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余命宣告を乗り越えた幼馴染の愛が重い  作者: ミソネタ・ドザえもん
第六章

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23.運命

 お守りを買って、参拝も済ませた俺達は、神社からの移動を開始した。


「今度ははぐれないようにしないとね」

「そうだね。……えいっ」


 どこか楽しそうな奏は、俺の右手を掴んだ。


「うふふ。これならはぐれないで済むよね?」

「……奏」


 奏の左手の温もりを感じつつ、俺は思った。


「君って奴は、天才かい?」

「うふふ。そうでしょう?」


 茶番も終えて、俺達は商店の方へと進んでいった。

 相変わらず商店のある通りは、たくさんの観光客でごった返している。


 ……が、今度は奏と手を繋いでいるから、はぐれることはなかった。


「こっちの方は比較的人がいないよ」


 彼女を先導する俺は、商店を外れ、アーケード街に続く道の方を指さして言った。

 アーケード街の方も人はいるにはいるが……この商店通りに比べれば、手を繋がずとも歩くことは容易そうに見えた。


 俺達は無事、アーケード街に出た。


「ふう。もう手を繋がずに済むね」

「……手を繋がずに済む?」


 俺は奏から手を離して、彼女に微笑みかけるが……奏の瞳には光が灯っていなかった。


「さ。次はどこに行こうか」


 俺は奏の様子に気を留めることはなかった。この一週間で、瞳に光を失わせる彼女の姿にも見慣れてしまったのだ。


「奏?」

「……あっくんの馬鹿」


 ……馬鹿、だと?

 

「確かに、俺は馬鹿だ」


 奏との別れを経て、医師を目指して早数年。

 まだ子供であるものの、そろそろ結果の一つでも導かないといけない状況なのに、俺はまだ何も成していない。


 それが馬鹿でなくてなんだと言うのか。


「……むぅ」


 奏は難しい顔を作って、俺の先を歩き始めた。

 どうやら機嫌を損ねてしまったらしい。


 くそ。

 これも全て、俺の努力不足のせいだ……っ!


「待ってくれよ、奏」


 俺は奏を追いかけた。

 しかし、早足で追いかけるものの……奏の歩調は速く、中々追い付かない。


 そういえば彼女、病気になる前は運動神経抜群だったな。

 病気になっている間はまともな運動は出来なかっただろうに……彼女の高い運動能力は、一切、錆びついちゃいないらしい。


「ま、待ってよー」


 なんて言っている場合ではない。

 俺は走った。

 このままでは本当に、奏を見失いそうだった。


 ……というか彼女、この辺の土地勘はあるのだろうか?


