第一部 公現祭篇 その十二
ベッドでじっと横になっていると、
不安がこみあげてきて、
とても寝ていられなくなる。
良心、
果てしなく打ち続ける心臓、
死への恐怖、
死に打ち勝ちたいという願いなどが、
眠りを妨げる。
仕方なく、また起き上がる。
こんなふうに寝たり起きたりをくり返し、
その間にとりとめのないことを考えるのだけが、ぼくの人生なのだ。
フランツ・カフカ
12 姫と魔女「ベクター」
アーキア超大陸南南西。アントピウス聖皇国。
夕刻を告げる鐘が鳴り響く。誰も彼もが一日の労を互いにねぎらい、職場を離れ、夕餉の支度を始める頃。
首都アスクレピオスにあるゼデキエル城。訓練の間。
その日の召喚者の訓練はとうに終わっているのに、二人だけ残っている。
(毎日毎日、イカれてやがる)
その召喚者二人の相手をする聖皇国屈指の戦士たち。半ば呆れ、半ば恐れ、半ば憐れんでいる。
ガォガォーンッ!!
重装歩兵の盾に手斧が激しくぶつかる。
「はあ、はあ、はあ、はあ」
それを握るのは永津朱莉。レベル27。
(くそ、こんな小娘にどうして俺が力負けするんだ!)
贅肉一切を削ぎ落とした筋肉質の細腕が振り回す斧は、歩兵を盾ごと押し返す。アルビジョワ迷宮から戻ったあと涙が枯れるほど泣いた少女の装備は以前と様変わりしている。お飾りだった狩猟ナイフは二本の片刃手斧に。見栄え重視の踊り子衣装は機能性重視の革鎧へ。その革鎧と小手、膝あてにはいくつもの投げナイフが付属している。
「おらああっ!!」
朱莉の手斧が相手のロングソードを打ち払う。重量級の相手は慌ててシールドタックルをかますが、それを朱莉は腰を落として受け止める。
(やばい。また光りやがった!)
少女の顔面も含め、左半身に彫った刺青が青く光る。
「うわっ!」
装備品も含めて百五十キロ近い重量の大人を、朱莉は逆さまに背負ってみせる。そのまま戦士は背中から地面に思いきり叩きつけられる。バーティカルスープレックス。戦士は脳震盪を起こし、泡を吹いて失神する。
「次っ!!かかってこい!!」
少女の皮膚に浮いた汗が、光る左半身を流れ落ちる。
茨海の呪印。
寿命の三分の一と引き換えに手に入れた、身体能力を飛躍向上させる呪い。
悔やみきれないほど泣いた後に少女は闇市に出向き、自らその呪いを体に宿す。茨海の呪印はアントピウス聖皇国において、人体への危険性ゆえ取り締まりの対象となる禁忌の呪物だが、彼女らアルビジョワ生き残り組の召喚者に対してさして興味のないマリク枢機卿ら上層部は、見て見ぬふりをした。
(どのみちあとは砂漠の地イラクビルで土くれになるだけだ)
聖皇国の幹部はこう考える。
異世界から呼ばれたにもかかわらず能力的に期待されていない召喚者たちの末路は、例えばアントピウス聖皇国に東接するイラクビル王国東端の国境警備。つまり永久に続くと思われる魔王領との国境紛争に従事することだった。
(駄犬が狂犬になったところで、なにほどのことがあろう。むしろ改造の手間が省ける)
国内で違法としている禁止薬物を使って召喚者や一定の能力者を強化する。アントピウスの上層部はそれをむしろイラクビル王国内で常習的に行っている。これは役に立たない召喚者や能力者を少しでも戦地で使えるようにするための、公然の秘密だった。
期待されていないその改造候補者が永津朱莉以外にもう一人、訓練所に残っている。
「最初に息吹を与えし光は汝の最期の息吹を引き取る……クロスホワイト」
閃光があがると同時に使い魔のイヌワシが別の重装歩兵に襲い掛かる。
ガオンッ!
イヌワシの親指の硬い鉤爪が兵士の盾を一撃でへし曲げる。そして大きな嘴で兜を素早くつつかれた兵士は脳を激しく揺さぶられ、気を失い、その場に倒れ込む。
(魔法使いに過ぎねえガキが、毎度毎度調子に乗りやがって!)
イヌワシの攻撃を逃れて魔法使いの間合いに踏み込み、刺突攻撃を試みる軽量級兵士。軽い代わりに素早く動ける。それに対して魔法使いの少女は針だらけのモーニングスターを最初手首で廻し、次に腕で大きく振る。それらは兵士が自身の間合いに入るよりも少し前に起きる。
「タイミングがあってねぇんだよ!!」
クレイモアを握る兵士が体重をかけた突きを見舞う。
ブオンッ!
体をよじって剣を躱し、独楽のごとく全身を一回転させて勢いをさらにつけた魔法使いの黒いモーニングスターが、
バキンッ!!!
