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余命宣告を乗り越えた幼馴染の愛が重い  作者: ミソネタ・ドザえもん
第八章

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40.似たもの同士

 しばらくして、キッチンにいる奏の母から男三人に召集がかかった。

 どうやら、料理を作り終えたから運んでほしいらしい。


 俺達はせっせと料理を運び、リビングにある長テーブルいっぱいに所せましと料理を並べた。


「では、一ノ瀬家と萩原家の再会を祝して、乾杯」

「かんぱーい」


 奏の父の号令により、俺達は手にしていたコップをカチンと鳴らしあった。

 大人も交じった宴会だったが……皆が手にしていたコップの中見は、お茶かオレンジジュースか、コーラ。


 俺達は未成年だから飲酒出来ないし、両母親はお酒が苦手。そして俺の父は帰りの車の運転があるためお酒は飲めず。


「あはは。久しぶりの再会の場なんだから、お酒は控えるよ。……ははっ」


 そういうわけで、場の空気を読んで酒を控えた奏の父の姿は……どこか寂しそうに見えた。


「それにしても、あっくん。すっごく成長したわね」


 宴会の場も盛り上がってきた頃に、奏の母に言われた。


「あはは。……まだまだですよ」

「そうそう。まだまだ、まだまだ」


 母がウザ絡みをしてきた。


「そんなことないと思うわよ? すごい頭良いんでしょう?」

「……勉強なんか出来たって」


 結局、俺はまだ何も成しちゃいない。

 場の空気を壊したくなくて、最後まで言葉を発することは出来なかった。


「ストイックねぇ。本当に」

「そうなんだよ。あっくんはストイックなんだよ」


 ホクホク顔で奏が言った。


「……あらあら。ウチの子ったら、自分のことのように喜んじゃって」


 そんなホクホク顔の奏に向けて、奏の母は怪しく微笑んだ。


「……お母さん?」

「あっくん、覚えている? ウチの子と病室で最初に会った日のこと」

「お母さんっ!?」


 取り乱した奏の姿は、何故かとても新鮮だった。


「……覚えてますけど」


 というか、忘れた日は一度だってありはしない。


「あらそう。……うふふ。なら、ウチの子、あの日あなたが帰った後、大泣きしたことは知っていた?」

「え?」


 そうなの?

 奏を見ると……。


「……あぅぅ」


 彼女は両手で顔を覆っていた。ただ、手で覆えなかったために見えている耳は、茹蛸のように真っ赤だった。


「なんで泣いたと思う?」

「……さぁ?」

「それはね。この子、あなたともう会えないと思ったからなの」

「もうやめてぇ……」

「自らの変わり果てた姿をあなたに見られて、幻滅されたと思ったのね。あたし達は気付かなかったけど、泣き叫んでいたこの子曰く……一瞬、あなたの顔がひきつっていたそうなの」


 ……確かにあの日、引きつった顔を見せないように取り繕うと努力はしたが、ショックが大きく、どこまで誤魔化せたかは自信がなかった。

 傍で俺達の様子をうかがっていた奏の両親はともかく、当人には、気付かれてしまっていたのか。


「……ごめんなさい」


 そして、その結果俺は、奏を深く傷つけてしまった。

 罪悪感で胸が締め付けられた。


「あっくん。何を謝る必要があるの?」

「だって……」

「……そうだよ。あっくん。謝る必要なんてないよ」


 奏が加勢してきた。


「……お母さんから、あっくん達と面会するか尋ねられた時、あたし、最初は拒んだの」

「……そうだったんだ」

「そりゃあそうだよ。……闘病途中、時々姿見で自分の姿を確認してさ。その度、変わっていく自分の姿に、何度も絶望した」


 ……自分の知らないところで、彼女が深く傷ついていたことを知ることは、何故だか自分のことのように苦しかった。


「薬の副作用で苦しんだり、病気で文字通り血反吐を吐いたり……そういう生活を送って、憔悴して、体も弱って、死も覚悟して……。それで、死を覚悟したら、狭まっていた気がした視界が少し開けた気がしたの」

「……」

「……死って、動物には平等に訪れるものなんだなって気付かされた」


 ……誰の口も挟める空気ではなかった。


「……でも、そう気づけたからこそ視界が開けたんだと思う。死んで元々。そんな気持ちになれた。要は開き直れたの」


 奏の独白は続く。


「そして、開き直れたからこそ……君ともう一度会いたいと思ったの」


 ……どうして、俺だったんだろう?