「か、奏ぇ……」


 ゼェハァと息を荒らしながら彼女を追うと、たどり着いた先は河川だった。


「あ、あっくん」


 橋の丁度真ん中、河川と高速道路。周辺の街の様子を一望出来る場所に、奏はいた。


「ここ、見晴らしいいね」


 ……こっちは額に汗まで掻いたというのに、中々呑気なことを言うものだ。


「もう機嫌は直った?」


 俺は尋ねた。


「嫌だなあ。あたし、不機嫌になんてなってないよ?」


 ……それは無理がある。

 しかし、ニコニコと圧のある笑みを浮かべる奏を前にしたら、苦笑することしか出来なかった。


「……予想してなかったなぁ」


 奏は橋の手すりに体を預けながら続けた。


「あっくんと、こんな見晴らしのいい場所で遊べるなんて」


 ……俺は返事をすることが出来なかった。

 胸が締め付けられるような思いだった。


 だって、それってつまり、奏は以前、俺と再会することを諦めていた。

 ……生きることを諦めていたって、ことだと思ったから。


 再会を果たしてから今日まで、奏はずっと微笑んでいた。

 今を楽しそうに生きている。

 一度繋いだ命だからこそ、一分一秒が尊く感じている。


 漠然とだが、そんな印象を受けていた。


 だから……彼女から生と死に関する言葉が飛び出すとは思っていなかった。


 いや、でもよく考えれば……奏は時々、『一度死にかけたから』と口にする。


 それだけじゃない。


『あはは。死んだと思った?』


 再会初日、奏は俺にそんな質問をしてきた。

 俺は奏の質問に、申し訳ないが同意してしまった。

 実際……もう二度と、会うことはないと思っていたから。


 その時の奏は……。


『だよねっ』


 そう言って、意地悪な笑みを浮かべていた。


 彼女は、自分でも自分はもう助からないと思っていたんだろう。

 いや、実際は生きているわけだから……一時期までは、そう思っていた、が正しいのかもしれない。


「……奏」


 今更な疑問が浮かんできた。




「君はどうして助かったの?」




 口にすると……中々に酷い質問である。

 これではまるで、彼女に死んでほしかった。

 そう言っているように、聞こえなくもない。


 奏は俺の質問に、目を丸くした。

 ……怒られるかな?

 臆病風に吹かれる俺に向けて、数秒後、奏は微笑んだ。




 ……その微笑みを見て、彼女が何を言うか、わかってしまった。




「運命だよ」


 ……やっぱり。


「……奏。茶化さないで教えてほしい」

「茶化してなんてないよ?」


 奏は笑った。


「でも、そうだな……。あたしが生きている理由か」

「……うん」

「まあ、簡単なことだよ」


 簡単なことか。


「あっくん、いつか言っていたじゃない。愛は人を救わない。でも、愛は生きるために必要不可欠だって」


 確かに、いつかそんなことを言った気がする。


「要は……あたしはなるべくして生きている」

「……」

「……諦めていた部分もあるけど、土壇場で、もう少し生きたいと思ったの」


 奏は苦笑した。


「土壇場で生きたいと思ったから、生きるために辛い治療に耐えた」


 彼女の治療期間の過ごし方を、俺は知らない。


「生きるために好き嫌いしないで、栄養バランスを考慮したご飯を食べた」


 でも、彼女の話を聞いているだけで……。


「そして、運よく生きるために必要な名医に出会えた」


 過去を語る彼女を姿を見るだけで、なんとなく理解出来る。


「……だから、あたしは生きている」


 奏が体験してきた出来事が、恐らく……尋常ならざる過酷さだっただろうことは。

 

「それは君の言う通り、今になって思うと、愛に救われたから起きた出来事ではなかったと思う」


 ……でも、奏はそれを耐え抜いた。


「お父さんとお母さんがあたしが生きるために治療費だったり、色んなことに……手あたり次第、お金を使ってくれたのも生きることが出来た理由」


 ……彼女の命は、彼女の両親が捧げた対価による部分が大多数を占めている。


「でも……それが生きることが出来た一番の理由じゃない」


 ……彼女の両親の功績は、どうやら奏の中では一番ではなかったらしい。


「……あたしが生きることが出来た理由は、前に語った通りだよ」


 橋の下、河川に……水上バスが走り抜けていった。




「あの日、去り際のあっくんの心配そうな顔が忘れられなかったから」




 奏の微笑みに、気付けば俺は見惚れていた。


「君を安心させたかったから、あたし……辛い治療にも耐えられて、嫌いな食べ物も食べて……名医に出会うという幸運さえも手繰り寄せることが出来た。名医に出会えるまで、生き抜いてやるって覚悟を決められたの」


 ……それが彼女の生きるモチベーション。


「……凄いね、君は」

「あっくん程じゃないけどね」


 奏の命は、両親からの深い愛。多額の費用。……そうして、俺への想いで紡がれている。


「……だから、留学なんて諦めて、あたしと大学ライフをエンジョイしない?」


 少しだけ、心が揺れた。

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― 新着の感想 ―
まぁ、手段と目的が入れ替わってる感はありますね。
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