兵士のクレイモアを根本から一撃でへし折る。
「くっ!」
「頭をかち割ろうとしたのに間違えました。次こそは……」
「ま、参った!勘弁してくれ!!」
兵士の降参で隻眼の魔法使いは攻撃を止める。汗をぬぐう。
その魔法使いの名前は赤荻晴音。朱莉と同じくレベル27。
眼帯の下の右目は自分より高レベルの使い魔を使役するための供物に使用した。それもイラクビル派遣予定の多くの召喚者や能力者たちのように上からの強制ではなく、自発的に。永津朱莉と同様、アルビジョワ迷宮から帰り、悲嘆にくれるだけくれた後の決断だった。
二人の自主訓練が終わる。
兵士たちの肉体の破壊は晴音が治癒する。その後朱莉と晴音は訓練に付き合ってもらった兵士たちに謝礼金を渡し、訓練所を出る。そして特に会話をすることもなく、いつも通り二人して公衆浴場「ニコラウスの泉」に向かい、汗を湯で流す。召喚されてしばらくの間、一日中混み合う混浴風呂に二人は恥じらいを隠せなかったが、今はもう違う。アントピウスの市民同様、男の目線があろうとなかろうと特に何の抵抗もなく素っ裸で湯船に浸かる。ちなみに市民はこの公共の癒し所で召喚者が誰なのか、おおよそ把握できる。湯船において局部を布で隠すのは召喚者か異国から流れてきた者ぐらいだった。そのような理由で、布で体を隠さず刺青もしくは眼帯だけの若い女二人は、冒険者と間違われても、召喚者だとは思われていなかった。
「あっ!お前ら!!」
「「?」」
異世界に溶け込んでいるその朱莉と晴音に突然声がかかる。二人はけだるそうなに声の主を見る。布で腰の下を隠している男と胸から下を隠している女。ただし男の方は左腕と左脚が義手義足。女の方は、目を瞑ったままでいる。
「誰か知り合いがいるの?」
女が自分の手を握る男に尋ねる。
「永津と赤荻だ。そっかお前ら、アントピウスに戻ってたんだな!」
男の名は小貝相登。
女の名は田久保日葵。
封印されし言葉「ミナグロ」を得たチート魔女の黛明日香によって祝福されたカップルであり、朱莉や晴音と同じタイミングで異世界にやってきた召喚者。ティオティ王国派遣組九名のうちの二名。
「ヒマリとコガイ……そっか。戻ったって聞いたけど無事だったのか」
「無事っていうかギリギリだけどな」
「それでもとりあえず生きてる。よかったね」
体を向けてくる朱莉と晴音に対し、小貝は「ごほん」と顔を紅くし、咳払いをする。その意味が分からず朱莉と晴音は互いの顔を見る。しかしやがて「二人とも、男の前なんだから隠せよ」と小貝に突っ込みを入れられる。
「別によくね?アンタみたいに見られて困るもんなんてぶら下げてねぇし」
赤い髪をかき上げながら朱莉がぼやく。
「あのなぁ永津。そういうオッサンみたいなこと言うな。年頃のJKだろ」
「JKじゃない。ここは異世界で、高校生なんていない。それに……」
ピリピリした口調の晴音の肩に、朱莉の手が乗る。晴音が黙る。そして二人はまた湯船に体を沈めていく。
「大変だったんだね、そっちも」
田久保がポツリとまとめた。
「なんかお前らすっげぇワイルドになってね?」
「そっか?前とたいして変わんねぇだろ」
浴場で汗を流した後、召喚者の四人は連れだって街の教会に足を運び、強制的な日課である神への祈りをさっさと済ませる。
「おい、どこ行くんだ?そっちは城じゃねぇだろう」
「メシだよ。食ってから城に戻る」
「メシ?外で食うのか?」
「ああ」
朱莉と晴音の足はゼデキエル城には向かわない。それに興味を覚えた田久保は二人と今晩一緒に食事をしたいと申し出る。別に断る理由もない二人は「好きにしろよ」と返事。こうして四人は賑わう大衆食堂に向かう。
「アルビジョワ迷宮に一緒に行ったパーティー連中はどうしてんだ?」
「あ?知らねぇよ、んなもん」
「知らないって、会ってないの?」
「昼間はほぼ毎日会ってる。でもまったく興味ない」
朱莉と晴音の行きつけの食堂に到着して席につき、料理を注文して待つ間、小貝と田久保は気になっていたことを朱莉と晴音に尋ねる。
「なんでだよ?仲間だろ?」
「仲間?そんなんじゃねえよ。ただ同じ場所に行って、同じところに戻って来ただけの関係だ」
お通しで四人の前にすぐに運ばれてきたゆで卵の殻の天辺を朱莉はスプーンで叩く。孵化直前のアヒルの卵に小さな穴が開き、中身が覗く。
「パーティー経験共有も解除してる。もうあの人たちとは何でもない」
すでに殻を割り、塩コショウとライム汁を卵の中に注ぎ終わっていた晴音はスプーンで少しずつ口に運び、卵と肉の中間の旨味を味わっている。
「そうか。……どれどれ、俺たちもじゃあ、いただき……これ、インパクトすげぇな」