「これでも一応、色々覚悟していたつもりだったんだ。君に酷いことを言われることも。君に罵倒されることも。絶交されることも。嘲笑されることも全部。全部……」

「……そんなこと」

「そう。君はそんなことをしなかった。……君はあたしの姿にショックを覚えながらも、あたしを励ましてくれたの」


 奏は微笑みながら、俯いた。



「でも、あの時のあたしは、それが一番……きつかった」



 ……どうして?


「……あっくんの気丈な振舞が。子供らしくない振舞が……あたしの病状がそこまで絶望的だったんだ、と客観視させる機会をくれてしまったから」

「……っ」

「心の底では、あの病気も何とかなると思っていたんだ。時間が経てば苦しみから解放されて、遠い昔の思い出に昇華されると思っていたんだ。あたしはまだ、生きられると思っていたんだ」


 ……奏は目尻に指を走らせた。


「その結果、死への絶望が広がるとともに……そんな容体の人と、普通の人ならこれ以上関わりたくないと思うと思ったんだ。……だって、だってさ」


 奏の声が震え出した。



「あたしだったら、そんな人ともう絶対に会いたくないもの……っ」



 奏の顔は見えない。

 

「すぐ死ぬかもしれない人と深く関わったら、別れが余計苦しくなるだけじゃん……っ!」


 でも、泣いていることだけはわかった。 


「嫌なことからは逃げ出したいじゃんっ!」


 ……それだけわかれば十分だった。


「ねえ、あっくん!」


 やはり、顔を上げた奏は……泣いていた。


「どうしてあたしと定期面談をしたいと言い出せたの……?」


 ……俺は。


「君を励ましたいと思ったから」


 即答した。あの時の自分の気持ちは……もう何度も何度も、自問自答を繰り返してきた。


「どうして励ましたいと思ったの?」

「俺が励ませば、君を救うことが出来ると思ったから」


 俺が励ましたところで、奏を救えるはずもないのに。


「なら……どうしてあたしを救いたいと思ったの……?」


 ……そんなの、質問されるまでもない。

 決まってる。




「君が特別だったからさ」




 ……それ以上でも、それ以下でもなかった。


「……特別、か」


 奏は、俺の言葉を噛みしめているようだった。


「うふふ」


 奏の瞳は……。


「うふふふふ」


 ……。


「……ふふっ」


 微かに光が灯っているように見えた。


「そっか。特別、か。……ふふっ。嬉しいな」


 奏は涙を拭った。


「あっくん。あっくん」

「何?」

「あたしも、あっくんのこと……特別だと思っているよ?」

「そっか」

「嬉しくない?」

「……嬉しくない」


 俺は首を横に振った。


「そんなはずないじゃないか」


 俺がそう続けると、奏の顔がパーっと晴れた。


「あっくん。あっくん」


 今更ながら気付いた。


「何?」


 そういえば……今、このリビングには俺と奏以外にも、両親達がいた。


 両親達は……優しい微笑みを浮かべて、俺達の成り行きを見守っていた。

 間近で奏との会話を聞かれることは、特別恥ずかしいとは思わなかった。


 ……だって、この場だからこそ、奏とこういう話をすることが出来たのだと思うから。


 今、この瞬間、この場で起きた全ての事象が……。

 一度別れを経験し、二度と会えないと思えた彼女との再会後に起きたこの事象全てが……。


 とても、尊いものだと感じていたから。


「……ふふっ」


 奏は小さく微笑んだ。




「あたし達ってさ、似たもの同士だよね」

8章終了です

10万字というわけで、一区切りっぽい話を入れたかった。


あたかもヒロインの病み(闇)は浄化されたように見えるが、この作品の世界はコメディ。

つまり、次章からはまた病み落ちしている


評価、ブクマ、感想よろしくお願いします!!!

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