第23話
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ただのありふれた偵察任務のはずだった。
俺たちの任務は、どの街道で不可解な失踪事件が起きているのかを突き止めることだった。
この一帯に盗賊が野営地を張っている危険性があったのだ。
最初に姿を消したのは、有力な貴族の娘だった。
俺たちの闘技場から真っ直ぐ帰る途中だった。翌日には結婚式を控えていたという。
その事件を皮切りに、人々が次々と、まるで地面に吸い込まれるように消え始めた。
ついに冒険者ギルドが、この事件の調査に懸賞金をかける事態にまで発展した。
そこでクィリヌス様は、闘技場から最寄りの街へと続くすべての街道をくまなく探るよう、俺たちに命じたのだ。
部隊は十人編成。七人の戦闘員。二人の衛生兵。
そして当然、闘技場一の追跡者である俺だ。
その日、すでに三つの経路を調べ終えていた。
クィリヌス様に報告するため、四つ目の街道を通って帰還する途中だった。
その時、俺は不穏な痕跡に気づき始めた。
街道に残された足跡の一部が、異常なほど乱れていたのだ。
まるで、全力疾走の最中に突如として考えを変え、引き返そうとしたかのように。
俺は痕跡を詳しく調べるため、部隊を停止させた。
近くの茂みを掻き分けた瞬間、俺は確信した。ここが核心だと。
道端には、踏み荒らされた何十もの獣道があった。
だが、これはただの獣の仕業ではない。足跡の形が正確すぎた。
誰かが意図的にこの周辺をうろつき、ここを自らの『狩り場』に仕立て上げているようだった。
突然、俺は足の裏が地面に張り付いたように動けなくなった。
打ち捨てられた鉄くずの山を見つけたからだ。
鎧や武器から、装飾が施されたペンダントや印台指輪まで……。
俺はその紋章に見覚えがあった。あの行方不明になった貴族の娘のものだ。
これほど大量の価値ある金属を捨てるなど……人間のやることではない。
俺は森を熟知している。そこに何が潜んでいるかも分かっている。
だが、『それ』が人間の集落のこんなにも近くに棲み着いているとは予想外だった。
鉄に対してこれほどの嫌悪感を抱く森の化け物は、ただ一つ。
ドライアドだ。
見つかった金属の量からして、相当に強大な個体に違いない。
俺はこの情報をすべて戦闘員たちに伝えた。
そしてその時、俺の予想を遥かに超える事態が起きた。
この森は、俺たちがその秘密を暴いたことに気づいていたのだ。
俺は戦士たちに、戦闘の準備をするよう短く叫んだ。
剣を抜こうとした瞬間、本能が告げた。逃げろ、と。
圧倒的な恐怖の波に呑み込まれ、俺は即座に周囲の環境に溶け込む隠密魔法を発動した。
細胞の一つ一つが理解していた。
ほんの少しでも動けば、俺は死ぬ。
(くそったれ!)
俺の直感は正しかった。
最初の戦士たちが、俺の目の前で骸となって倒れ伏した。
全身の血が凍りついた。
ここで起きていることは、俺の最もおぞましい悪夢すら凌駕していた。
これは単に、ドライアドが森を支配しているという次元の話ではない。
(動物たちが血に飢えた猛獣に変異している! 俺の想定より遥かに最悪な事態だ!)
動物たちはある種の自我を獲得していた。
誰を、どこから攻撃すべきか、完璧に理解しているのだ。
茂みの奥から、ついに獣たちと共に現れた一人の人間のシルエットが浮かび上がる。
あれは……。
(嘘だろ! あいつだ!)
自分の目を疑った。
(一ヶ月前に俺たちから逃げ出した、あのクソ奴隷じゃないか!)
生きてきて、これほどの恐怖を味わったことはなかった。
全身が麻痺していた。
目の前で繰り広げられる一方的な虐殺が、文字通り俺から息を奪った。
俺は身を隠したまま、そのすべてをただ見つめていた。
あの奴隷は、まだ息のある者たちに容赦なく止めを刺していく。
そして、俺の仲間たちから金属製の装備を剥ぎ取り、鉄くずの山へと放り投げた。
一つの死体を担ぎ上げては、森の奥深くへと消えていく。
それを何度も繰り返した。
何時間もが過ぎた。
身動き一つ取れないまま、夜が訪れた。
周囲からはとうの昔に、動物の気配も、あの化け物の気配も消え失せていた。
闇に乗じて、俺は脚がちぎれるほどの全力で逃げ出した。
一度も後ろを振り返ることなく。
街道に転がり込み、闘技場へ向かって真っ直ぐに駆け抜けた。
* * *
「真夜中に一体何の騒ぎだ!? どこの馬の骨だ!」
ちょうど眠りにつこうとした時、誰かが俺の平穏をかき乱しやがった。
執務室の扉を叩く拳の音は、蝶番が吹き飛ぶほど激しい。怒りで血が沸騰する。
(よくも俺の邪魔を!)
歩み寄り、勢いよく扉を開け放つ。
偵察に出した追跡者が、転がり込むように中へ入ってきた。
「ここを酒場とでも勘違いしているのか!? 母親の顔も分からなくなるまで鞭打ってやるぞ!」
追跡者は床から跳ね起きると、大声を上げ始めた。
俺の脅しなど完全に無視している。
(この野郎……!)
「クィリヌス様! 見つけました! アカルです、あの逃亡者です!」
俺は黙り込んだ。即座に思考が最高速で回転し始める。
「突っ立っていないで、さっさと吐け!」
「旦那様、奴は西の森、オルト・アリオンへと続く街道の近くにいます! 人々が消えたのは、すべて奴の仕業です! 奴はドライアドの使者となり、森の動物たちを血に飢えた猛獣へと変異させていたのです!」
極限まで集中力を高めても、どうしてそんな事態になったのか理解が追いつかない。
俺は机の後ろの椅子に腰を下ろし、事の顛末を最初からすべて報告させた。
*
(自由を楽しめたのも束の間だったな、クソ野郎!)
薄暗い執務室で、俺は一人座っている。
「首を洗って待っていろ、愚かな虫ケラめ……。俺が直々に狩ってやる」
夜明けと共に、全員を召集する。
戦える者は一人残らず、この狩りに参加させる。
奴が伏兵を最も警戒しない夜を狙って、出陣する。
「一つの奴隷身分から抜け出し、さらに最悪な別の奴隷に成り下がるとはな。貴様をこれほど見下していなければ、同情すらしてやったものを」
椅子に深く背を預け、虚空に向かって言葉を吐き捨てる。
「どうやら大司祭の言葉は正しかったようだな。女は、お前を真の破滅へと導く」