「そうなの?」
「ああ。おっと、ちょい待ち。卵の殻がスプーンに入っちまってる。今取ってやるよ」
「ありがと」
小貝と田久保の温かなやり取りが始まる。しかしそんなことなどどうでもいい朱莉と晴音はどんどんゆで卵の中身をスプーンですくって食べていく。ただ二人の少女は上の空というわけでもなく、生まれてこられなかった殻の中の命をじっくりと舌で堪能している。
「よし取れた。オッケー。あとは何も気にしないで食え」
「そんなこと言われると、すっごく気になるんだけど」
「永津と赤荻は普通に食べてるからきっと大丈夫だ」
「ほんとに?」
「食わねぇなら二人ともこっちによこせ」
既に食べ終わった朱莉が小貝と田久保のやりとりに水を差す。
「食べるって」
「だったら感謝して食え。そいつはこれからウチらの血肉になってくれる」
「「……」」
「そういうのが分からねぇなら、あのゴミどもと一緒だ」
「ゴミども?」
「六人」
朱莉と晴音の言う〝ゴミども〟はもう、腑抜けてしまっていた。
召喚者六名。
竹越沙友磨。宮良翔平。古舘華。大羽剛。浅野田結芽。奥宮櫂成。
彼らと朱莉・晴音の共通点は、アルビジョワ大迷宮から命からがら生きて帰ったこと。
だがその後は異なる。
朱莉にフられた竹越は酒に溺れ、今は召喚者日当を全て酒につぎ込んで酔夢に沈む。
似たように晴音にフられた宮良の場合は、支配できる愛を求めて女に溺れ、金を娼館につぎ込む毎日を送っている。
ストレスのはけ口を食に見出した浅野田は暴飲暴食に走った。結果的に極度の肥満体になり、高血圧高脂血症、そして膝の痛みに現在苦しんでいる。
まともだったはずの大羽は頭の緩い古舘と一緒に愛の逃避行を謀ったが当然のごとくアントピウス兵に捕まり、薬物注射を施されて一足先に〝兵器〟としてイラクビルに送られている。二人はイラクビル国内の別々の地で、依存性の強い禁止薬物を手に入れるため、毎日戦場で戦い続けている。
残る奥宮は毎日の訓練後、賭場に入り浸る。負債を帳消しにするために男娼を行うのは無論、腎臓と睾丸を他者に譲ってしまったこの男はとどのつまり、ギャンブル依存症だった。
彼ら六人はそして、どこまでもアントピウス聖皇国の監視下にある。
つまりいずれも、短い間だけちっぽけな夢を見ることが許され、そのあと戦場という地獄に派遣され、地獄で改造され、ボロボロに使い潰されて朽ちる運命が用意されていた。
そのことを、朱莉と赤荻は小貝と田久保に話す。それも話したいからではなく、聞かれたから仕方なく顎を動かして話しているだけだった。
「そっちはどうだったんだよ?……おっ、きたきた」
六人を話題にするのが嫌になってきた朱莉が小貝に水を向ける。ちょうどその時頼んでいた料理が四人のもとに届く。朱莉と晴音が能力向上以外の目的で召喚者日当を使うのは自主訓練の謝礼と、外でのこの夕食の時だけで、それが目の前に今並べられる。
大型モルモットであるクイの串焼き。
ピーマンの肉詰め。
ふかしたジャガイモ。
卵をからめたパスタ。
「「いただきます」」
教会の時とは異なり、朱莉と晴音が手を合わせて短く、けれど真剣に祈る。料理となった者へ。料理をした者へ。それを不思議そうに見る小貝。不思議そうに聞く田久保。けれど下手な質問をすれば「いいからよこせ」と言われかねないと思い、小貝と田久保は朱莉と晴音を真似して食べ始める。
「はむ…………お肉、コクがあって、ハーブも利いてておいしい!」
「ワカタイハーブ、ニンニク、クミン、塩、酢を混ぜた薬味が赤身肉の中に詰めてある」
「もぐもぐ……ほんとだ!さっきのゆで卵といい、見た目はちょっとウゲッてなるけど、ネズミの串焼き、めっちゃ旨ぇ!」
「焼き色がついたらローズマリーの葉でオリーブ油を肉全体に塗るの」
「詳しいんだね、二人とも」
「「……」」
召喚者には朝昼晩の三食が無料で、ゼデキエル城で用意されている。それに対し外で食べる場合は当然カネがかかり、それらは自腹となる。それでも朱莉と晴音は外で毎晩、このクイ料理を食べる。
「毎日同じもん食ってんのか、二人して」
「夜だけな」
「どうして?」
「……」
「これは超うまいけど、さすがに毎日ネズミ食ったら飽きるだろ?」
「……うっせぇんだよ」
テーブルの上に朱莉のナイフが荒々しく置かれる。
「永津?」
「ごちゃごちゃうっせぇんだよ!!ウチらが毎日毎晩何食おうが、おめぇらに関係ねぇだろ!!」
大声のせいで、賑やかな食堂が一時的に静まりかえる。息を荒げる刺青の朱莉。それに驚く小貝と怯えて彼にくっつく田久保。何事もなかったかのようにパスタを食べ続ける眼帯の晴音。
クイ料理。
