと伸びてそれをひょいと摘まみ上げてしまった。
「あっ」
一瞬声を漏らした私であったが、気付いた時には目にもとまらぬスピードで腕を繰り出し、男性からその鈴を引っ手繰っていた。
ちりんっと小さいが綺麗な音が市場に鳴り響いた。
「おいおい」
思ったより若い男性の呆れ声が私に掛けられる。当然だろう。
しかし、私はその声をスルーしつつ。鈴を見つめる。
かわいい・・。
心なしか小さい頃のお福に似ている。フクロウだけど。
「俺の方が早く取ったんだけどなぁ」
それ程怒っている訳では無さそうな口調だが、明らかに不満そうに男が言う。まぁ当たり前だわな。
「私の方が早く見つけたから私に権利がある」
恐らく私ぐらい年頃の女の子にしか許されない強引な理屈を捏ねる私。
じっくり見ると本当に良く出来ている。ちょっと振るとやはりチリンチリンという綺麗な音が大きすぎない丁度良い音量で鳴った。
「買うわ」
私は店主に強引にお金を渡し、フクロウの鈴をさっさと懐にしまってしまった。
さすがに、多少罪悪感に襲われ、声を掛けた男の方をそっとのぞき見ると、まだ苦笑を浮かべつつ私を見ている。大丈夫怒ってはいない。
「なに?」
罪悪感を隠す為、私はあからさまにつっけんどんな態度を取ってみた。
男がちょっと困った顔をした。
今話から2~3話予定しているエピソードは、プロットの段階から予定されていた重要なエピソードなのですが、なんせ苦手なボーイミーツガール(というかガールミーツボーイ)的な話なので正直苦戦しております。しばらく生暖かい目で見守ってやってください。




