一話 「神様からご挨拶を」
—魔法科学の世界より挨拶を—
一話 「神様からご挨拶を」
朗らか。そう評されるが本質は怠惰と楽観でしかない。ポジティブとそう言ってくれたっていいのだがね?
さて、そんな俺は今まさしく人生最大の危機を迎えつつある。楽観的で怠惰な俺が危機と呼ぶそれはなにか?
「プーッ 」
眼前に広がるはずの信号と道路、そして青空がどこへやら。二つのライトとナンバープレートしか見えない。
いわゆる交通事故が起きる0.1秒前。まさしく危機だろう?……ふむ、こういう場面はスローモーションに感じると聞くが実際そう感じるな。
尤も悠長に文章構築なんかはしていない。すべてが直感による思考だ。
ドンッ
ベキッ
嫌な音が体から鳴り響く。耳ではなく、体で聞こえる。
その痛みが走るよりも先に俺は目の前の世界を目に焼き付ける。事ここに至っては楽観的はなれない。
天国とか異世界とか、そんなことを妄想して逝けたらいいものを……肝心な時に楽観的になれない。
……まぁいいか。いつかは死ぬ。それがいまだったってだけさ。
逆さまになった世界を最後に上からアスファルトが降ってきた。それが頭を潰して遂に何もなくなった。
……。
……おや?何もなくなるはずだよな?
エピクロス曰く、死の先に我々はいないはずだ。では、どうして私はまだ意識があるんだ?
体をひねってみる。しかしその指令、信号が見事に空回りしたのを感じる。首から下が……いいや?思考以外何もない。
……死後の世界がある!という楽観と、もしや首の骨を折っただけで生きている可能性があるという極めて現実的な2択が出てくる。するとどうだろう?すべてつじつまが合ってしまった。体が動かせないのは首の骨が折れているから。思考ができるのは頭が生きているから。……まぁ死後の世界かもしれないな!2択だろう?つまりは50パーセント。どっちでもいいなら前者だ!
「君の楽観が一癖も二癖もあるのは、それ以外をも想像できるところにある。」
……おや、やはり死後の世界らしい。神様の声が聞こえてきた。
「想像、と呼ぶには余りにも鮮明。理解とよぼう。けれども本質はやはりつかめていない。まぁそれは人だから仕方がないさ。」
何と答えよう?どうやって答えよう?残念ながら口が動かないんだよね……。まぁ神様なら心の声の一つや二つ読み取れるよね!
「半分正解。不正解なのは私は神様とやらじゃないよ。私視点ではね。」
ああこれは。つまり私視点では神様という事ですね?ごきげんよう。何分高等教育も途中でして、礼節に至らない点もございますれば何卒ご容赦を……。
「いいよ。心が見透ける存在にとって礼節にどれほどの価値を感じると思う?」
全く持ってその通り!反論の余地もない!
……それで、私は異世界ハーレムを満喫できるのですか?
「残念ながら天国やら地獄やらは人が生み出した……異世界ハーレム?」
おや?ご存じないのですか?
「あー、なるほど。今は天国に代わって、加えて?異世界へ行くことになってるのか。……まぁ本質は変わらないなぁ。」
神を自称しない。そして全知全能とも言えなさそう。なるほど、神ではない死後の存在……。……わからないな。
「さて、実を言うと時間があまりない。相対性理論はご存じ?……ああ知ってるみたいだね?ウラシマ効果は?おお、それも知っている。よしよし、まぁざっと説明すると今ブラックホールの中にいるのに近い状態だ。時間は止まってはいない。止まっているようだがゆっくりと流れている。」
まるで独り言みたいだ。勝手に私の脳内を参照されて勝手に話を進められるのは何とも神様(暫定)には悪いが気味が悪い……。
「……悪いね。こうするほかない。さて、続きだが、君の機構をコピーして今からとある世界へ転送する。おめでとう、そう言った意味では異世界転生だ。詳しい理論は省くが、君は死んだ瞬間にその世界へと主観が映る。コピーされたその肉体に主観が宿る。」
で、魔王を倒してほしいと。
「そう、そしたら……いやちがう!魔王なんていない!……いやそうとも言えないか。まぁそこは端折るが、君はそこでとにかく生き続けろ。必ず何かが接触してくると思うから。やることはその時に分かる。」
随分と焦っているようで早口だ。もう時間がないのだろう。ああ、なら私も早めに聞いておかないと。神様。
どんなチートをくれるんです?能力とか?もしかして実はすでに持っていたり!?
「ああ、持っているとも。君は持っているよ。」
おお!それはずばり!?
「その楽観的な脳みそだ。」
——は?
次の瞬間。電流のように全身に痛みが一瞬流れた。
暗転。無——。
と瞬きするように目を開けるとそこには異世界が……いや森だ。まぁ異世界ではあるのか。しかし森が広がっていた。木、木、木。
幻想的な妖精の住まう森?いやただの森。富士の樹海とかそんな感じ。まだ薄暗いいかにもな迷いの森の方がファンタジーだが、そういう訳でもない、無機質な森が広がっていた。
まず起き上がって服装確認!なるほど裸ね?まぁ神様は俺の機構をコピーするって言ってたから、俺の機構に服は別にいらないもんね?