それはこのアントピウス聖皇国で、朱莉の双子の兄が、晴音の幼馴染の男が愛した料理。
その男はアルビジョワ迷宮で死んだとされる。
双子の妹と幼馴染を地上に逃がすために、魔物の生贄となった。
「ごめん。あれこれ聞いたりして」
「俺たち、なんか地雷踏んじまったみてぇだな。すまん」
小貝と田久保が謝る。「ふん」と鼻を鳴らし、朱莉がピーマンの肉詰めをつつき始める。食堂の雰囲気は次第に元に戻っていく。しかし四人のテーブルの空気は依然重い。沈黙に耐えられなくなった小貝と田久保が自分たちの身の上話を始める。
ピルニツ諸島の地獄、ティオティ王国の情勢と現状、パーティーメンバー七名の様子。
それに対して朱莉と晴音は適当に相槌を打つ。どれもこれもこの二人にとってはたいして重要な情報ではなく、そんなことよりも今日のクイ料理に使用された食用モルモットの品種や潰し方や焼き方のほうが大事な情報だった。店員の年増女が途中四人のテーブルに来てその情報を朱莉と晴音に教えると、二人は食事の手を止めて聞き入った。その様子もまた、小貝と田久保には不思議に映る。
「俺たち今はさ、この国の図書館で働いてるんだ」
小貝の言葉で茨の朱莉と眼帯の晴音の手がはじめて止まる。茨と眼帯は二人に目を向ける。
「そう。怪我して私たち、こんなだから。ソペニエル図書館で司書として働かせてもらっているの」
「そっか」「……」
朱莉と晴音は食事を再開する。
アルビジョワ迷宮から戻って後、朱莉と晴音は一度もソペリエル図書館に足を運んでいない。他の召喚者のように本や知識に対して興味がないのではなく、胸にこみあげてくる思いに耐えられる自信がないからだった。
「あの図書館で一番偉い人はさ、ジブリールっていうんだけど、この爺さんがまたすんごく面白くてさ……」
表情を殺した朱莉がジャガイモをゆっくりと口に運ぶ。こめかみに青筋を浮かべ始めた晴音が口元のソースを拭く。
「本当に何でも知ってるんだよね。あのおっきな図書館の中にある本全部を読んだんじゃないのかってくらい色々なこと知っているし、それに最近起きたことなんかも詳しく知ってて聞けば何でも教えてくれるんだよ」
「例えばどんなこと?」
晴音がナプキンを置いてナイフだけを手に取る。朱莉が晴音をチラリと見る。
「えっと、そうだね」
念のため、いつでも動けるよう朱莉は構える。が……
「アルビジョワ迷宮で永津真天君、生きてるって」
「「え?」」
眼帯が思わずナイフを落とす。残された眼を大きく見開く。
「今、なんつった?」
同じく目を剥いた茨が田久保に聞き直す。
「ほら、お前の双子の兄貴の永津真天。たぶんあいつは生きているってジブリールの爺さんが言って……っておい!どこ行くんだよ!?」
銅貨四枚を机の上に放り投げた朱莉と晴音はクイ料理も途中のまま食堂を後にした。
夜遅いソペニエル図書館内。
図書館の警備にあたる兵士に呼ばれたジブリールはわざわざ自宅から図書館まで馬車に乗りやってくる。館内には四人の召喚者がいる。小貝、田久保、そして朱莉と晴音。
「どうしてもというから来たが、こんな夜分に一体何の用じゃ?」
ジブリール図書館長が小貝と田久保に尋ねる。二人が事情を説明すると、館長は朱莉と晴音をしげしげと見る。茨と眼帯。それが何を意味するのかを、館長は無論一瞬で理解する。
「少し見ない間に、ずいぶんと雰囲気が変わったのう」
「んなことはどうだっていい。それよりお兄ちゃんが生きてるってのは本当なのかよ?」
ろくな会話をしたことのない朱莉が、いきなりジブリール館長を問い詰める。
「永津真天か。ふむ……生きておる。そう考えなければとうてい説明がつかぬことが立て続けにシータル大森林で起きておる」
「確証は、ない?」
久しぶりに会った晴音がジブリールに質問する。そこにはもう遠慮も初々しさもなく、あるのは苛立ちと執念だけ。
「確かに、ない。しかし大森林の様子は明らかにおかしい」
ここで館長は一息つく。どこから伝えるべきかを組み立てる。
「ロンシャーン山脈麓の神聖都市ウーリャオでは近頃、人外の者の現れた痕跡がいくつも見つかっておる。魔物でも亜人族でも動物でもない特殊な波長を出す何かの痕跡じゃ」
「「「「……」」」」
「それだけではない。森の中で怪異を目撃したという者が人・亜人を問わず現れておる。これも最近になってのこと。加えてシータル大森林の西にあるアルマン王国では奇妙なことが起きておるそうじゃ」
「不思議なことって何ですか?」
「死体暴きじゃ」
「死体アバキ?何スかそれ?」
今は部下である田久保と小貝の質問に、ジブリール館長が答え始める。
