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エピローグ

 小鳥のさえずりが聴こえてくる朝焼けの正門で、旅人の身なりを整えたブレウス達がアノーラとレオンハルトに向き合いながら、最後の別れを惜しんでいた。


 正門の境界線である街の方にはジュデッカが落ち着きを払った顔で、弟と以前の君主を見送っている。


「本当に、お世話になりました」


 ブレウスと横に並ぶシルヴィアがフードを被ったままに頭を下げると、アノーラはジュリアに抱きつかれたまま上機嫌に手を振り、レオンハルトが涙を流して頷く。


 通りや家の物陰のあちら此方から泣き声と嗚咽が洩れて、耐え切れなくなった子供が飛び出し、父親が急いで部屋の中に連れ帰る。


 シルヴィアは名残惜しみながらも、城へと続く街頭の中心に立って再び頭を下げた。


「――ありがとう御座いました」


 返せぬ言葉の代わりに、その言葉を聞いた返事として至る所に手を鳴らす音や踵を踏む音、終いには食器を打ち鳴らす騒音が一斉に響き、直ぐに押し黙る。


 シルヴィアは予期せぬ返事に驚きを浮かべるが、直ぐに笑顔に変えて、スカートの裾を持ち上げお辞儀をしてブレウスの元へと戻る。


「うんじゃ、行こうか」


 馬車で手綱を握っているオルガはサッパリとした調子で出発を促す。

 荷台の中にブレウスとシルヴィアが乗り込もうとすると、先に乗り込んでいたガーボンとサスキアが、乗り込む2人を引き上げる。


 ジュリアがアノーラから泣き笑いのままに離れると、急いでオルガの横に座り込む。


 馬が嘶きを上げて、ゆっくりと正門を通り抜けると、背を向けたままに見送るヴェロキラの兵士達が一列に並んでいた。


 馬が加速を始めて、小気味よい速度で橋を越えると、ヴェロキラの全てが遠ざかりその全てが小さくなっていくが、兵士たちはどれだけ小さくなっても動かずにいた。


『変な所で律儀な奴らだ』

「誰もが秘密にしてれば、無い事と一緒ですから」


 フードを被ったままにシルヴィアが肯定すると、黒竜がブレウスの頭からシルヴィアのフードの上に跳び乗る。


『シルヴィアはこれから、どうしたいのだ?』

「何なりと、お申し付けを」

「ええと、そうですね……」


 先の事を考えて楽しそうにしているシルヴィアを見てブレウスは頬を緩ませていると、シルヴィアはブレウスに微笑を返す。


「色んな場所と人を、観て回りたいです。ずっと、お城の中でしたから」

「了解しました。ならば、手始めに――」

「きゃ」


 ブレウスがシルヴィアを抱え込むと、黒騎士へと身を変えながら馬車を飛び出す。

 手綱を握っていたオルガが肩を寄せているジュリアを他所に、突然飛び出してきたブレウス達に驚く。


「ちょっと、ブレウス!?」

「先にオルガの村に行ってるよ!」

「わ、解った!」


 シルヴィアを横抱きに抱えたままブレウスは平原の街道を上昇していく。

 流れてくる風がシルヴィアのフードを降ろし、束ねた銀色の長髪が風の強さに靡いた。

 黒竜が慌ててシルヴィアの襟元に跳び付く。


 シルヴィアの紅い瞳には、壁も果ても無い青空と、平原から続く森と山脈の朝焼けが途方も無く映りだす。


 シルヴィアが満面の笑みを、黒騎士へと向けた。




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