55.なんだこれ……
……それにしても、奏はどうして、俺にこれからもそばにいてくれるのか、などと尋ねてきているのだろう。
確かに俺達は、先日、互いに互いを特別だと思っていることを理解し合えた。
それは、俺達が小さい頃からの幼馴染であることもそうだし……何より、一時、苦楽を共にした仲だから。
つまり、奏と俺の関係は……所謂、戦友のそれに近い。
本当にそうなのだろうか?
戦友とは辛い仕事をともにした仲間のことを言うはず。
しかし……俺達がともにこなした行為は、辛いものではあったが……仕事とは到底呼べるものではなかった。
であれば、やはり俺達の関係は戦友とは呼べない。
……そして何より、一時辛い仕事を共にした如きの相手に、ずっとそばにいてほしいなどと……普通は頼むことはしないだろう。
……俺の手を握り、肩に頭を乗せている彼女は、一体今、何を考えているのだろう?
俺の答えを待っているのか。
それとも、ただ今の時間が暇なだけなのか。
奏は何も言ってくれない。
……色々頭を悩ませて、真っ先に浮かんだ疑問は解消されていない。
しかし……その疑問と一緒に考えていた奏の問いに対する答えは、固まった。
「ずっと一緒にいるに、決まってるじゃないか」
今、俺が発した言葉が……質問した時、奏が望んでいた答えかはわからない。
でも……これで良かった気がしていた。
「……本当?」
俺の手を握る奏の力が強くなった。
「あっくん。あっくんは本当に、あたしとずっと一緒にいてくれるの?」
「うん。ずっと一緒だよ」
「……ずっと一緒って言葉の意味。あっくん、本当にわかっているの?」
奏の声は少し震えていた気がした。
「わかっているに決まってるじゃないか」
「……じゃああたし、これからはずっとこの家に住むよ?」
「いいじゃないか」
「ずっとあっくんと手を繋いだままでいるよ?」
「いいじゃないか」
「あっくんと一緒にお風呂にも入るし、トイレも……。ずっと一緒にいるよ?」
「いいじゃないか」
「だ、駄目だよ、そんなの……っ」
奏が俺の手をバッと離した。
顔は何故か真っ赤だ。
……一体、何故?
「……だって、ずっと手を繋いでいたら、お料理作れないじゃない」
ああ……そういうことか。
「それは残念だ」
「……うん。残念だね」
俺達はしょぼんとしあい……しばらくして、高垣さんとの待ち合わせに向かうため、家を出た。
道中、ふと俺は気付いた。
……あれ、さっき俺、勢いでとんでもないことを宣っていたような?
まあ、そんなはずないか。
だって俺、頭良いし。学年一位だし。
「あっくん。あっくん」
電車のホーム、奏に声をかけられた。
「待ち合わせの喫茶店の最寄り駅に着いたら、コンビニに寄りましょう?」
「え? ああ、うん。良いけど」
唐突な提案だった。
奏は一体、コンビニに何の用があるのだろう。
まあ、コンビニなんて用がなくてもふらっと入る場所だが……誰かと待ち合わせの前に立ち寄るのは少し違和感もある。待ち合わせ時刻に対して、少しギリギリだし。
「……あっくん。この前の飛行機の写真のSDカードを持って来ているんでしょう?」
「え? ああ、まあ」
今日、高垣さんに会う予定を取り付ける際、奏はこの前の写真のデータを渡すことを条件に約束をしてくれた。
だから、SDカードを持参してきたわけだが……。
「それがどうしたの?」
「折角だし、一番良い写真をコンビニでプリントして渡してあげようよ」
「……ああ」
「その方が、綾香ちゃんも喜ぶ気がするんだ」
「……そうだね」
まもなく駅のホームでアナウンスが響き、ホームに電車が滑り込んできた。
「それじゃあさ、奏」
「何……?」
「目的の駅に着くまでの間、二人で……どの写真をプリントするか、決めていようよ」
「……うんっ。いいねっ」
俺達は電車に乗り込んだ。