「かの王国は、魔王ウェスパシアが過去に撒いたとされる疫病が時を経て風土病と化し、それがために毎年多くの死者を出し続けておる。人は死者の近くにおれば疫病がうつってしまう。そこでアルマン王国はその国土の南に巨大な墳墓を造ったのじゃ。墳墓の名は、埋葬都市」
「「「「……」」」」
召喚者の四人とも予備知識がないそのバトラクスには、誰も近づきたがらない。そして毎日のように死者が王国各地から運ばれ、身元確認もろくにされず、ゴミのように葬られていく。
「風土病によって没したその死体がここのところ、どんどん減っているという」
田久保や小貝はもちろん、朱莉と晴音も頭に疑問符を浮かべる。
死体の消失――。
死体の始末に困っていたアルマン王国としてはありがたい話だったが、誰が何の目的で死体をかっさらっているのか分からず、国の上層部は素直に喜べないでいた。
「さらにはシータル大森林上空に現れた不吉な雨雲。雨は連日のようにアルビジョワ迷宮を中心として降り続けておる。まるで何者かがあの森で大事を始めたかのようじゃ」
朱莉が、晴音が、ジリジリしている。
「これらの事象の発生はすべておぬしらがアルビジョワ迷宮から戻ったあと、つまり永津真天が迷宮で死んだとされた後に起きておる。……かの者が関わっておらぬとはとうてい思えぬ」
「マソラ君は、死にました。私たちのせいで」
武器を振り回すかわりに、晴音が言葉を吐く。もう一度言うつもりはなく、言う必要があればかわりに武器を振り回すつもりだった。しかし、
「永津真天の死を、その目で確かめたのか、おぬしらは?」
涙目になる眼帯に、賢者はまっすぐに問う。
「それは……」
「確かに聞くところ、永津真天は地下21階層の魔物の巣に閉じ込められた。助かる見込みは万に一つあるかどうか」
「わかってるなら……いちいち言うんじゃねぇよ」
茨の刺青が、固めた拳を震わせる。
「だが万に一つ、あるじゃろう。おぬしら召喚者には」
「「「「?」」」」
「封印されし言葉じゃ」
ジブリール図書館長の言葉で、四人は目の前の一つのアイコンを思い出す。
「古より伝わる最強の呪い。その名も「封印されし言葉」。誤語を刻めば即死の罰を受ける呪詛。なぜか召喚者にのみ与えられる凶理」
館長は表情を暗くし、重々しく告げる。
それを受けて、四人の召喚者は互いを見る。
「おい、ジブリールの爺さん、それってまさか」
頭の中でようやく話のつながった小貝。
「そのまさかじゃ」
「永津君が、封印されし言葉を入力した?」
小貝に続く田久保。
「入力し、しかも封印を解き放ったとすれば、つじつまは合う」
朱莉と晴音の中で、一人の少年が血の海面に急浮上する。血をまき散らしながら、少年がもがくようにして顔と腕を天に、二人に向けて伸ばす。
「古来このアーキアを統べた者たちは例外なく封印されし言葉と所縁があった。封印を解いた者。解いた者を使役した者。いずれにせよそこには封印されし言葉があった。そしてその力は世界を覆すほどに強大にして甚大」
賢者が目を細める。館内の空気が変わる。朱莉と晴音の額に汗が浮く。
「何というか、あの少年は最初から尋常ではなかった。封印されし言葉を手に入れたとしてもおかしいとは、わしは思わぬ。……思えぬ」
賢者が目を閉じる。脳裏に浮かぶ召喚者の少年は、本を読みながら「全能の神」について、助祭の持ちかけた言葉遊びを論破する。
「異常な記憶力と集中力。世捨て人を思わせる無執着と無頓着。読めぬ思考と閃き。そして、これは言わないでおくつもりじゃったが」
賢者はしわ深い瞼をおもむろに開く。
「身内がこうしてこの場におるのならば、伝えておこう。くれぐれも他言は無用ぞ」
そう言われた茨の発汗は既におかしい。眼帯の呼吸も既に乱れている。
「収納魔法は、普通の魔法使いは無論、ただの召喚者にも使えぬ。収納魔法使い……あの魔法の使用者はみな、心を病んでおる」
朱莉の息が止まる。
「おぬしたちがこちらの世界に召喚されたのと時を同じくして、ここより南にある畜産都市リグリアプで家畜と人の大量失踪事件が起きておる。およそ五千匹のブタと二千人の亜人族が一夜にして消えた」
言って、賢者は見上げる。その目線の先には壮大な油絵がある。
魔物に皮を剥がれる召喚者。嬰児を生贄に捧げるべく子殺しをする狂気の母。魔物を押し流す洪水を引きおこした神。生きながら焼かれる殉教者……。
「そしておぬしたちを召喚した後、一人一人を個別に呼び出し、わしは尋ねたであろう?この世界に来る前の最後の記憶は何かと。あの時、誰もがシュウガクリョコウなる旅の始まりの話をする中、永津真天だけはこう答えた」
こう言う間も賢者は目線を下げない。
(爺さん、何を見ているんだ?)