でも人間として服は残してほしかったなぁ……てかコピーって言った?コピーならそれは俺じゃないのでは……いや、われ思う故にわれありだ。神様を信じてとりあえず進もう!
続いて周囲を確認!分かってはいたが、木、木、木、美少女、木。
うーん、こっからどうしたものか。
まぁゲームなら木の棒拾って初期装備だよな?まぁ現実だけど。……現実?いや現実と感じるなら現実だ。
人間のHPなんてそこらの動物と比べたらたかが知れている。だが、槍の一本、鉄パイプの一本でもあれば途端に戦闘力は大型獣に匹敵する。
それらほどではないにしろ木の棒一本で大分色々マシになるし、とりあえず探して拾っておくか。……ふむ、これなんかちょうどよさそうだ。
で、美少女だが、どうしようかな。まぁ後回しでもいいよな。多分言葉とか通じないし。次に水かな?食料は数日なくてもまぁ何とかなるかもしれないが、水は3日だしね。
「×××××!×××××××!!!」
うおっ、なんか叫びだした。さっきまで口をぽかんと開けて案山子みたいに立っていたのに。
なにか色々言ってくるな。……ふむ。無知の知を得た。さてほっておいて……いや?神様は「何かが接触してくる」って言ってたな。もしかして彼女か?文脈的に大分後の方かと思っていたんだが……。
こういう時は身振り手振り!文化にどれほど差異があるかわからないが人型ならある程度は共通してるだろう。ダメもとでいろんな言語を使ってみよう。
「はろー!ぐーてんたーく!にーはお!」
「××っ××××!?……××××××?」
ひとこと目は驚いたように、最後の方は不思議そうに。んー喋ったことに驚いて、なんて言ってんの?って聞いてる感じかな?
しかしどう身振りで言葉がわからないことを伝えよう?バッテンとかマルとかのジェスチャーはどこの国でも通じるだろうが、ここ異世界だからなぁ通じるかどうか。
そうこう悩んでいると彼女は手に持っていた鞄?を広げ始める。
まさか辞書でも出すのか?と思っていたらそのまさかであった。
……いやいやいや。多分その辞書にも載ってませんって。異世界言葉なんだから記載あるわけ……いや?
こちらからは観測できないが、向こうからは観測されているなら話は別か。
その中身にはどんな風に書かれているかを知りたくて近寄ってみると途端に本が光りだす。
「うおっ!」
びっくりして身を反射的に引く。が、それに?彼女に?敵意を感じないので好奇心が勝ってまたゆっくりと近づいてみる。本からはホログラムのように円形の波形が出ている。地球でも見たな。音声波形のそれだ。
なるほど?録音、翻訳のような機能のある魔導書ってやつか。ならとりあえず何か語ったほうがいいかな?
「初めまして!俺の名前は「相馬 叶」!西暦2009年3月30日生まれ、出身地は日本国埼玉県さいたま市!以下個人情報のため機密!ある日時速60キロで走るトラックという鉄の塊にぶつかって死んだ!でも神様がなんか生き返らせてこの世界に送った!使命は不明!好きな食べ物は馬刺し!長所と短所はともに楽観的な脳みそであります!」
体育会系よろしく元気いっぱいに自己紹介。長所と短所は神様に教えてもらったことを引用する。
「……。」
彼女はぽかんと口を開けて不思議そうにこちらを見ている。体育会系のノリは苦手だったかな?同志よ。俺もだ。
目線を魔導書にやると波形はまだ小さく揺らいでいる。
彼女は口をパクパクさせながら手でぐーぱーぐーぱーして何かを俺に訴えかけていた。……もっと話せということかな?
しかしこれといって話すことがない……言語分析をしているのなら有名な著書なんかを朗読した方がいいかもしれないな。
そこで俺は声高らかに語り始める。
「神は初めに——」
聖書を覚えている限り暗唱する。もちろん全ては暗記できていないので、途中からは大分意訳して旧約聖書から始まりついには新約聖書まで言い終えた。
聖書を選んだ理由?なんたって世界で最も読まれている本らしいからね。
しかし、まだ足りないようで女は相変わらずパクパクさせながら手でぐーぱーぐーぱーしている。申し訳なさそうなのは伝わる。が、しんどい!のどがもうカスカス!
語り続けるというのはかなりの有酸素運動のようで息が上がってしまっている。けれどもここが踏ん張りどころ。
「ツァラトゥストラは——」
続けてニーチェの著書について覚えてる限り暗唱し、わからない所はやっぱり意訳して語り続ける。
なぜ聖書の後にニーチェかって?ちょっと神様に恨めしい気持ちが出てきたからさ。言葉はなあなあで済ませるのが異世界だろうが……!
ある程度語り終えて、つかれて座り込む。
すると解析が終わったのだろうか。青い波形が大きく揺らいで消えてしまった。
彼女はただの本をじっと見つめながら目線も合わせずに問う。
「服 着ていない。何故?」
「まぁそうだよね?」
至極まっとうな質問だが答えを持ち合わせていないので困った。




