バッチリ恋愛対象
シルバーブロンドは、トップが短く、襟足は以前よりうんと長くなっており、白馬の動きにあわせ、サラサラと髪が揺れている。キリッとした眉毛の下の二重の瞳。銀粉を散らしたような紺碧の目は、陽光を受け煌めいているように見えた。
通った鼻筋に、シュッとした顔のラインは三年前と変わらないが、精悍さが加わったように思える。相変わらず透明感のある肌をしているし、純白のマントが実に爽やか!
濃紺の軍服に収まる体は、さらに引き締まったように思える。騎乗であるが、背筋も伸び、とても凛としていてカッコいい……!
私のことを視界に捉えたメレディス王太子は、明らかに驚きの表情だ。
ピッタリ私達の目の前で馬を止めると、スマートに馬から降りた。
「ただいま戻りました」
「お帰りなさいませ、メレディス王太子殿下!」
「お帰りなさいませ、殿下」
「「「お帰りなさいませ、殿下」」」
メレディス王太子が帰還の挨拶をすると、私、宰相、そしてその場にいた全員が声を揃え、彼の帰還を喜ぶ。
「メレディス王太子殿下、すぐにお茶をすることもできますが、入浴の用意もさせています。いかがなさいますか?」
私が問いかけると「王都に入る前に、宿で身だしなみは整えた。お茶でもしようか、リズ」と白い歯を見せ、笑顔になった。
その笑顔を見て、もう「大人~」とは思わない。バッチリ恋愛対象の異性として見て、胸をトクトクと高鳴らせている。
「ではお茶を用意したお部屋へご案内しますね」
「頼むよ、リズ」
そう言ったメレディス王太子がすっと手を差し出してくれる。
その手を見て「ああ、私より大きい手」と思わずじっと見てしまう。
「リズ?」
涼やかな声で名前を呼ばれ、ハッとしてその手に自分の手を添える。
すぐにメレディス王太子は歩き出したが、私はその手を思わずじっくり観察してしまう。
メレディス王太子は乗馬用のグローブを外しており、素手になっていた。
剣を手に連日馬で駆け回り、夜は天幕で執務もこなしていると聞いていたので、てっきり、剣だこ、ペンだこが沢山あるのかと思ったら……。そんなことはなかった。
「リズ、わたしの手がそんなに興味深いのか?」
「あ、失礼しました。その……剣を扱われるので、てっきり手はごつごつしているのかと思ったのですが、シルクのような肌触りで、艶々で、指も細く長く、爪の形も色も美しく……まるで令嬢のような手をされていて、驚きました」
するとメレディス王太子は、可笑しそうにクスクスと笑っている。
「剣を手にする時も、馬に乗る時もグローブをつけるからな。執務の時はペンだこができないよう、手袋つけることもある。あとは眠る前にクリームを塗っているんだ。手のちょっとしたささくれ。あれは存外、痛みを引きずるし、傷口から菌が入ると面倒だ。足もそうだが、そう言った小さな傷が命取りになるから、気が抜けない」
「そうなのですね! これは……必然的に生まれた美しい手なのですね」
「美しい……か。だが美しいのはリズ、君のことでは?」
これにはもう、顔が真っ赤になってしまう。
やはり素敵な人から「美しい」なんて言われると、こんなにも嬉しいのね……!
「三年前より成長したでしょうか?」
「三年前も可愛らしかったよ。でも今は愛したくなる美しさだ」
いきなり廊下で失神しそうな言葉をかけられた。
「どうした、立ち眩みか?」
「い、いえ、床がよく磨かれているので、滑ったようです」
「そうか。……このまま抱き上げてもよいが?」
「嬉しいですけど、我慢します!」
「嬉しい」と、うっかり本音が出ると。
「我慢などしなくていい」と言われ……。
まさかのお姫様抱っこ!
これは軽くパニックで暴れてしまい「そんなところはまだ子供だな」と笑われてしまう。
でも一気にメレディス王太子と距離が近くなり、それはそれでいろいろと観察してしまった。
あ、睫毛長いな。
こんなところにほくろがある!
石鹸のいい香りがするなぁ。
「リズはやはりまだまだ子供だな。そんなニコニコしたり、うっとりしたり、よだれが垂れそうになったり」
「ええ、よだれ!?」
慌てて腕をメレディス王太子の首から離してしまい、落ちそうになる私を、そうはさせまいとガッシリささえてもらった結果。私とメレディス王太子の顔はとんでもない程、近づいていた。
「リズ」
メレディス王太子の声がこれまででうんと近く、ミント香る吐息を顎のあたりに感じ、胸がキュンキュン言っている。
「わたしの婚約者殿は暴れん坊だ。もうすぐ部屋に着くから落ち着いてくれよ」
そう言った後に、私の鼻の頭に「チュッ」とキスをした。
暴れるより、瞬殺され、力が抜けてしまう。
「よし、よし」という感じで体勢を整えると、お茶をする予定の部屋に到着した。