左の手足を失った召喚者の少年は、賢者の目線を追いはじめる。
大地を流れる紅色の河。その空を飛ぶ、ハトの翼を背中に生やした天使を見つける。
「「見知らぬモノを昔のように解体して、懐かしい場所へ押し込める夢を見た」と。後日、永津真天に収納魔法を初めて使わせた際、亜空間から出てきたのは大量の血と獣とも人ともつかぬ悲鳴であった。ザバハ河が赤く染まったあの日の出来事じゃ」
(それってまるで……)
書物に書かれたインクの凹凸すら指で判別できるようになった盲目の召喚者が反応する。聖なる大河が赤く染まる時は神罰の下る兆しだと、この国の宗教聖書が厳かに語っていたことを思い出す。イメージが湧きたち、鳥肌が立つ。
「これでもわしは光の魔法使いの端くれ。同じ系統の魔法を使う弟子らを従え、永津真天のもつ亜空間に光学迷彩と光核膜を施した。無論本人には伝えていない。収納魔法のための亜空間が血肉でほぼ埋め尽くされていることを知っているのはこれで、わしと弟子以外にいなくなった」
召喚者小貝の目は別の絵の中を彷徨う。
血の河の絵の近くにある油絵には、人とブタを切り裂く天使の絵。そしてその傍で祈りを捧げる人々。後光に照らされた神が人々に近づいている。
「永津真天には読ませておらぬが、とある古文書によれば、収納するための亜空間の大きさは、その術者の〝心の闇〟に比例するという」
賢者は燭台の灯で不気味に光る眼を朱莉と晴音に向ける。
「本人も含め、アントピウスの誰にも伝えていないことを言う。……永津真天。かの者の亜空間の大きさは測定不能。……闇が、深すぎるのじゃ」
「「「「……」」」」
「封印されし言葉を人が選ぶのではない。封印されし言葉が人を選ぶのじゃ」
風もないのに、館内の燭台という燭台の灯火がジリジリと音を立てて揺れる。「ふう」とジブリール館長は椅子に腰かける。
「言葉に選ばれるだけの闇……心当たりが、あるのじゃろう?」
優しく、館長は朱莉と晴音に言う。発汗と呼吸がおかしい二人を椅子に座らせるよう館長は小貝と田久保に指示する。二人は朱莉と晴音を座らせた後、急いで湯を沸かしてお茶を入れる。その間朱莉も晴音も何も言わない。茨は震え、眼帯は泣いている。
「壊れてんだ」
湯が沸き、茶が入り、それをすすっているうちに、茨がようやく重い口を開いた。
「それは、この世界に来て精神を病んだという意味じゃろうか?」
「ちげぇよ。そんな最近のことじゃねぇ……ずっと前から、心が壊れてる」
眼帯は、湯飲みを手にしたまま動かない。小貝と田久保は湯飲みを顔に近づけたまま、次の言葉をハラハラしながら待つ。
「ずっと前に、お兄ちゃんは壊れた。……壊されたんだ」
「?」
「……………………………………………………………………………………」
あるところに、思いやり豊かな、明るい少年がいた。
それはどこにでもいる普通の、朗らかな少年だった。
ある休日の午後、少年が両親と暮らす戸建ての二階でいつものように学校の宿題をしていたところ、一階で尋常ではない家族の叫び声と大きな物音がした。
少年は驚き、当然気になり、部屋を出て階段を下りていく。
「ムサくてブタみてぇに大きい男がいきなり家の中に立ってたんだ。そりゃマジで凍り付いた。今思い出しても、近くで嗅がされたあの口の臭いは忘れねぇ。くそ甘ったるくてとにかく気持ち悪ぃ…………マジでブチ殺したい」
少年の住む家に不法侵入したその男は、違法薬物の常習者だった。
その薬物を買うカネを求めて、刃物をもった男は少年と少女の暮らす家に押し入り、そして一階にいた少女と鉢合わせた。
少女と一緒にいた両親を見た侵入者は、少女をすぐさま人質に取った。
そこに、少年は降りてきてしまった。
「お兄ちゃんに包丁を向けてクソブタ野郎は言ったんだ。ウチの親を縛れって」
怯える少年は震えながら男の言う通りにした。台所を探して、どうにか食品用のラップフィルム数本を少年は見つけてくる。それを使い、両親の手足を言われるがまま縛りあげる。
少年の両親はその後、男に脅され金目のものの在りかを全て吐く。
