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余命宣告を乗り越えた幼馴染の愛が重い  作者: ミソネタ・ドザえもん
第十三章

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79.全てを

 いやはや、奏ったら、中々に鋭い指摘だ。

 どれくらい鋭い指摘かと言えば……賢い俺が思わず、確かに、と唸ってしまうくらい、鋭い指摘だった。


「……困ったなぁ」


 しかし、奏のお腹を勝手に見れないとなったら少し困った。

 だって、奏は俺にお腹を見せることを拒んでしまっている今の状況で、勝手に見る以外の方法で、俺はどうやって彼女のお腹を見ればいいか、わからないから。


「……奏。どうしてもお腹を見せてくれない?」

「嫌」

「絶対に?」

「嫌」

「どうしても?」

「いやっ!」


 奏は……よく見たら顔を真っ赤にさせていた。

 抗議の声にも熱がこもり始めている。


「れ、冷静に考えて……あっくんにお腹を見せるだなんて恥ずかしくて無理」


 奏は何やら呟いていたが、声が小さくて聞き取れなかった。


「……うーん。駄目か」

「駄目。絶対に駄目」

「……奏。お腹を見せてくれたらお金をあげる、と言っても駄目?」

「あっくん、そういうのはジョークでも金輪際絶対に言わないで」


 さっきまで浮ついた声をしていた奏の声のトーンが下がった。


「お金で人の体を買うなんてこと、絶対にしたら駄目だから。ありえない。あっくんでもありえない」

「……ごめん」


 奏のマジ(本気)トーンに、俺は謝罪することしか出来なかった。

 俺の思いつきの提案のせいだが……リビング内には異様な空気が流れていた。

 奏と二人きりで静かな空間はいつも居心地がいいのに、今日はすこぶるここから逃げ出したくてたまらなかった。


「……あっくんは」


 そんな雰囲気を壊すかの如く、奏が口を開いた。


「どうして、あたしのお腹を見たいだなんて思ったの?」

「……どうしてって」

「それも。人の衣服を強引にはだけさせて見ようとするくらいに」

「……だって」


 俺は項垂れた。


「……人の人生って、良いこともあれば悪いこともあるじゃないか」


 俺は少し考えて、静かに語り始めた。


「例えば、道行く人に『日本人でなってみたい人はいますか』なんてインタビューをすれば、インタビューに応じた人は自分がなりたい人の名前と、どうしてその人になりたいと思ったかを答えるわけじゃないか」

「それが?」

「……それで、どうしてその人になりたいと思ったか。という質問に対しての回答って大体、なりたい人の成功体験を羨ましいと思ったから、になると思うんだよ」

「まあ、そうだろうね」

「でも……それって間違っていると思うんだよ。俺は」


 奏は……いきなりこいつ、何を言い出すんだ、と言いたげな顔をしていた。


「だってさ。人の人生って、成功体験だけで紡がれるものじゃないだろう?」

「……」

「人の人生ってのは大抵、成功体験と同じくらいの失敗体験がある。そして、誰しもが憧れるような強烈な成功体験を持っている人って言うのは、大抵がそれと同じくらいか。それ以上の悲痛な失敗体験を持っているものだと思うんだよ」

「……そうかもね」

「……だから、憧れの人の成功体験の部分だけを引き合いに、その人になりたいなんて言い出すのは……その憧れの人に対して、酷く不誠実な考え方をしていると思うんだ。俺は」


 奏は黙って俺を見ていた。


「……相手の人生を百パーセント知らない。成功体験も霞む程の、当人の口からは決して語られない程の辛い失敗体験を知らずして、その人になりたいなんて言うのは……成功者の人生の甘い蜜の部分だけを掬いたい乞食と同じようなものだと思わずにはいられないんだ」

「……」

「だから……俺は、特別な人の人生は全てを知りたいんだ」


 俺は奏を見つめた。


「君のこれまでの人生に何があったか。全てを。知りたいと思っているんだ……」


 ……それが、家族同然、特別な相手とこれからも特別な関係でいたいと願う、俺の望み。


「……だから、君のお腹を見たい。お腹の傷を見たい」


 奏は一瞬、俺から目を逸らした。


「俺達が離れ離れの間に、君の身に起きた全てを知りたい」


 しかし、俺は奏を見つめ続けた。


「君がこれまで味わってきた苦しみを知って、君の命が紡がれたことがどれだけ凄いことなのかを共有したい」


 奏を……見つめ続けたのだ。


「……もっと君を知りたいんだ、奏」


 ……奏は俺の言葉に心を揺さぶられたのか、上目遣いに俺を見た。


「……でも、これを見たらあっくんはきっと嫌な思いをする」

「……」

「……」

「…………」

「…………」

「……するかもしれない」

「し、しないって言ってよっ!」

「無理だよ」


 俺は……俯いた。


「だってそれは……俺が君に何も出来なかった証でもあるんだから」


 結局俺は、あの時も今も、奏に何もすることが出来ずにいる。

 奏のお腹の傷を見ることは、俺の無力の証明。それを見て、辛い気持ちにならないはずがない。


「……自らの無力さを実感する時は、いつも苦しいし悲しいし、辛い」

「……」

「でも……それくらいの失敗体験を味わうからこそ、俺はより大きく成長出来るようになると思うんだ」

「……」

「……今度こそ、君を救えるような人になれると思うんだ」

「……あっくん」

「奏……」


 俺は顔を上げた。


「だから。だから、奏。お腹の傷を見せて」


 奏は……トロンとした目で俺を見つめていた。


「君の人生を見せて。君の人生を……背負わせてくれないかな?」


 俺の言葉に……。


「はい……」


 奏は吐息交じりに答えてくれた。

書いてるこっちが恥ずかしくなったよ

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― 新着の感想 ―
これでこいつプロポーズのつもりないってマ? あっくんを裁けないの現代司法の敗北なんじゃ……。
この会話! これで実は色気ゼロ! あっくんの不動心は『駄目だこいつ…早く何とかしないと…』といいたくなるレベルでヤバいのかも(^_^;) 奏ちゃんもそれでいいの!?とかも思ったけど、ここまで誠意溢れる…
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