少年はその場所に向かい、通帳や指輪、時計、財布を持って男のもとへ戻ってくる。
「お兄ちゃんが、「ごめんなさい。もう許してください」って言ったんだ。そしたらよ……そしたらよ、アイツ、あのクソブタ野郎……」
感情が噴きあがり、茨は顔をクシャクシャに歪める。眼帯は泣くまいと目を大きく見開き、けれど大粒の涙を堪えきれず、こぼしてしまう。左手足を失った少年は強張り、盲目の少女は涙の匂いで喉が詰まりそうになる。
「お兄ちゃんによぉ……お父さんと、お母さんを殺せって、いいやがった」
召喚者二名と賢者が凍りつく。
在りし日の少年の家に侵入した男の正体は、闇医者。
人身売買と臓器売買を手掛ける大陸マフィアの下で働いていた闇医者。
生きたままの子どもから臓器を摘出する残虐行為に心が壊れそうになった闇医者は、マフィアから貰える少量の薬物で心を麻痺させてセコセコと働いていた。しかし薬物の摂取量は次第に増える。
そしてとうとう大量に、男は組織からクスリをネコババしてしまう。それはもちろん組織にバレ、男は命を狙われることになる。
逃げる。追われる恐怖がひどすぎて、それを打ち消すために、掠めたクスリでハイになる。そしてまた逃げる。怯える。ハイになる。逃げる。怯える。ハイになる……。
クスリはこうして瞬く間に無くなった。
男はなおも逃げる。そのうちに脳はイカれ、何のために逃げているのか分からなくなる。とにかくクスリが欲しい。しかしクスリを手に入れるには金がかかる。ということは金があればクスリも手に入り、すべてが解決する。幻想が暴走して止まらなくなり、男は戸締りが不十分だった家に転がり込んだ。そして〝今〟がある。
こうして、男はカネと金目のものを手に入れた。
ついでに、子どもと出会う。それは解体される商品と同じ、純粋無垢な子ども。
それだけのはずだったが、
(俺はもう終わりだ。だけどせめてその前に)
何もかもが追い詰められていることをふと思い出した闇医者は、自分の仕事を、人生の辛さを誰かと共有したいと思った。
そして選んだ。目の前の少年を。
「ウチが人質になっていたせいで……お父さんとお母さん、お兄ちゃんに、ウチのこと頼むって言って……ううっ、うっ……うう……」
男は少年に、台所から包丁と酒を持ってくるよう命ずる。
その男の熱心な指導のもと、少年は、両親を、生きたまま、解体した。
「はあ、はあ、はあ……」
「お兄ちゃんやめて!!お父さんとお母さん死んじゃう!!」
ズッズッズッ。
長掌筋、橈側手根屈筋、円回内筋、上腕筋、上腕二頭筋。
「はあ、はぁ、はぁ、はぁ……」
「お兄ちゃん!!お願いだからやめて!!!」
上腕三頭筋、頸板状筋、烏口腕筋、三角筋、僧帽筋、大円筋、肩甲挙筋。
スッ。ゴリ。ゾシュッ。ズッズッズッ……
「お兄ちゃん、お願い……」
斜角筋、大胸筋、広背筋、前鋸筋、外腹斜筋、腹直筋鞘、中殿筋。
「……………………」
大腿筋膜張筋、腸腰筋、浅鼡径筋、恥骨筋、長内転筋、大腿直筋……
情熱的な闇医者に少年はひたすら教え込まれ、ひたすら少年は切れ味の悪い刃物で両親を解体し、ひたすら少年は全身の解剖学名を血まみれで覚えさせられた。
「うあああああっ!」
アルコールも手伝い指導に熱の入る男の隙を見て、捕まっていた少女は死にもの狂いで逃げ出す。今さらパニックになった男は慌てて少女を追いかける。
しかし、男は家から出てこなかった。
「何が、あったのじゃ」
上ずった声で賢者が尋ねる。
「わからねぇけど……お兄ちゃんが、たぶんヤった」
「?」
男は家から出てこられなかった。
少年は男が玄関の扉を開けて少女を追いかけようとした瞬間、後ろから刃物で男の背中を突き刺す。それは深くは刺さらなかったものの、驚いて振り返った男は足をもつれさせて転倒し、頭を強く打ち、その場で気を失った。
「ウチ、近所の家に逃げ込んで、警察が来るの、待ってた。……お兄ちゃん、きっと殺されちゃってるって思いながら……でも、そしたら少しして、お兄ちゃんだけ出てきたって言われた。燃える家から……」
「「「!?」」」
玄関から両親の〝解体現場〟に戻った少年は、ラップフィルムと酒瓶と新たに父親のオイルライターを持って男のもとに戻って来る。〝ボッチ〟の〝クッキング〟が始まる。
その一、背中を刺されたまま昏倒している男の両手をそれぞれ、ラップフィルムでグルグル巻きにする。男の両手は文字通り〝豚足〟になる。
その二、酒を男の全身にかける。暗い男をより〝明るく〟するため。
その三、男の顔面をラップフィルムでグルグル巻きにする。タイミングよく目を覚まさせ、男の苦味を引き出すため。
その四、息苦しくて男が目覚める前に、玄関の扉を開け、父親のオイルライターで男に火をつける。玄関の扉をしめて、あとは待つだけ。
少年の調理が終了する。
血まみれの少年が家の外に出てきた後、手の自由と呼吸の自由を奪われた男の断末魔の声ならぬ悲鳴が家の中から上がり、やがて燃え盛る炎が家屋を舐めはじめ、家および少年の両親の残骸がことごとく燃えた。
先に逃げた少女の証言と犯人の男の素性から、犯行は男による放火殺人及び自殺と結論付けられる。少年が両親を解体し、犯人の男を始末した真相は、闇に葬られた。それがたとえ事実だとしても、あまりに常軌を逸しているために。
「お兄ちゃん、そのあとはもう、前と違って……人形みたいになっちゃった」
小学五年生の少年と少女はその後、山奥で暮らす母方の祖母の家に預けられる。そこで四年の月日を送ったのち、祖母が息を引き取る。祖母の残した遺産の相続を条件に、十四歳になった少年少女は遠戚の家に転がり込むことを許される。
その家は事件のあった自宅と同じ街にある。
誰も彼もが惨劇の記憶を消し去ろうとしている街。
そんな中、当時のことを細かく記憶し続けていたのは、被害に遭った少年少女二人とその幼馴染の少女一人ぐらいのものだった。幼稚園からずっと少年と一緒だった幼馴染は四年間だけ少年と引き離されたが、再び少年と巡り合えた。
そしてその二年後、十六歳の高校修学旅行の移動中に、少年と少女ら三人は異世界に引きずりこまれてしまう。
「ウチらを引き取ったくせぇジジイとうっせぇババアがお兄ちゃんのことメチャクチャ嫌っているのに、お兄ちゃんは全然気にも留めないで、いい子みてぇなのをずっとやってる。それがマジでワケわかんなくて、ウチは全員から距離をとるようになった」
少年の双子の妹は、双子の兄が理解できず、兄を理解しようとしない義理の両親も理解できず、理解していないくせに理解して受け入れたかのように兄にベタベタしてくる幼馴染も理解できず、ナイフのように尖っていった。
しかしそれも、異世界で起きた兄の死で霧消した。
残ったのは、幼馴染だけ。
双子の兄が死んでまもなく、この話を妹は、幼馴染にした。幼馴染は少年の異変という、欠落していたパズルの一ピースを手に入れて以来、ずっと双子の妹と一緒にいる。そして双子の妹が刺青を彫り寿命を贄にするのと同時に、幼馴染は目を抉り猛禽の王への贄とした。
「お兄ちゃんはずっと壊されっぱなし……マジ……マジで許せねぇ。お兄ちゃんを壊した奴は全員ぶっ殺す」
俯き、肩を小刻みに震わせる朱莉を、晴音が抱き寄せる。田久保はハンカチで涙を拭き、小貝は湯飲みを持ったまま愕然としている。沈痛な表情のジブリール図書館長は首を小さく横に振る。
「生きておるよ。永津真天。あの者は必ず生きておる」
やがて館長は立ち上がり、茨と眼帯の召喚者に近づいていく。膝を床につき、二人の膝にそっと手をのせる。
「だからおぬしらはまた巡り会える。そして会ったその時は、強く抱きしめて伝えるといい。「生きていてくれてありがとう」と」
老人は言って、二人に波紋のような微笑を向ける。その笑みと、膝にのせられた手のぬくもりが、張り詰めた二人の心をほぐしていく。二人は頷く。
その夜、茨と眼帯は久しぶりに、深い眠りに就く。
少女たちの夢はアルビジョワ迷宮の暗い血まみれの部屋ではなく、迷宮の外に続く。鬱蒼と生い茂るシータルの森の中、焚火の前で寝ずの晩をしながらナイフでシカの角を加工するナガツマソラの姿がそこにあった。
Meteor imber
amare




